親玉との対峙
三人の装備品をあらかた漁り終えた俺は、この『ヒヨコタウン』の中心部へと向かう。
急いでいるため全部とはいかないが、それでも十分な量のアイテムを確保する事が出来た。
続けての連戦で気分が高揚してるのもあってか、幸いにも”BE-POP”の量も結構余裕がある。
そのため、俺は三人から奪った”剣”と”槍”を両手で同時装備した状態で相手に奇襲することによって、自分の事を異なる職業の武器を使いこなすとてつもない上級職だと誤認させ、精神的に優位なうちに勝利を収める方法を取っていた。
「ば、馬鹿な……!!剣士系と槍術使い系の職業は明らかな別系統のはず!!それを両方とも装備するなど、まさかコイツ……何らかの高位クラスの職業なのか!?」
「う、うろたえるな!!全員でかかれば、何とか出来る!!」
俺の姿を見たNPC達が、驚愕の声を上げる。
……いいえ、本当は高位どころか最底辺とされる”山賊”職です。
以前に『過激な性描写のライトノベル』という高位職専用のアイテムを、膨大な”BE-POP”を消費した果てに使用出来た経験があったため、NPC達が所持できるくらいの装備なら、多少何らかの制約があってもなんとかなるはずだと、確信していたからこそ出来た芸当だった。
そんな感じで圧倒的に優位に事を進めて何とかNPC相手に勝利を収めながら、俺は町の中心部に向けて進んでいく……。
山での襲撃を含めて、都合十人。
これまでに遭遇したNPC達は、今のところ全員倒すことに成功していた。
相手の戦力がどれだけ残っているかは分からない。
だがそれでも、現在町の中央広場で俺を待ち構えていた親玉らしき相手と直接対峙できる状況を作り出せるくらいにはなっている。
罠を警戒しつつも、確かな一歩を踏みしめながら俺は奴のもとへと向かっていく――。
『ヒヨコタウン』中央広場にいた親玉らしき人物は、大剣を背負った大柄筋肉質な男性の姿をしたNPCだった。
年のころは、30代半ばだろうか。
これまでの襲撃者は若い奴が多かった事と、どっしりと構えた態度と鋭い眼光から、間違いなくコイツこそがハルタ達『肝っ玉バイプス』というギルドを壊滅させたNPC達の親玉なのだと確信する。
それとは別にふと、俺はある違和感に気づく。
コイツから少しだけ離れた場所に、何やら大きな真っ黒い布で覆われた物体が置いてあるのだ。
それだけならとくに問題視するほどでもないかもしれない。
だが、俺が目を向けたとき、確かに一瞬だが動いた気がしたのだ。
……まだ戦える奴が隠れていて、こちら側に不意打ちか何かを狙っているのか?
でも、咄嗟に動くにはあれだけ大きい布だと、起き上がったときに絶対に動作に支障をきたす、下手したら視界が覆われていて何も見えないままになっていもおかしくないはずだ。
第一、こんな相手に疑問を持たせるような下手くそな隠れ方をするくらいなら、最初から数の利を活かして二人がかりで俺を迎え撃った方が確実だと思うのだが……。
そんなことを考えているうちに、親玉らしき男がこちらを値踏みするような表情で見ながら、重々しく口を開く。
「随分と、ゆったりした歩みだったな。……それが、貴様等強者たる”プレイヤー”の余裕とやらか?」
いえ、単純に素のステータスが弱すぎるだけです。
それに正直言うと、移動している間に遠距離からの攻撃を受けてしまえばその時点で俺は詰んでいたのだが、相手はここに来るまでに俺がNPC達をすべて倒した事を知っているからか、俺の事を本当に上位職業の強プレイヤーで、この移動も自分を侮っているからこその勝者の余裕と感じ取ったらしい。
男は真っ黒な布で覆われた物体に近づきながら、こちらの方を見て名乗りを上げる。
「俺の名前はビカルタ。貴様等が言うところのこの町の”NPC”を率いている立場の者だ。――この町から逃げた男とは何やら顔が違うようだが、貴様が”プレイヤー”である以上、俺達の故郷であるこの町を荒らす存在など絶対に許さない……!!この町から立ち去らぬというなら、貴様もコイツと同じ目に遭うと知れぃッ!!」
そう言ってビカルタは瞬時にしゃがんだかと思うと、勢いよく布を剥ぎ取る――!!
それを見た瞬間、俺は驚愕の声を上げていた。
「――ッ!?お、お前はッ!!」
俺が見つめる先。
そこにいたのは、切り傷や火傷が全身いたるところに痛々しく残っている全裸同然の男――この町を牛耳っていた『肝っ玉バイプス』というギルドのリーダーである竜騎士:スプリングス=ハルタだった。
凄惨な拷問を受けていたのだろうか。
まだ辛うじて息があるらしく、身体を小刻みに痙攣させていたのだが、既に限界も近いのかこちらにゆっくり顔を向けながら、「あっ、あっ……!!」と言葉にならない声を上げていた。
まぎれもなく、かつて俺を苦しめた忌まわしきトラウマの象徴といえる相手だったが――山で遭遇したマリオ以上に、惨たらしい姿になったハルタを見て俺は、自分が眼前の相手に対して、どのような感情を抱けば良いのか分からなくなっていた。
そんな俺の顔を見て、何を思ったのかは分からない。
ただ、真剣な顔つきをしながらビカルタが口を開く。
「見ての通り、コイツは多くの手下を従えていた”ギルドマスター”にして、この町で最も強かった”プレイヤー”だ。……お前がどのくらいの強さなのかは分からんが、それでも、俺達のようなNPCとやらよりかは遙かに強いのだろう」
だがな、とビカルタは続ける。
「俺達は、そんな状態でもコイツだけじゃない、他の”プレイヤー”もまとめて皆殺しにした。……例え、俺がこの場でお前に敗北して消されようが、俺の意思を継いだ他の奴等は必ず、故郷を荒らす貴様という存在をコイツのような姿になるまで追い詰める……お前が相手にしているのは、そういう存在だと理解しろ。プレイヤー」
奴が視線を向けた先、そちらに振り返ると、戦闘向きではなさそうな女性や子供、老人のNPC達が皆、遠巻きに物言わぬまま俺を睨んでいた。
ハッタリをかましてきただけの俺と違って、実力だけは紛れもなく本物だったハルタの瀕死の姿と、NPC達の執念。
それらを目の当たりにして竦みそうになるが――それでも、俺はビカルタと対峙する。
「……お前こそ覚えておきやがれ。俺の名前は”プレイヤー”なんかじゃない、村上 龍樹こと”リューキ”って名前があるんだ!!――俺だって、この場所でやらなきゃならないことがあるんだ。簡単にこっちが退くと思うなよ……ビカルタッ!!」
そう言いながら、俺も右手に所持した剣を静かに構える。
互いに大事な仲間を思いながらも――いや、だからこそ一切退くことを許されない真剣勝負の火蓋が、斬って落とされようとしていた。




