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譲れぬ想い

 不条理を押しつけてくる非情な現実と、敵の大人げない煽りを前に、急激に上昇していく俺の”BE-POP”。


 このまま強化も何も出来ない状態でコイツとぶつかっていたら、確実に死んでいたかもしれないが、スキルを使用できる程度に回復した俺は、これで一気にカタをつけることにする――!!


「スキル:【凌辱に見せかけた純愛劇】――!!」


 スキルの対象は、当然の如く俺に平然と不条理を押し付けてくる眼前のビカルタコイツだ。


 装備品はこれまでのどの相手よりも1ランク上の装備を身に着けているが、NPCである以上強化した”プレイヤー”である俺の敵じゃない――!!


 そんな自信に満ちた俺を前に焦りを覚えたのか、ビカルタが裂帛の気合いとともに叫びながら、大剣をこちら側に振り下ろしてくる!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 それに対して、俺は剣を使って余裕で受け止めた――はずだった。


(ッ!?ヤバい……!!コイツの攻撃、普通に重いぞ!?)


 ガキィ……ン!と強烈な金属音が辺りに響き渡る。


 俺の予想に反して、ビカルタの攻撃はスキルを使っている俺ですらてこずるほど、強靭で重々しかったのだ。


 戦闘向きじゃないはずのNPCのくせに、装備の性能もあるんだろうが、それだけではない何らかの適性があるのか……とにかくコイツは、”プレイヤー”である俺を凌駕するほどに強い!


 このまま力で押し負けることを危惧した俺は、腹の底から力強く声を上げる――!!


「――"水"とはすなわち、クールに物事を受け流す在り方なり。……いなすぜ!天空流奥義:"イナセ流し"ッ!!」


 剣越しではあるが、俺は天空流奥義を唱えることによって、敵の攻撃を華麗に捌いたつもりになる――!!


「ッ!?天空流奥義、だと?……何かのスキルか!!」


 そのようにビカルタは驚愕するが、俺は天空流奥義なんて使えないので、実際は特に何も起きていない。


 だが、そんな相手の隙をつくかのように俺は大剣をはじくことに成功した。


 この勢いで隙だらけになったビカルタの胴体に斬りつけたかったのだが、相手は素早く俺から背後に飛んで距離を取る。


 ――性能では、若干俺の方が負けている。


 そのうえ、俺は別に剣技に精通しているわけでも何でもないので、このまま奴を追いかけて斬りかかったところで、さっきの光景の再現……下手したら今度こそ純粋なパワーで押し切られてしまうことは間違いない。


 ならば、今の俺に出来るのは、現在自分が唯一相手に勝っているこの勢いを殺さないように、ひたすらに相手の予期せぬ形で攻撃し続けるのみ!


 そう判断した俺は、ギュッと右手の剣を握りしめる――!!


「……喰らい、やがれェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」


 そのように咆哮を上げながら、俺は勢いよく剣をビカルタに向かって投げつける――!!


 強化された俺の筋力によって投擲された剣は、正鵠過たずにぐんぐんと猛スピードで奴へと迫っていく。


「ッ!?」


 持っていた武器をこのように使うとは思っていなかったのか、ビカルタは避けるのではなく、自身の大剣を用いてこれをとっさに防いでいた。


「ふん!どのような上位職かは知らんが、武器を捨てるとは愚かの極み!腕力では俺が……!!」


 自信満々に何かを言っているが、今の俺は止まらずに奴のもとへと疾走する。


 もともと、俺は剣なんて使ってないんだ。


 ならば、あとは今まで通り、自身のやり方でぶつかっていくのみ――!!


「――"光"とはすなわち、盛大にイキった在り方なり。……喰らえ!天空流奥義:"DQN(ドキュン)突き"ッ!!」


 回避不能にまで肉薄した俺による、正拳突き。


 その衝撃を受けて、ビカルタがカハッ!と声を低く漏らしてから、手にしていた大剣を地面へと落とす。


「複数の武器だけでなく、武術まで使える職業、だと!?……いや、それにしては、それほど痛くない……?」


 相手が瞬時に、俺の実力に対して疑問を持ち始める。


 だが、俺はそんな思考を許さないくらいに矢継ぎ早に連撃を仕掛けていく――!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 刹那、俺のアイテムボックスからそれなりの量の道具や武器が飛び出していく。


 それらは、ここに来るまでに倒したトサカ頭をはじめとする三人のNPCの持ち物を漁って手に入れたアイテムの数々であった。


 俺の指示でアイテムボックスから乱雑に放り出されてきたそれらの中から、運よくキャッチ出来たものを素早く掴んで相手に投げつけたり、叫びながらとにかく拳で殴ったり手刀で斬りつけたりしていた。


「なんだ貴様!ここまで来たのなら堂々と戦え!……それに本当に貴様、上位職なのか!?思ったよりも弱いぞ、お前ッ!!」


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


「……やめやがれ、この野郎ッ!!」


 当然だが、そんな願いを聞いてやる道理なんてない。


 その間にも俺は攻撃をやむことなく続けていたが、それをガードしながらもビカルタは先ほど地面に落とした自身の大剣を拾おうとする。


 ――だが、それこそが俺の狙い。


 案の定、奴は地面を見ながら驚きの声を上げていた。


「き、貴様……!!この煩わしい攻撃の数々は、このための布石か!?」


 奴が視線を向けた先、先ほど俺がばら撒きまくった道具や他の装備が、落とした大剣を埋めるような形で散乱していた。


 軽く困惑するビカルタを目にしながら、俺は内心で軽く笑みを作る。


 確かに、この町の自我に目覚めたNPCが特殊な存在には違いない。


 もしかすると、ある程度の職業の縛りもなく、剣であれ槍であれどのような装備でも使用できたとしても不思議ではない。


 ――だが、装備出来るからとはいえ、それを上手く使いこなせるかとなると話は別である。


 最初に山で出会ったコノタスという弓矢使いを基準に、俺は当初考えてしまっていたが、今思うとアイツはマリオに矢を当てたときにものすごくはしゃいでいたが、アレは本当にまぐれでただ純粋に嬉しかっただけなのだと思う。


 マリオの証言とそれから遭遇したすべてのNPC達から俺が感じた結論――それは、圧倒的な実戦経験の乏しさ。


 だからこそ俺は、コイツ等は例え自身の武器以外の装備を手にしても、それを使いこなすだけの熟練度はないと判断していた。


 案の定、ビカルタは俺の攻撃を受けているにも関わらず、他の剣や槍にも目をくれぬまま、他の道具や武器を足や腕ではねのけながら、何とか自身の愛用の武器を拾おうと躍起になっている。


 ここが勝負どころだと判断した俺は、さらに苛烈に攻撃を繰り出していく――!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


「……だから、やめろって言ってるだろコラァッ!!」


 ビカルタの拳を真正面から受けて、よろける俺。


 スキルで体力やら防御を強化していなかったら、今のは結構やばかったかもしれない。


 ……だが、それでも俺は自身の瞳に映る光を見て、確かな勝機を確信していた。


「――ッ!?あぁ、クソッ!なんて事だ……!!」


 ビカルタが頭を抱えて、そのように叫ぶ。


 奴がそう口にするのも無理はないだろう。


 見れば、地面に落ちた俺の剣と奴の大剣が、みるみる内に光の粒子となって消失していく……。


 自身が所持していたアイテムや装備品であっても、地面に落ちて一定時間経過すると消失するというのは、俺がかつて『過激な性描写のライトノベル』で味わった事だ。


 例えキキーモラさんの事を許しても、あの悔しさだけは一時も忘れたことがなかった俺だからこそ、コイツが武器を地面に落とした時に、咄嗟にこの作戦を思いつくことが出来た。


 それに続くように、散乱していた他の武器やアイテムも天に昇っていくかのように淡く輝き――やがて、その形を綺麗に喪失していった。


 そうして後に残ったのは、互いに譲れぬ想いを抱えた俺達のみ。


 得意の獲物をなくした奴に向けて、俺が拳を構える。


「さぁ、来いよビカルタ!――今ここで、決着をつけるぞッ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山賊という弱ステータスを補うために工夫して戦う展開は驚きがあって面白いのですが、ラノベを失った悔しさをきっかけに作戦を思い付いたのがなんとも(笑)
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