襲撃者との遭遇
俺達が見つめる先、道ともいえぬ獣道ともいえる場所から姿を見せた二人組の男達。
一人はマリオを射抜いたとされる弓を持ったままハシャいでいる馬鹿そうな奴、もう一人は、冷静と言うよりも仲間のテンションなり言動に呆れている感じの忍者装束の男だった。
どちらも装備はそこそこ上等そうな代物だったが、山の中を歩き回っていたらしく、全身のいたるところに葉っぱがくっついていたり泥まみれになっており、彼らはそのままの状態でこちらへと近づいてきた。
軽薄そうな弓矢使いの男が、俺達の方を見ながら忍者らしき男に問いかける。
「あのハルタとかいう”竜騎士”のクソ野郎にかまけている間に、町から逃げ出した”プレイヤー”を始末しに来たはずなのに――まさか、お仲間がいるなんて聞いてねぇぞ、ヒサモ!!……っていうかコイツ等、本当に”プレイヤー”か?なんか、どう見ても魔物な奴とか”亜人”な女までいるみてぇだが?」
対する忍者は弓矢使いと違って俺達を目に見えてわかる形で最大限に警戒しながら、相手へと答えを返す。
「無駄に騒がなくても、しっかりと聞こえているぞ、コノタス。……何者かは知らんが、我々の事をこれ以上”プレイヤー”などという目障りな存在に知らされるわけにはいくまい。――この場で、狩るぞ……!!」
「へへっ、了解っと!」
ヒサモと呼ばれた忍者がそう言いながら、カギ爪を瞬時に両手に出現させてこちらに臨戦態勢を取り、コノタスと呼ばれた弓矢使いが俺に向けて弓矢を構える。
その様子を見ながら俺は、現在突発的に戦闘に巻き込まれているにも関わらず、コイツラの発言から確かな違和感を覚えていた。
――この二人は、単に外部に存在していた”プレイヤー”じゃないのか?
――それに聞き間違いでなければ、人間性は最底辺だったとはいえ、まぎれもなく高レベルプレイヤーの”竜騎士”であるハルタと奴が率いている手下達を追い詰めたかのような口ぶりだが……一体、何者なんだ?
俺がそんな風に考え込んでいるうちに、隣から瞬時に強い風を感じる。
正面の二人があっけにとられた様子ですぐに宙を見たかと思えば、俺に向けて矢を放とうとしていたコノタスのもとに勢いよく大きな物体が覆いかぶさる――!!
いわずもがな、それはスキル:【野衾】を使用したオボロであった。
「うわっ、なんだコイツ……!?クソッ、離しやがれっ!!」
コノタスは自身の武器も捨てて、両手で必死にオボロを引き離そうとする。
対するオボロは、背を向けた状態のまま俺達に向けて叫ぶ――。
「リューキ!コイツはアタシが抑え込むから、アンタはもう一人を何とかしといてよね!!」
見れば、ヒサモとかいう忍者野郎が毒づきながら、両手に装着したカギ爪を振り上げてオボロに迫ろうとしていた。
アイツ等がどのくらいの強さなのかは分からないが、俺は無我夢中で駆け出しながら狙いをヒサモに固定し、スキル:【凌辱に見せかけた純愛劇】を発動する――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「――ッ!?」
眼前に迫ってきた俺に対して、意表を突かれた表情を浮かべて、動きを止める忍者。
相手は忍者なので、このリアクションすらも俺を欺き、手痛い反撃を食らわせるための何かしらの罠かもしれない。
だが今は、そんなことすらも気にせずに俺はすべてをかけるつもりで、拳の一撃を奴の腹部へと撃ち放つ――!!
「これで……終わりだぁぁぁぁぁッ!!」
「ッ!?ゴ、ゴハァッ……!!」
盛大に口から色々吐き出しながら、敵が盛大に後方へと吹き飛んでいく。
「……忍者なら、口元を覆ったりしてくんねぇかな」
おかげで、こっちの服にまで少しかかってしまった。
オボロの方を見れば、弓使いの方も観念したのか動きを止めて拘束されているあたり、たぶんそっちも大丈夫だろう。
武器の弓矢自体は飛び掛かられた時点でとうに地面へと、投げ捨ててるし。
安堵した俺は、後方のキキーモラさんに「何か拭くもんとかないかなー?」と尋ねる。
それを聞いたキキーモラさんは、道端で拾った『サラ金ティッシュ』という便利アイテムを持って、俺のもとへと近づいてきた……そのときだった。
「キキ~♪……ッ!?キキッ!」
それまで「しょうがないですね~!」という世話焼きおばさんみたいな態度から一転、キキーモラさんが慌てて俺のもとへと接近してくる。
俺が制止するよりも早く、キキーモラさんが勢いよく俺の方へと激突してきた!!
キキーモラさんと衝突したことによって、後ろ向けに倒れこむ形になった俺。
……最近調子よかったとはいえ、しょせん魔物なのか?
なんのつもりかは分からないけど、戦闘を終えた俺に対して、この仕打ちはないだろう。
一言ガツンと言わなきゃいけないと瞬時に判断し、俺はムクリと身体を起こす。
「……どういうつもりか分かんないけどさ、いくらなんでもお前、俺の事を」
そこまで口にした俺は、二の句が継げなくなっていた。
すぐにオボロの、「キキーモラさんッ!?」という叫びが耳に入る。
――キキーモラは、俺の眼前でぐったりした状態で倒れこんでいた。
見ればキキーモラの首筋には、何か小さな矢のようなモノが刺さっている。
最初は何が起きたのか分からなかったが、ここに来て俺は、自分が彼女に身を挺してかばわれたのだとようやく理解することが出来た。
混濁しかかった意識を現実に引き戻したのは、「アンタがよくも、キキーモラさんを!!」というオボロの怒声と、そのあとに何度か続いた鈍い衝撃音だった。
そちらのほうに視線を向ければ、オボロに殴られて気絶したらしい忍者野郎と、奴の右手から零れ落ちたと思われる吹き矢らしきものだった。
「――クソッ、半端に忍者みたいな真似しやがって……!!」
違う。俺が今言いたいのは、こんな事じゃない。
俺は、ようやく今何が起きているのかを実感するのと同時に、深く絶望が胸を覆いつくしていくのを感じていた……。




