山賊の襲撃
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
雄叫びを上げながら、互いに相手めがけて突っ込んでいく俺と武装したNPC達。
今回は互いに奇襲ではなく、堂々とした真正面からの戦闘。
相手側は三人と数も多く、剣、槍、拳と比較的バランスの良い編成であり、普通なら真っ先に逃げ出すべき状況かもしれない。
だが、既に見つかったうえで応援を呼ばれている以上、少しでも相手の数を減らして、戦況をかき回して錯乱させることが今の俺に出来る最善の策に違いないはずだ。
……と言うか、いきなり町の真正面に転移して戦闘に巻き込まれた以上、俺にはこうするしか他にない!!
「クソッ……!!やっぱ隠れて様子見しながら作戦を考えたり、せめて、あの倒した銃使いから何かアイテムなり武器を拝借する時間くらいは欲しかったな……!!」
そう呟ている間にも、トサカのような髪型が特徴的な籠手を両腕に装着した拳闘使いらしき男が、他の二人に先駆けてこちら側へと殴り掛かってくる――!!
「卑劣な”プレイヤー”とかいうゴミ野郎め!これでも喰らいやがれッ!!」
勢いよく、トサカ頭から右ストレートが飛んでくる――!!
……しかし、威力はそこそこありそうだが、何の駆け引きもないまっすぐなだけの突きである。
流石にこれを上手くいなしたりは出来ないが、これまで魔物やオボロを相手に実戦経験や訓練を積んできた俺からすれば、このくらいなら避けることは何とか出来る。
相手は思いっきり放った打撃が外れたことによって体勢が崩れたらしく、俺の前で「うわっとと……!!」とよろける。
その隙をついて、俺も素早く拳を構える――!!
「――"光"とはすなわち、盛大にイキった在り方なり。……喰らえ!天空流奥義:"DQN突き"ッ!!」
「ぐごげぶっ!?」
俺の拳を受けて、盛大にトサカ頭がよろける。
……うん、やっぱり一撃で倒れるほどの威力はない、か。
だが、相手の戦闘力を大幅にそぎ落とすことは成功したに違いない。
見れば、先ほどまでトサカ頭とともにこちらに殺到しようとしていた味方の男達も、自身の武器を構えながら、警戒するように俺達の事を遠巻きに見ている。
「天空流奥義、だと?……どうやら敵は、カサトよりも優れた武闘家のようだな……!!」
「ったく、勝手に突っ走ってむざむざ倒されやがって!……だが、相手が武闘家なら、こっちは武器で距離を取りながら奴に斬りつけるぞ!」
「応ッ!!」
どうやら、この二人は勝手に俺の事を”武闘家”とかいうまっとうな職業、それもそこそこ強い方だと誤解してくれているらしい。
今までこのゲームで……いや、リアルも含めて雑魚とか最弱扱いがデフォだっただけに、こういう扱いを他者からされるのは、俺の人生の中で割と新鮮な体験だった。
いや、まぁ、相手はロクに戦闘する事なんか考慮されていない”NPC”という存在であり、本来ならそういう奴等相手に”プレイヤー”であるはずの俺が良い勝負とかする方がおかしいんだろうけど、なんだろう。
別に相手に親近感とか持っているわけじゃないけど、嬉しいというかなんか気分が盛り上がってくる――!!
そんな高揚感で訳もなくはしゃぎたくなりそうになるが、今はそれ以上にやるべきことがたくさんある。
とにかく、俺はそういった相手の誤解も含めて、自分に有利になるように次の一手を放つ――!!
「今だ!!俺が惹きつけている間に、槍を持ったそいつを倒せ!!」
「ッ!?な、なんだと!!」
奴等の背後を見つめながら、そのように叫んだ俺の発言を受けて、慌てて剣士と槍使いの男達が自身の背後を振り返る――!!
……無論、ここには俺一人だけで来ているのだから、都合の良い味方なんかいるわけがない。
だがこの時の俺は、初歩的な手段ながらも、まるで少年バトル漫画のように、自身の頭脳戦が上手くハマった気がしてますますテンションが跳ね上がっていく――!!
調子に乗った俺は、このままなんの捻りもなく殴り掛かるのではなく、眼前でふらつきながらもなんとか根性らしきもので立っているカサトとかいう拳闘使いの男の体を、槍使いの方へと勢いよく押し出す。
「クッ……貴様!」
騙されたことに気づいて、慌てて振り返った槍使いは、自身の方に向かってきた存在に向けて無我夢中で槍をふるう。
その結果、当然のごとく奴の槍は俺ではなく、カサトという男の背中に突き刺さることとなる。
「い、痛ぇ!!テメェ、俺に何しやがんだッ!?」
「す、すまん!!……あっ、クッ、穂先が刺さって、抜けんぞコレ……!!」
「ふざけんな、オイ!……い、痛ぇよ~!お母ちゃ~~~ん!!」
どうやら、槍が刺さって抜けなくなってしまったらしい。
そんなところまでリアルなのか……?
それとも、俺達”プレイヤー”は戦闘に専念出来るようにある程度補正されているのかもしれない。
そう考えながらも、俺は味方の惨状に慌てふためいていた剣士の方へと近づいていく――!!
相手は、ようやく俺の動きに気付いたらしく、剣を振り上げながらこちらに向けて声を張り上げる。
「貴様!!武闘家のくせに、自身の肉体ではなく卑劣な策略を弄しやがって~~~!!絶対に許さんぞッ!!」
――ッ!?そうか、俺は意識してなかったけど、そっち方面での固定観念みたいなのもあったのか!
相手は滅茶苦茶怒った表情をしているが、やべぇ、コイツ等どんだけ俺の気分をハイにしたら気が済むんだ……!?
とはいえ、流石に今は命のやり取りをしている状況下。
相手が斬りつけるには、もはや手遅れともいえる懐まで入り込んだ俺は、気を引き締めて渾身の一刀を放つ――!!
「――"金"とはすなわち、キラリと輝くセンスでみんなを魅了する在り方なり。……喰らえ!天空流奥義:"スタイリッシュ斬り"ッ!!」
「グハァッ……!?」
俺の一撃を受けた剣士が、横薙ぎに地面へと倒れこむ。
それと同時に、「やった!抜けたぞ!!」とそれまで苦心していたらしい槍使いの方が嬉しそうに声をあげながら、無事に抜けた槍を天にかざして晴れやかな顔をしていたので、奴がはしゃいでいる隙に俺は奴に近づき拳を二回ほど打ち込んでから戦闘不能にすることに成功した。
「カサトとかいう奴は……この様子だと、多分、大丈夫かな?」
残ったカサトの方もせめて、戦えないようにしなくては……と思っていたのだが、見れば奴は、槍を抜く途中で痛みに耐えられなかったのか、白目を剥いて既に気絶していた。
出血などが大丈夫なのか、気になるところだが、HPは減少したりしていないみたいだし多分大丈夫だろう。
てゆうか、体力回復用のアイテムはキキーモラさんの応急処置に使用してしまった結果、俺はもう一つも持っていないので、これ以上はどうする事も出来ない。
何より、俺もコイツ等も命のやり取りをした敵同士という事以上に、俺には山に残ったオボロやキキーモラさんのために、何よりも優先してやらなきゃいけないことがまだ残っている。
「――それにしても、一人を弱らせられたらそれで良いと思っていたけど……三人ともすべて無傷で倒しちゃうあたり、俺ってステータスとかいう枠組みに囚われない系の強さの持ち主なのでは?」
そんな中二系ラノベの主人公じみたことを考えるくらいに、今の俺は『なんでも出来る!』的な活力なり全能感とでもいうべき感覚に満ちていた。
俺はまだ学生だからよく分からないけど、新入社員のキャリアアップって、こういう風に一つ一つ自信をつけさせるところから始まるのかしれない。
そんな当たってるのかも分からない益体もないことを考えながらも、この先の展開に備えるため、俺は迅速にNPC達の荷物をあさり始める。




