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リューキの決断

 キキーモラさんとマリオに使用されたのは、致死性も含まれた凄まじい”混成毒”だった――。


 そして、そんな状態異常を治療できるアイテムが保管されている町は現在、何者かによって占拠されている――。


 俺達が巻き込まれたことも含めて、この辺りで一体何が起きているのか。


 そんな俺の内心の疑問に答えるかのように、マリオが驚くべき事実を口にする。


「俺達『肝っ玉バイプス』のメンバーは、”ヒヨコタウン(あの町)”で、NPCを働かせながら、このデスゲームでの幽閉という事態が解決するまで大人しく静観するつもりだったんだ。……幸いにも、どこからか飯は勝手に出てくるから余裕で平気、俺達ギルドメンバーが生活していくだけなら、当分困ることはなかったからな……」


 だがな、とマリオは続ける。


「何をトチ狂ったのか、いつの頃からかNPC共が余計な自我なんてモノを持ちやがった!……そして、事もあろうか、自分達で作った特製の混成毒とやらを食い物の中に入れて、ギルドメンバー達を殺して町を占拠しやがったって訳だ……!!」


 感情が芽生えたNPC達による反乱――それが、現在この地で起きている異変の正体。


 それを聞いた俺の胸中に去来したのは、驚きや恐怖と言った感情ではなく、「やはりな……」という納得らしきものだった。


 俺がギルドマスターのハルタ達によるリンチで命を落としたあの日、路地裏で目覚めた俺を見つめるNPC達の視線には確かな侮蔑と嘲笑が入り混じっていた。


 ゆえに俺からすれば、NPCが生きていようと自我を持っていようと、たいして異常とは感じなかったが――

ハルタやコイツのようにあの視線に晒されることもなく、自分達が中心のままでいられると無邪気に信じられているような奴等には、NPCの存在すらマトモに認識出来ているかも怪しかった。


 案の定、ギリッと何かを噛みしめるような音がしたかと思うと、「ふざけるなよ……」という言葉が聞こえてくる。


 見れば、それはオボロによって拘束されて地面に転がされる形となっている襲撃者(今の話からすると、おそらく、コイツ等もNPCなんだろう)の一人である忍者野郎のヒサモが、腫れあがった顔から覗く瞳に、恨みを色濃く滲ませながら、マリオを睨んでいた。


 隣で転がされていた軽薄そうなコノタスですら、「オイ、お前……!」と焦った表情で相棒を諫めようとするが、それに構うことなくヒサモが叫ぶ。


「……何が、『どこからか勝手に飯は出てくる』だ!?俺達がどれだけひもじい想いを我慢してまで、貴様等”プレイヤー”という存在に食い物を差し出し、そのうえ奴隷のように扱われてきたと思っている!!……自分達の思い通りにならなければ、力を振りかざしながら平気で俺達を殺す!自我が芽生えた幼子が腹を空かして泣いているのを眼前で見ていながら『最近のNPCって、本当にリアルなんだな』、『ちょっと変わったBGMで楽しいかも』などとせせら笑う屑ども!――貴様等なぞ、村の外に蔓延る魔物以下の害悪、鬼畜外道だ!!出てけッ!貴様等”プレイヤー”など……俺達の町から、さっさと出ていけッ!!」


 ――このヒサモという奴は、間違いなく俺達の大事なキキーモラさんの命を脅かした敵に間違いない。


 でも、何故だろうか。


 コイツやあの『ヒヨコタウン』という町のNPC達の境遇を聞いた俺は、このヒサモという男をさっきまでのような気持ちで恨むことが出来なくなっていた。


 自分達を虐げてきた相手とそれに対して激しい憤怒を感じたのは、俺もNPC達(コイツ等)も全く同じ。


 俺はそこから逃げ出すという選択を取ったが、ヒサモ達にとってはあの町での生活や家族こそが、ハルタ達のような”プレイヤー”達からリンチのような目に遭ってでも、それこそ何をしてでも守り抜かなくちゃならないものだったに違いないんだ。


 だが、そのようなヒサモの想いすらも、マリオは一蹴する。



「――うるせぇぞ、この糞奴隷どもが!!テメェ等が何体飢え死にしようが、そんなもん知ったことかよ!?テメェ等は、俺達”プレイヤー”が快適に過ごせるように万全の状態でサービスするのが生存する上での義務なの!アホ、ボケ、カスのバーゲンセール!!――御大層な主張をかました気になってるかもしんねぇけど、あの町はどうせ、このゲームの不要な部分が廃棄させられた単なる流刑地、ゴミ捨て場そのもの!そんなところでガキが多少減ろうが全く問題なし!なんなら、せっかくお前らも感情が芽生えたんだから、むしろ『ゲームの容量が多少は軽くなったし、これで自分達は今以上に”プレイヤー”様に貢献できる!』とか素直に喜べよ!でもって、俺達の顔色を伺いながら、ビクビクした表情で俯いているのが、お前等にはお似合いの生き方ってもんだ!ギャハハハハハッ!!」



「テメェ……!!」


「ちょっと、アンタ……!!」


 俺だけでなく、それほど事情も知らないオボロも見かねたのか、マリオを制止しようとする。


 だが、対するマリオはどこにそれほどの気力が残っていたのか、あるいはそれほどまでに怒りが尋常でなかったのか、俺やオボロの言葉にも答えずに、ヒサモ達を顔真っ赤にして睨みつけながら、唾を盛大に飛ばしてまくりたてる。


「でもって、俺達を卑劣な不意打ちで殺そうとして、この俺を追いかけ回しておきながら、ようやく十レベル台になったばかりのようなメスガキやら、たかだが一桁レベルの”山賊”風情にあっさり負けるとか、テメェ等てんで糞雑魚じゃねぇか!!――その程度の、正面からマトモにやってたら俺に瞬殺されるような屑どもが、俺を……この俺に舐めたような真似してんじゃねぇぞ、ボケどもがッ!!」



 マリオからの聞くに堪えない暴言を受けて、もはや我慢の限界だといわんばかりに、ヒサモも盛大に罵倒の嵐を繰り出していく。


 そんなヒサモの姿に多少溜飲が下がったのか、笑いながら満足した表情を浮かべるマリオだったが、すぐに俺達の方へと顔を向ける。


「……あの雑魚野郎はまだピーギャーなにやらわめいてやがるが、俺だって、同じ”プレイヤー”を何人も殺してきた暴君のハルタみたいな奴の下で生きてきたんだ。自分の命を守るために用心して普段から大抵の状態異常を防ぐ装備をしていなかったら、他の奴等同様にあの場で逃げることも出来ずに死んでいたし、それをしていた上でなお、こんだけの状態異常に蝕まれてんだ。……俺に黙って大人しく罵倒されながら死んでいけ!なんて綺麗ごとを言うつもりはないよな?」


 さも自分は間違っていないとでもいうマリオの自身に満ちた表情。


 マリオからは罪悪感と呼べるものは微塵も欠片も感じられず、その言動からは自身をコケにされたという屈辱感と被害者なのだから何をしても良いという意識が見えていた。


 もっとも、ハルタの顔色をビクつきながら伺っていたのはかつての俺にも当てはまることだし、俺を害そうとしたという点に関してはマリオもヒサモも同様のはずだったが――コイツにだけは全く、共感なり理解しようという気持ちは涌かなかった。


 だからこそ、俺はマリオにさっさと話を切り出す。


「あぁ、確かに俺だってそんな綺麗ごとなんて言う気はないぜ。……けどな、なんでお前は自分に味方してもらえるだなんて思ってたんだ?別に”中立公平”なんてモノも、俺は特に掲げたつもりはないんだよ。これ以上無駄に時間をかけていたらそれこそ、キキーモラさんの取返しがつかなくなるかもしれなし、状態異常を治すための方法はもう聞き出せたから、まずはこの場で一番危険なお前を始末させてもらう!!」


 別に、ヒサモ達襲撃者NPCに同情したわけなんかじゃない。


 ただ単に、この場で一番レベルが高くてこれまでの言動から見て明らかな危険人物であるコイツを放置しておいて良い理由なんて、俺の中には全くなかったからだ。


 体力も残りわずかで、身体もロクに動かせない相手を嬲るような真似は気が引けるが、今度こそ確実に仕留めようと俺とオボロは構える。


 だが、そんな俺達を前にしても、マリオは全く余裕の笑みを崩さない。


 ふと、奴がわざとらしく右手をゆっくりと動かしているのに気づいた。


 そちらの方に目を向けると、そこには何やら丸い硬質なものが握られている……。


 俺の視線に気づいたのか、さらに下卑た笑みを濃くしてマリオが答える。


「そっちの獣耳姉ちゃんが、さっきみたいな飛びかかる真似をしなくて本当に良かったなぁ?……俺が手にしているのは、”ボムっと ラブでハジけたい♡”という使い捨ての自爆アイテム。ソイツがこっちに飛び掛かるよりも、コレを起動するのが明らかに先だぜぇ……!!」


「ッ!?なっ、爆弾だと!!」


 俺の発言を受けて、オボロや拘束されていたNPCの二人も一気に大人しくなる。


 そんな静まり返ったこの場にて、マリオが笑みから一転して、興奮した面持ちへと変わり怒鳴り散らしていく――!!



「俺が、これを起動させる要素はふたぁつ!!


一つは、俺の許可なく勝手な動きを誰か一人でもしようとしやがった時!


もう一つは、俺が現在身体に回っている万能毒の効果などで、自分の死の危険を感じた時だ!!


でもってぇ、テメェ等が出来ることは俺の言うことを大人しく黙って聞くことと、混成毒に含まれる”即死”の効果が、間髪入れずに俺に効くのを祈ることのみだ!!」



 そう口にしてから、マリオはゆっくりと左手で俺を指さす。


「町に”アキヤラボパの雫”を取りに行くのは、リューキ……テメェ、一人で行け。異論は許さん……!!」


 ……多数のNPCが守る町を、最弱である俺一人で潜入?


 あまりにも無謀なマリオの要求に、オボロと弓矢使いのコノタスが慌てて、異論を唱える。


「待ちなさいよ!リューキは”山賊”だけど最弱のステータスなのよ!町に行くなら、せめてコイツよりも戦えるアタシを同行させるべきでしょ!?」


「そ、それに、町へ戻るだけなら、住人である俺達を連れていった方が、穏便に話が進むはずだろ!?……俺達を開放してくれよぉ……!!」


 そんな二人に対して、マリオはきっぱりと否を告げる。


「論外だ。えぇと、名前表記を見るにオボロちゃん、とか言ったか。お前がこの最弱パーティで一番レベルが高いからって、調子に乗んなよ?アイツ等は不意打ちしてきたときと違って、今じゃ俺達プレイヤーの装備品やらアイテムをわんさか所持しているんだ。そんなところにピョンピョン飛び跳ねるくらいしか能がない12レベルの雑魚が行ったところで、何が出来る?――テメェとリューキを一緒に行動させるなんてことを許しちまったら、この混成毒にやられている魔物を見捨てるという選択さえすれば、テメェ等はそのままトンズラすることだって出来ちまうわけだ」


「何よそれっ!!アタシは、友達を置いて逃げるようなそんな卑怯な真似なんてしない!それなら、リューキはこの場に残して、アタシ一人で町とやらに行かせなさいよ!!」


「駄目だ。テメェはこの鳥顔の魔物同様に、この場で大人しく人質をやってろ」


 ……なんだ?


 どうして、コイツはここまで俺を町へ向かわせることに固執しているんだ?


 戦闘力で言えば、明らかオボロの方が上なのはさっきの戦いを見れば明らかに分かるはずだし、俺もこれまでのやり取りからマリオに信頼されるようなことは何一つとして行っていない。


 にも関わらず、コイツは俺に何を期待しているんだ……?


 そんな風に思案している間にも、マリオは「それに」と口にして、コノタスの言い分を否定する。


「テメェ等みたいなNPCを町にまでノコノコ帰したら、どんな裏切り方をしてくるか分かったもんじゃねぇだろ?否定出来るか?人の食い物の中に毒物を混ぜ込んだ卑怯者どもがッ!!――むざむざ、成功率を下げるような真似を、俺が許すわけねぇだろ!!このスクラップ脳のボケナスが!……ここまでしてくれたテメェ等だけは、俺が助かろうが死ぬことになろうが、絶対何をしてでもブチ殺してやるからな……!!」


「ぐ、うぅぅ……!!」


 そのようにコノタスを恫喝してから、マリオは再び俺へと向き合う。


「……リューキ、心配しなくても俺には分かってる。いや、どうやったのかは知らんが、それでもお前の”山賊”という職業には、何かしらの死んでも復帰出来るスキルっていうもんがあるんだろう?マトモに、町へ行ったところで、俺達の装備品やアイテムを貯めこんだアイツ等(NPC)には、レベル一桁の雑魚が行っても敵うわけないだろうな。――だからお前、俺達を出し抜いたときみたいに、アイツ等の前で死んでからスキルで復活して回復アイテムを奪ってこい」


 その発言を受けて、俺は衝撃で立ち尽くす――!!


 ……そうか、コイツからすれば俺は、自分達のリンチで死んだはずなのに、何故か生きていた得体の知れない奴なんだよな。


 俺と一緒に行動しているオボロやキキーモラさんのことも怪しんではいるかもしれないが、それも蘇った事同様、すべて”山賊”という職業のスキルによるものと考えるのが”プレイヤー”であるマリオからすれば自然な流れなのかもしれない。


 ……だが、実際に復活できたのは、【山賊領域】というスキルを取得できた時のみの、いわば初回特典とでもいうべきもの。


 あと一度でも死ねば、俺は他のプレイヤー同様に、光の粒子となって消失する事は避けられない。


 それを分かってオボロが俺を止めようとこちらを見てきたが、俺はそれを視線で制する。


 理論立てて話しているようだが、マリオの計画は明らかに実現性が乏しいだけでなく、俺という存在の認識すらも、出だしから間違えている。


 だが、ここで奴を下手に刺激すれば、何を基準にあの爆弾を起動させるかも分からない。


 そんな俺に追い打ちをかけるかのように、マリオがつぶやく。


「……リューキ、本当に俺には分かっているんだ。俺もお前も、多少の立場の違いはあれど、これまでハルタみたいな奴の顔色を伺いながら、ビクビクと怯えていた。――俺はこの世界では見つけられなかったが、お前にとって、このパーティーこそが、そんな心境から解放されて自分らしく生きられる唯一の居場所だったんだろ?……だったら、なにをしてでも、守り抜かないとなぁ?」


 そう言ってから、俺に向かって左手でしっ、しっ、と払うマリオ。


「ほら、さっさと俺と”キキーモラさん”とやらを救うために、薬を取ってこい。……じゃないとこの爆弾で、俺もお仲間もまとめてみ~んな、吹き飛んじゃうぞ?」


 ふざけた口調で、少しも笑えない戯言を口にするマリオ。


 それとは対照的に、明らかな侮蔑の表情を浮かべながら俺はコイツへと告げる。


「……お前の言う通り、俺が一人で『ヒヨコタウン』に行って、”アキヤラボパの雫”を取ってきてやる。――だから、このふざけた行為の落とし前をつけさせるためにも、絶対に先に馬鹿な真似をするな」


「……ヒャハッ、楽しみにしてんよ~」


 どこまで通じたのか分からない。


 だが、例えコイツが何を思っていようがどのみち、今の俺が出来ることはただ一つなのだ。



 こうして俺は、武装したNPCが占拠する『ヒヨコタウン』へ、たった一人で乗り込むこととなったのだが――その前に一つ、どうしても気になる事があった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うむう、またさらにアツい展開になってきたではないですか……! そしてさらにさらにアツくなることが期待出来る……ッ! ……でもとりあえず、この名前の爆弾では死にたくないでやんす。(笑)
[良い点] マリオ、強気の理由はこれでしたか! 前話の感想で書かせてもらった、歪んだプライドがどうこうじゃなくて、単純にクソですわ(笑) 淋しいヤツにも思えますが、弱い、もしくはやり返してこない奴には…
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