苦難の果てに
俺が苦難を乗り越えた先に、獲得した新スキル――【凌辱に見せかけた純愛劇】。
このスキルは選択した相手に対してのみ、自身の全てのステータスを二倍に跳ね上げるという性能である。
”BE-POP”は結構減少しているものの、このスキルを使う分は残っているため、使用に関しては特に問題ないといえる。
だから、今問題にすべきはそういう部分の話ではない。
重要なのは俺がこのスキルを、たった今(仮とは言え)”母親”扱いした相手に使用しなければならない、という事である――!!
母子近親ものとか高校生である俺には、刺激が強いというか端的に言ってキツ過ぎ……といった感じであり、おまけに相手はボロ布纏った鳥顔のクリーチャーである。
『いや~、これを相手に”凌辱”だの”純愛”だの色々無理っすわ!(笑)』と、慣れないテンションで言いたくなるのも無理からぬことであろう。
これが最初から『単なるモンスター相手に、そういう変な名前のスキルで攻撃するだけ』という感覚だったらまだ救いはあるのだが、如何せん俺は、後先考えずに『とりあえず、新スキルを使ったら何とかなるだろ』という認識のもと変に気分が高揚していたのもあり、キキーモラから感じた”母性”を気のせい扱いせずに全肯定したままで、段取りを進めてしまったのだ。
己の中で意思の力――すなわち、”BE-POP”が再び急速に萎み始めていくのが分かる。
……イカン、これ以上”BE-POP”が減少したら、流石に【凌辱に見せかけた純愛劇】すら使用出来なくなる!!
俺が使える残りのスキル:【山賊領域】はそれ以上に消費量が激しいため、現状でこれを使うという案はありえない。
ゆえに俺は、この戦況を打破する唯一の可能性に賭けるために、発動するための”BE-POP”を維持させようと『父親の再婚で新しく出来た妖艶な義母と一緒に、父親が出張でいない週末にドキドキ♡ハプニング!』な想像を必死に働かせながら、新スキルの項目を選択する――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
圧倒的な力の奔流が、俺の全身へと駆け巡っていく――!!
……これが新しい俺の力の発現。
もしも、『高校生なのに、母子近親もので目覚めかけた』という事が他の誰かにバレたら、今以上に周りからイジメられたりしないかな?――といった不安が一瞬だけ脳裏をよぎる。
だが、そんな妄想や懸念すらをも灼き切る勢いで、俺は正面に見据えたキキーモラへと疾走していく――!!
「――ッ!?」
慌てて手にした箒を前にして、防御らしき行為をしようとするキキーモラ。
――この攻撃が不発で終わったら、相手の反撃で死ぬかもしれない!!
そう判断した俺は、突撃する勢いで相手のもとへと肉薄する。
「今度こそ――コイツで、決まりだッ!!!!」
俺の渾身の力が込められた掌底。
それを受けて、キキーモラが盛大に後方へと吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がり回ってから、相手は腕をピク、ピク……と数回動かし、そこでようやく動かなくなった。
対する俺の方も相手を倒した事でスキルの効果が切れたらしく、一気に力が抜けて満身創痍な状態のまま、地面にへたり込む形となっていた。
肩で息をする俺のもとに、上の方から何やらパチ、パチという音が聞こえてくる。
音のした方へ振り返って見上げてみれば、そこには木の枝の上に器用にしゃがみながら、こちら側に向けてにこやかに拍手するオボロの姿があった。
オボロの技術なのかこの世界のルールなのかは分からないが、(何で、この角度でパンツが見えないんだ……?)という疑問ないし憤りをおくびにも出さずに、すぐさま俺は彼女の顔を見る。
対するオボロは「よっと!」と軽く言いながら、下着を見せることなく謎仕様なジャンプで、振り返った俺の眼前に上手く着地した。
「お疲れ様~!……ロクに特訓もしようとせずに、何かエッチな本?を開こうとし始めたときは、流石に呆れて『よ〜し、コイツは絶対に追放しよう!』と思っていたけど、何だかんだで初めての戦闘を自分の力だけで勝てたじゃない!……う~ん、本当はもう少しもったいつけたいところだけど、ここは素直に合格って事にしてあげる♪」
茶目っ気溢れる笑顔とともに、俺にそう告げるオボロ。
一瞬、何を言われたのか分からなかったが、ようやく理解し始めた俺は確認の意味を込めて慌ててオボロに訊き返す――!!
「オボロ、それってつまり……」
「何よ、もう。本ッ当に鈍いわね!!……特別にアンタとの同盟関係を続けてあげる、って言ってんのよ!……感謝しなさいよね」
フンッ!とわざわざ口にしながら、すぐさま顔を背けてこちらに背を見せるオボロ。
そんなオボロの言葉を聞きながら、俺は見捨てられずに済んだ安堵感ととりあえずとはいえ、実力を認められたという喜びから「よっしゃ!」と、柄にもなくガッツポーズを取っていた。
あのキキーモラという魔物は、ここらへんでは珍しいかもしれないが、どうみても戦闘向きじゃなかった。
そんな相手にここまで息を切らせて手こずるような俺が、オボロが脱退した状態でソロで生き抜くなど、あまりにも無謀過ぎるというものだろう。
ひとまずの危機は去ったと言えるはずだったが……ここに来て俺は、ある重要な事を思い出す――!!
「――ッ!!いけね!こんなやり取りよりも先に、アレを……?」
オボロとの会話を切り上げて振り返った先――。
そこで俺は、2つの信じられない光景を、目にする事になる……!!




