奇襲、開始――!!
『ヒヨコタウン』に帰還したのもつかの間、さっそく生命の危機に晒される俺。
町の正門に立っていた男は、突然眼前に出現した俺に警戒しながらも、すぐさま所持していた銃でこちらに狙いをつけて俺へと詰問してきた。
「貴様、ここで何をしている!正直に言え!」
マリオやヒサモ達の話で判断するに、おそらくコイツも町を占拠したNPCの一人なんだろう。
装備品の力でそこそこステータスは強化されているが、俺やオボロのレベルでヒサモ達に勝利出来たあたり、やりようによっては十分戦えるはずだが……。
とはいえ、俺のは不意打ちだったし、今は俺の方がロクに準備も出来ていない状態で奇襲を受ける羽目になっている。
”BE-POP”も今のところもっとも使い勝手が良いスキル:【凌辱に見せかけた純愛劇】を繰り出せるほどには回復しておらず、万事休すかと思われた――そのときである!!
「――ッ!?この感覚は……!!」
刹那、俺の右手が黄金に輝き始める――!!
目に映る光景と、脳裏にもたらされた情報をもとに、俺は自身に何が起きているのかを瞬時に理解する。
「何をしているのかと聞いているッ!!さっさと答えろッ!」
ただならぬ事態を察したのか、銃の使い手が返答も待たずに銃の引き金を引こうとする。
それに対して、不敵な笑みを浮かべながら、俺は自身の右手に権限した存在を力強く掴み取る――!!
「何をしに来たかって?――見ての通り、出来立てホカホカのご馳走を届けに来てやったんだよ!しっかりと、受け取りやがれッ!!」
そう、俺のもとに出現したのは、”エビメダル”の効果で入手することが可能である”海老天丼”であった。
どうやら、あのコイントスで俺が出したのは、エビが描かれている表の方だったらしい。
サクサク出来立ての衣を思わせる黄金の煌めきを丼全体から淡く放ちながら、俺の腕から投擲された海老天丼が勢いよく銃使いへと飛来していく――!!
「ッ!?クッ……!豊かな風味を、漂わせやがってッ!!」
相手は避けきることが出来ずに、海老天丼を頭から被る形になっていた。
海老天丼によって視界は塞がれ、開いていた口から入った天丼の芳醇な味わいが、奴の口内で急速に広がっていく――!!
それでも、何とかこちらに応戦しようと銃を撃ち始めていたが、そんなロクに照準も定まっていない状態で俺に当てられるわけがない。
俺は今の自分が出せる全力で奴に疾走し、勢いよく手刀を構える――!!
「――"金"とはすなわち、キラリと輝くセンスでみんなを魅了する在り方なり。……括目せよ!天空流奥義:"スタイリッシュ斬り"ッ!!」
"スタイリッシュ斬り"とは、天空流における”金”属性、すなわちスタイリッシュな力を手刀に込めることによって、強烈な斬撃を放てるようになる奥義である!
そんな奥義を使った気になった俺の手刀を身体に受けた銃使いは、エビを口に咥えたまま盛大に後ろへとドウ……ッ!と倒れこむ。
不格好ながらも、こちらを睨んでくる相手に対して、俺は静かに告げる。
「命までは取らねぇよ。――天丼のお代は、お客様方が所持している”アキヤラボパの雫”で結構だからよ……!!」
「き、きふぁま……!?」
悔し気にそこまで口にしてから、銃使いは白目を剥いて気絶する。
スキルによる強化も何もないただの通常攻撃だったが、このNPCを戦闘不能にするくらいには十分に威力があったらしい。
……とはいえ、確かにNPCの命を奪うつもりはないのだが、やはり”山賊”である俺の攻撃はコイツ等を殺すほどの威力もないんだな……。
いや、実際のNPCがどのくらいのステータスなのかは知らないし、装備の影響とかで強化もされてはいるだろうし……それに実際勝ててはいるんだから、問題はないはずだ!
「……でも今回、突発的な天丼がなかったらやっぱりキツかったはずだよなぁ……この先、こんな調子でこの町をどうにかする事なんて出来るのか……?」
実際は、”アキヤラボパの雫”というアイテムさえ入手出来れば、あとは逃げて帰還するのみだが、俺はその肝心のアイテムの場所を知らない。
それを聞き出すためにも、絶対にこの町を現在支配しているNPC達との接触は避けられないはずだ。
「……ん?というか、何か大事なことを忘れかけているような……?」
何か違和感のようなものを感じる俺だったが、そんな思考もすぐに中断させられることとなる。
「みんなー!”プレイヤー”だ、”プレイヤー”が攻めてきたぞ!!」
「アイツが、仲間をやりやがったんだ!!」
「敵は一人だけみたいだ!!今動ける奴全員で、奴を仕留めるぞ!!」
そのように叫びながら、町の方から三人ほどの武装したNPCらしき奴等がこちらへと近づいてくる。
――これ以上一気に敵が増える前に、相手出来る人数を倒しながら、情報を聞き出すか。
そう判断した俺は、自分から奴等のもとへと向かっていく――!!