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ギルドからの追放

 きっかけは何だっただろうか。





 このゲームに俺を誘ったヨースケこと板野いたの 洋介ようすけと俺が交流を持ち始めたきっかけが何だったのか、今となっては思い出せない。


 我ながら、洋介はよくこんな現実に対して斜に構えた態度を取るくらいしか出来ないくだらない奴と友人になる気になったな、と疑問に思う。


 無表情でいる事がクールであると勘違いしていた入学当時の俺は、そのまま『つまらないヤツ』というレッテルを貼り付けられたままそれを挽回する術を持たずに、クラスで誰もマトモな友人がいないまま一年が経過していた。


 2年に進級した俺だったが、遅すぎる高校デビューをする気力もなく、机の上で寝たふりをしながら休み時間が一秒でも早く過ぎ去るのを待つような高校生活を過ごしていた。





 ――このまま無事に2年の月日が経過すれば、『18歳以上』の項目を押して念願の”ノクターンノベル”を読み放題する事が出来る……。


 ――そうすれば、こんな鬱屈とした生活からは開放され、俺もハジけた人生を送れるかもしれない……!!




 そんな漠然とした希望だけを胸に灰色の日々を耐えていた俺に、根気よく話しかけ、この≪PANGAEAパンゲアTHEONLINEオンライン≫というクラスでも話題で持ち切りだという最新VRゲームに誘ったのが洋介だった。


 確かそっけない様子で俺は答えていたと思うが、俺はそのとき飛び跳ねたくなるほど嬉しかった。


 なんせ、プライベートな時間を使って人と遊ぶのなんて小学生のとき以来なのだ。


 今思うと、そんな俺の気持ちを察していたのか、あのときの俺の返事を聞いた洋介はニヤニヤと、俺とは違って嬉しそうな表情をしていたかもしれない。





 学校にいたときとは打って変わって画面の前ではしゃいでいた俺は、洋介が制止するのも聞かずに、このVRゲームでのキャラメイクを最弱職と言われる”山賊”で始める事にした。


 俺みたいな現実が上手くいっていない奴は、本来ならもっと強い職業を選択し、日頃の鬱憤を晴らすかのように敵モンスター相手に無双すべきだったかもしれない。


 ただ、そのときの俺は違った。





 ――自分だけでプレイしているならともかく、洋介と共にゲームをプレイしている以上、そんなイキって恰好つけている姿を見せるのは恥ずかしい。


 ――普段仏頂面で不愛想な自分にも、こんなネタ職業を選ぶユーモアがあるのだと洋介にアピールしたい。


 ――……何より、例えここがゲームの中だろうと、自分がただプライドが高くて人よりも劣った存在なのではなく、他の人間とは違った”普通じゃない”事が出来る人間なんだと証明したい!!





 この高校生活ですっかりひねくれた思考回路を身に着けた俺は、諸々の自分にしか理解できないような理由から、頑なな態度でこの”山賊”でプレイする事を選んだ。


 その当時、俺が密かに読んでいた”小説家になろう”というサイトでよく見られた『最弱のスキルや職業と思っていたけど、実は最強!!』的な作品などの影響もなかったとは言い切れない。


 とにかくそんなしょうもない理由から始まった俺のゲームプレイだったが……本当にパーティを組む相手の事を考えるのなら、この”山賊”なんて職業は絶対に選んではならないと豪語出来るほど、あらゆる性能においてまさに最弱だった。


 あまりの弱さを前に後悔と一緒に行動してくれている洋介への申し訳なさから、開始してすぐにキャラをリメイクする事も考えていたが、洋介は「お前がそれで良いんなら、俺もトコトン付き合ってやんよ!」と、自分のプレイが効率悪くなる事も構わずに、笑って許してくれていた。


 ……そんな洋介が最後に俺に遺した言葉が、脳裏に刻みついて離れない。





 ――『チ……ティン、ポ……♡』





 アイツが何を俺に伝えたかったのか、どう考えても分からない。


 ただ、それでもその意味をこれから探していくのが、遺された俺の使命なのだと感じていた。





 洋介の言葉を噛みしめながら、俺は――。









「そんじゃ、いっきまーす!!……喰らえ!必殺のぐるぐるパ~ンチ♡」


「ッ!?……グフッ!!」


 唯一生き残った俺は、帰還アイテムで戻った町のギルメンハウスで、他のプレイヤー達から盛大なイジメを受けていた。


 本気でないとはいえ、最弱職である俺にとっては致命的となる放たれた拳は、避けることも許されずに身体で受け止めるしかなく……無様に床に倒れ込んだ俺を、そいつの仲間のプレイヤー達がドッ!と声に出して爆笑していた。


 咳き込みながら倒れ込んでいる俺に、プレイヤー達から初級の回復魔法や薬草が与えられる。


 ……もちろん、これは慈悲などではない。


 嘲笑とともに、プレイヤー達が屈辱的な言葉を投げかけてきた。


「アハハッ!あんだけの弱攻撃程度で死にかけてるとか、マジ受ける~~~!!」


「オイ、リューキ!薬草恵んでやっから生き残れた幸運を噛み締めながら、キッチリとサンドバッグ役に励んでくれよな☆」


 それらの回復処置は、俺を長くいたぶるための行為だった。


 俺の命を玩具扱いしながら、何がおかしいのかまた盛大に爆笑し始める他プレイヤークズ共。


 その数、男女合わせて23名。


 みな楽しげに、苦しむ俺の姿を嘲笑っていた。


 コイツ等は、この”ヒヨコタウン”という町を拠点にしているプレイヤーギルド:『肝っ玉バイプス』に所属している高レベルプレイヤー達だった。


 一カ月前のあの日、突如起きた謎の大異変によって、俺達”PANGAEA”のプレイヤー達は強制的にログアウト出来なくなっていた。


 ログアウトも出来ずに、戦闘で負ければ復活することなく文字通り消滅する……という事態に最初は皆戸惑うだけだったが、次第に事の深刻さが伝わって行くと、プレイヤー達はみなパニック状態に陥ったり怯えて何も出来ないまま、日々を過ごす事になった。


 俺達初心者プレイヤーは後者の存在として何も出来ずに震えていたが、高プレイヤー達の間ではこの事態を前にどうするかで対立が深まり、このヒヨコタウンを根城にするプレイヤー同士の殺し合いにまで発展した結果、この町の支配権を握ったのが『肝っ玉バイプス』のギルドメンバー達だった。


 『肝っ玉バイプス』はイキった名前に反して、事態解明のために動くのではなく、ヒヨコタウンを根城に自分達が面白おかしく遊んで暮らす事を指針としたギルドであった。


 そのため、奴等は敵対する者達を見せしめにPKプレイヤーキルしていき、残った俺達みたいな傍観者だった奴や弱小プレイヤー達を強制的に自身のギルドに取り込み、奴隷同然に扱い始めたのだ。


 奴等は俺達低レベルプレイヤー達に雑用をさせたり、今みたいに憂さ晴らしにイジメたりしながら、俺達のレベル上げのためと称した無茶なモンスター討伐をさせて、良い装備や武器が手に入った場合は色々と理由をつけてそれらを取り上げる……という事を繰り返していた。


 今回はいつも以上に無謀ともいえる魔物達の密集地に駆り出され、その結果、俺達は当然の如く全滅に近い形となった。


 そんな愚かな命令を下した自分達の愚考を反省するでもなく、コイツ等は帰ってきた俺に対して


「あっちゃ~、全滅しちゃったか!残念、残念☆」


 と軽く口にしながら、ロクな戦果を挙げられなかったバツと称してそのまま俺をリンチし始めたのだ。


 そんなボロボロになっている俺に対して、このギルドのリーダーにして俺を殴りつけていた『スプリングス=ハルタ』がにこやかに笑いかける。


 スプリングス=ハルタは、ふざけた言動をしているが上級職:竜騎士のプレイヤーであり、レベルは50到達間近な、このヒヨコタウン最強を誇る実力者である。


 ハルタは俺はひとしきり殴ってから、気が済んだのかフ~、と一息ついた。


「……それにしても、雑魚プレイヤー君達はもう少し遊べるかと思えたけど残念だったな~!!……君ら、本当に弱すぎ~☆」


 ハルタの発言を受けて、ゲラゲラと笑う取り巻き達。


 その声を聞きながら、俺はこのゲームだったはずの世界で、何度目になるか分からない悔し涙を流していた。


 最弱職である俺はともかく、ヨースケや今回の討伐全滅の原因になった魔術師の男は、ちゃんとした装備があれば戦えたはずだった。


 だが、俺達が必死に手に入れた装備すらコイツ等は大して必要じゃないくせに取り上げ、僅かな金にするために売り払って馬鹿騒ぎに興じる。


 強敵を必死の思いをして倒して得たにも関わらず、特製の朱槍を取り上げられたときのヨースケの弱々しい笑みと「……流石に、俺はもう無理かもしんない」という疲れ切った言葉を、今でも俺は覚えている。





 ――お前等さえいなければ……!!





 そんな事を考えていた俺だったが、その直後、信じられない言葉を突きつけられることとなる。





「まぁ、もうある程度は楽しめた訳だし?――っつー訳で、ごく潰しの最たる底辺職:”山賊”のリューキ君は今日限りでこの町から退去してもらうことにしまーす☆」





 信じられない事に、俺にもたらされたのはギルドマスター直々による”追放宣言”だった。


 呆然とする俺だったが、そんな俺の様子をさも愉快であるかのように嘲笑しながら、リンチを愉しんでいた他の取り巻き達がハルタに異議を唱える。


「え~!でもハルタン、雑用とかコイツにやらしたら良くない?ゴミのポイ捨てはいけないんだよー?」


 それに対して、ハルタは煩わしそうな表情を浮かべながら女の軽口をいなしていた。


「どうせコイツ一人をこき使ったところで、たかが知れてる……どころか、ロクに雑魚一匹狩れやしないのは分かってるっしょ?雑用だってトロ臭いコイツにやらせて、こっちがイライラさせられるストレスよりも、この町にいるNPCにやらせた方が数百倍効率良いだろうしな!」


 俺はコイツらからすると他の低レベルプレイヤー達よりも圧倒的に弱すぎて、いじめたときのストレスよりも同じ空間に一緒にいる事の方が不快な存在……まさに、同じ人間とすら認識されなくなっているのかもしれなかった。


 と言っても、それがこのメンバー全員の総意という訳でもなく、ギルドメンバーの中でも俺達低レベル組が一気に減った事で自分がこのギルドの中の底辺レベルに近づいたモノや、キャラの性能などとは関係なくコミュニケーションなどが下手で立場がもともと微妙だった者達は、都合の良い身代わり(スケープ・ゴート)がいなくなる事を懸念しているのが、顔つきから見てとれた。


 そんな彼らの心境に気づかず――あるいは気づいてないフリをしているのかもしれないが、なおも残酷な決定を俺に向けて突きつける。


「何も出来ない無能君の辛気臭い面を四六時中見せられるのもマジ、このデスゲーム以上の罰ゲームなんで、それなら”山賊”らしく適当に野山で暮らしてもらった方が、本人ものびのび出来ると思うんですよね~、僕は!」


 後半になるにつれて、本来の調子でふざけながら耳障りな声でしゃべるハルタ。


 そんなハルタに対して、他のメンバーからギャハハ!と声がかかる。


「そ、そいつぁ酷ってモンだろギルマス!……なんせ、”山賊”ってのは全てのステータスが最弱なうえに、何故か他の職業よりも得られる経験値が少なく、必死にレベルを上げても何のスキルを入手する事も出来ないゴミ職なんだぜ?……開発のバグという他ない糞仕様、ここに極まれりって感じなのに、こんな奴がどうやって野良のモンスターが徘徊している町の外を生きていけるんだよ!」


 この取り巻きの男が言う通りだった。


 このゲームにおいて”山賊”という職業は、MPや魔力だけでなく、何故か攻撃力や防御力、素早さといった身体能力に関する能力までそこいらの紙装甲な魔術師タイプの職業に劣るという最弱ステータスだった。


 おまけに同じ戦闘に参加しても、貰える経験値の量が格段に少ないのだ。


 同じ時期にこのゲームを始め、同じくらい戦闘に参加しているヨースケは25レベルくらいだったのに対して、俺も必死に戦ってきたのに8レベルという有様だった。


 更に、普通の職業ならばレベル2、少し上の職業ならばレベル5で何らかのスキルを得られるのに対し、”山賊”は8レベルになっても未だ何のスキルの兆しもなかった。


 10レベルに到達する事に希望を見出していたが、それでも、取り巻きが口にした言葉と同じ事を思わざるを得ない。





 ――”山賊”は、まるでこの世界そのものから嫌われている。





 そしてそんな俺が、こういう目に遭う事が分かっていたにも関わらず、ノコノコとコイツ等が支配する町に戻ってきたのは、例え一人逃げ出したところでこんなクズ性能である”山賊”なんかで、野性に出没するモンスターを撃退しながら結構離れたところにある他の町を目指せる自信などなかったからである。


 ――野生のモンスターに襲われないこのヒヨコタウン(地獄)にさえいれば、最低限の安全は保たれる。


 そう思っていたからこそ、今までどんな目に遭っても耐えてきたのに、ここでハルタからもたらされた追放宣言は、事実上の死刑宣告以外の何物でもなかった。






 ――嫌だ、嫌だ、嫌だ!!


 ――せっかく生き残り、何とかいじめにも耐えてきたのに、勝手な気まぐれなんかで殺されたくない!!


 ――俺は、それこそ何のためにこんな目に遭ってきたんだ!!





 ついさっきまで、コイツ等がいなくなる事を願っていたにも関わらず、俺は憎んでいたはずのハルタ達に向かって声にならない命乞いの視線を送る。


 そんな俺に対して、ハルタが醜悪な笑みとともに言葉を投げかける。


「――まぁ、俺も鬼じゃないし?『ギルドのみんなに僕ちんは貢献できます!』って事を示せるとびっきりの手土産を持ってこれたら、今回の失態の責任はチャラにして、また仲間としてこのギルドに加えてやんよ!……何なら、それが達成出来たら、コイツに咥えさせてやっても良いよ?」


 そんなふざけた発言に対して、とりまきの女が「ふざけんなしwwwってゆうか、これ全年齢版ゲームだから、そういう行為出来ないの分かってるっしょ?」と笑い、さっきの取り巻きの男が「てゆうか、それ実質タダの追放宣言に変わりないじゃん!」と茶々を入れる。


 それに対してハルタは


「馬鹿!どうせコイツは知力も最弱だろうから、黙っていたらバレないかもしれないだろ!……これ、本人には内緒な?」


 と、自身の口に人差し指を当てながら、大声でそんな人を馬鹿にしきった発言を口にしていた。


 仲間内で盛大に爆笑しているコイツらには、最早俺の存在は視界にも映っていないかのようだった。


 そんな耳障りな哄笑を聞いていた俺の脳裏には、諦めにも似た考えが浮かんでいた。





 ――これ以上、屈辱的な扱いを受けて更に無理難題をふっかけられるくらいなら、注意が逸れた今の内に自分からここを出よう。





 確かに最弱のステータスだが、レベルを10まで上げる事が出来るかもしれない……。


 もしもそれで強力なスキルなどがゲット出来たら、ハルタの言うとおりモンスターが出没する野山でも何とか生き抜く事が出来るに違いない……。


 そんな半ばやけっぱちな思考で、涙を拭いながらノロノロと立ち上がった……そのときだった。




「おーい、みんな!!コイツらに割り振られた部屋から、面白いモノを見つけたぞー!!」





 俺達用に割り振られた粗末な造りの物置から、嬉しそうに姿を現したのは、他人をいじるのが趣味である超絶キョロ充の高レベルプレイヤー:マリオだった。


 マリオの右手に掲げられていたモノを見て、俺の理性が瞬時に弾け飛ぶ――!!





 ――マリオが手にしていたのは、俺達低レベル組の男プレイヤーが僅かな金を出し合って購入した装備品である、『過激な性描写のライトノベル』だった。





 この『過激な性描写のライトノベル』というアイテムは、ある魔法使い系統の職業のキャラクターのみが、装備する事が可能である……とされている武器だった。


 俺達低レベルプレイヤーの中に、この『過激な性描写のライトノベル』を装備出来る条件の職業の奴はいなかったのだが、日々『肝っ玉バイプス』の高プレイヤー達に虐げられて鬱屈としていた俺達は、この装備のムチ♡プリなヒロインが描かれた表紙を眺めながら、心の慰めにしていたのだ。


  当然の如く、最も稼ぎに貢献していなかった俺は低レベル組ですらハブられる形で回し眺めさせてもらえなかったのだが、ヨースケはこっそり自分の番に俺に譲ってくれる事があった。


 俺はヨースケに感謝しながら、この世界から脱出して現実に帰還したら、『こういった過激な性描写のライトノベルや、ノクターン作品を執筆するユーザーになってみせる……!!』と、想像の翼を広げ、鼻息も荒いままに決意と海綿体を固くしていた。


 そんな俺達の想いの結晶が込められた宝物を前に、ハルタ達は――。





「ウッヒャ〜〜〜!これはメチャ♡シコクオリティで、ゲームも耐久力も弱っちい童貞プレイヤー達には、刺激強すぎで即死級ですわ!!」


「なんでこんな無駄におっぱい強調してんの?ウケる〜〜〜!!」


「……なるほど。雑魚プレイヤー達は自分達が装備も出来ないこの魔導書を眺めながら、上下両方から惨めな雨を撒き散らす夜を過ごしているのか……これは興味深い」





 ……何故、ここまで侮辱されなければならないのか。


 俺達が一体、何をしたというんだ。


 俺だけじゃない、ヨースケのような死んでいった奴等の尊厳まで踏みにじる資格が、お前達にあるのか!?





 ――気がつくと俺は、無我夢中でハルタ達へと掴みかかっていた。





「ふんがぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


「ッ!?うわっ、何だコイツ!!」


 何とかハルタ達から、みんなの想いが詰まった『過激な性描写のライトノベル』を取り戻した俺。


 だが、すぐに引き剥がされて地面に倒されると、当然の如く奴等から盛大なリンチを受ける羽目になった。


「調子に乗ってんじゃねーぞ、コラァッ!!」


「テメェ、本当にキモいから!……死ね、さっさとくたばれっての!!」


「ふ、不信じゃ不信じゃ〜〜〜!?何も信じられぬ!……麿は、雑魚プレイヤー不信でおじゃる〜〜〜!!」





 手加減されたパンチで死にかける俺が、これだけ怒りに満ちた本気の蹴りを受け続ける以上、最早死は避けられないだろう。


 ……それでも、何とか本当に大事なモノを守り抜く事が出来た、とうっすら考えていた――そのときだった。





 ――大事な家族・友人といった周囲の”縄張り”を守り抜くという誓い。


 ――理性や理屈では制御出来ないほどの剥き出しな熱き”衝動”。


 ――新たな時代を切り開く事を夢見る意思の力。





 ……何だ今のは?


 何やら、変なイメージ……いや、意識のようなモノが俺の中に流れ込んでくる。


 それとほぼ同時に、朦朧とした意識ごと俺のHPバーが豪快に消し飛んだ――。





「やっべ、ついやり過ぎて死んじゃったぞ、コラッ♡」


「いけね、いけね……とりあえず、死んだコイツはどうでも良いけど、後生大事に抱えているこの装備はどうする?」


「え〜、アタシらの中に装備出来る奴もいないし、コイツごとポイで良いでしょ?」


「リサイクル精神はどしたwww……にしても時間経ったのに、コイツ消えるの遅くねぇか?」





「本当だ……何だコイツ?」「死んでる……よな?」「ちょっと、変な事言うなし!」「あ〜、何でも良いや!お前ちょっと、適当に捨ててこい!」「え?俺?」「朝には光になって、消えてんだろ」





 そんなやり取りのもと、メンバーの中で比較的立場が弱い奴がハルタ達の命令のもと、外に俺の身体を運び出し、ギルドハウスから少し離れた路地裏に俺の身体を放棄してから、悪態をついて立ち去っていく――。


 最後まで何の憐れみもなく、侮蔑され続けた俺の人生だったが、ふと一つの疑問が脳裏に浮かぶ。









 ……何で俺、まだ意識があるんだ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今私は不思議な感覚に包まれております。 序盤はなろうテンプレートをなぞった作品なのでしょうか?と思わされていたのに、いつのまにかピカソの絵の中にでも入り込んだような錯覚を起こしました。 え…
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