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悪毒の栄え

 忍者野郎が放った吹き矢から俺を庇ったキキーモラさん。


 その影響を受けた結果、キキーモラさんは弱々しい声を上げながら、俺の眼前で倒れこむ結果となっていた。


「クッ……!?キキーモラさんッ!!」


「……キキッ……」


 見れば、キキーモラさんのHPバーは、辛うじて残っていた。


 だが、忍者野郎の吹き矢に何か特殊な薬が仕込んであったのか、名前の横の状態異常の項目に『混成毒』という単なる毒状態とも異なる見たこともない表記がされており、キキーモラさんのただでさえ少ないHPが徐々に削り取られていく……。


 俺は逸る気持ちを必死に抑えて、自身のアイテムボックスから取り出した毒消し草をキキーモラさんに与えたが、それでも何故か状態異常は収まらず、回復アイテムを施すことで場当たり的な対処療法に走るしかなかった。


「――なんで……なんで、治らないんだよ!馬鹿野郎……!!」


 誰に向ければ良いのか分からぬ苛立ち。


 その場しのぎの治療ともいえぬ悪あがきをしていたところで、このままではキキーモラさんが死んでしまうだけ。


 俺がやりきれなさに押しつぶられそうになっていた――その瞬間、



「……そ、その魔物を救いたけりゃ、一つだけ方法がある……!!」



 そんな風に俺に応えたのは――意外な人物だった。


『まさか、あの状態で――?』と信じられない気持ちのまま、俺は声のした方へと振り向く――!!


「へ、へへっ……この短い間に、面白いくらいに表情変わってんなリューキくん?――変なキノコでも食いすぎたか?」


「――マリオ、まだ生きていたのか……!?」


 俺の問いかけに対して、マリオが言葉ではなく下卑た笑みで返す。


 俺達が夢中で戦っている間に自力で力尽くで矢を抜いたのか、脂汗を額にかき、赤く染まった腹部を左手で抑えながら、地面に座り込んでいた。


 俺達を害するつもりならば、いくらでも隙があったし、今だって背後から話しかける必要はなかったはずだが、マリオの現在の様子とキキーモラさんと同じ”混成毒”という状態異常表示、そして、それ以上に残り少ないHPが、奴もこれ以上何かをする気力がないことを物語っていた。


 でもそれなら、そんな状態で敵対している俺を引き留める理由はなんだ?


 意図が分からない事からくる困惑と、キキーモラさんの命が危ないことからくる焦りから、隠しもせずにマリオに向けて苛立った表情で睨みつける俺。


「キキーモラさんを救う方法があるってのは、どういう意味だ?この大変な時にくだらない嘘をつくっていうなら……!!」


「毒消し草だ。……お前が今持っている毒消し草を、ありったけそいつに使ってみろ」


 自分から軽口を言い始めたくせに、間髪入れずにそれだけを口にするマリオ。


 ……それを今使ってみたけど、全然治らなかったから焦ってるんだろうが!!


 そう怒鳴りつけたかったが、これまでと違って怯えも嘲笑もなく、弱っていながらも確信に満ちた表情をするマリオを見て、奴を警戒しながらもキキーモラさんのもとへ戻り、持っている毒消し草をすべて使いきるつもりで与えまくる。


「……って、嘘だろ……?」


 キキーモラさんの”混成毒”という表記は全く変わっていないものの、徐々にHPの減少が緩やかなモノになっていく――。


 それでも、毒のダメージが完全に止まったわけではなく、まだ苦しそうではあるモノの、とりあえず一命をとりとめたキキーモラさんのもとに、襲撃者二人の拘束を完全に終えたオボロが駆けつけてきて、さっきの俺同様に回復用の薬草を分け与えていく――。


「キキーモラさん、本当に大丈夫!?しっかりして!」


「……キキッ……!」


 そのやり取りを見ながら、こんな状況下ではあるが俺達は人間とか妖怪とか魔物とか関係なしに、本当にこのパーティで一緒に行動してきた仲間なんだと実感していた。


 だが、いつまでもそんな感慨に浸っている場合じゃないのも事実。


 俺はすぐさま、マリオへと向き合う。


「なるほど、お前がこの状態異常になっても無事だったのは、何かしらの毒無効スキルかアイテムがあったからだな?……それなら、あとは今の毒消し草みたいに、他の状態異常の症状に効果のある回復アイテムを使用すれば、この”混成毒”という状態は何とか出来るんだな?」


 今の一連の行動の結果から、予想出来た答えを述べる俺。


 だが、マリオはそんな俺の”確認”に対して、首を振る。


「事はそう簡単じゃねぇよ。……現に、あれだけの毒消し草を使用したにも関わらず、そいつのHPの減りは完全に収まってはいないだろ?――何より、今はまだ効果が出ていないようだが、襲撃者達(そいつ等)が俺やその魔物に使った毒が、町にいた『肝っ玉バイプス』のメンバーに使用したのと同じものなら、その中には単なる猛毒なんか比じゃねぇ……確実に奴らの命を一瞬で奪った”即死”の効果も入っているはずだ……!!」


「――ッ!?そ、即死だと!!」


 そんな、嘘だ……!!


 それが本当なら、今どれだけ毒の効果やHPをどうにか対処できたところで、”即死”の効果が発動したらすべて意味がなくなる。


 こんな初心者プレイヤー用の『ホッタテ山』なんていうフィールドじゃ、即死を無効化するアイテムなんか手に入るわけがない。


 ……ここに来て、万策尽きるのか……?


 諦めかけていた俺だったが、マリオは「さっきも、言っただろう」と述べる。



「方法は一つだけある。――今、占拠されている”ヒヨコタウン(俺達の町)”に向かって、全状態異常を治療するアイテム:”アキヤラボパの雫”を、入手してくるしかねぇんだよ……!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] アキヤラボパの雫! これはネーミングからしてすごそうです。 マリオさんが、意外といいヤツ……? いやいや、油断はできませんよね!
[良い点] マリオが生きていたことに驚きですが、コイツって強者に媚びへつらって生き延びてきたような人物なので、リューキにみっともなく助力を求めたり、命乞いとかすると思いきや、自分の死期悟ったからなのか…
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