”BE-POP”の可能性
早くもオボロに決別宣言をされかかった俺は、とりあえず彼女が調理してくれた魔物の肉を気まずい空気の中で黙々と食べ終えた。
「あ~……それにしてもあの猪の肉、本当に凄くマズかったな~……」
俺が中学生の頃連れていってもらった店で調理してもらった猪の肉は、割と食べ応えがあって美味しかったはずだ。
けれど、この『ホッタテ山』でオボロが捕獲した猪型の魔物の肉は半端なく生臭くてとても食えたものじゃなかった。
せっかくの食材が美味しくなかった理由としてオボロの調理の腕や【瘴気術】の影響を問題視していた俺だったが、オボロ曰く、猪というのは熊などのように冬ごもりのために食料を貯蔵する習性を持っていないため、食料の少ない冬の時期になると地面の下に潜んでいる虫やミミズといったものを見境なく食べあさっており、そのため木の実などを主食にしている他の生き物と違って内臓は圧倒的に臭く、肉はキチンと加工しないとロクに食えたものではない、との事だった。
俺はオボロが周囲にいない事を確認してから、『それにしても、これで腹を満たすことになるのは……激しく損だろ』などと軽く毒付きながら、ここ数日で”修行場”として使用している小高い丘の上に着いた。
いつもはここら辺の魔物に大抵対処できるオボロが見張りがあったから安心して修行に集中する事が出来ていたが、今日はオボロによる決別宣言や食事時の気まずさもあって必然的に俺のみで行うこととなった。
他の第三者が見たら、そんな俺が修行どころか一人で行動する事すら無謀と感じるかもしれない。
だがそんな状況だったが――俺はとりあえず『今日ならば、多分上手くいくだろう』と思う事にした。
なぜなら、ここに来るまでに魔物は運よくこの場にはおらず、俺自身がオボロの警護という保険がなくなったことによって、むしろ土壇場の集中力のようなものが研ぎ澄まされるかもしれないからだ。
類まれなる幸運と、高確率で発動する可能性がある自身の能力の覚醒――これらの要素が上手く揃えば、俺が強くなれる事はもはや必然と言っても過言ではなかった。
「第一、”BE-POP”を扱う修行とか言っていたけど、オボロの説明は突拍子もなさすぎるだろ……何だよ、八大属性って」
オボロ曰く”BE-POP”とは、『新時代を切り開く者』とされる”山賊”という存在が用いるとされる強大な意思の力……であるらしい。
――山賊って、通行人や商人から金品巻き上げたり女性を強奪するだけの単なるゴロツキ社会不適合MAXレベルの単なる犯罪者集団じゃないのか?
――”BE-POP”って、単なる音楽用語じゃないのか?
――……それに、本当にそんだけ強い存在なら、何でこの世界では”山賊”がこれほどまでに弱いんだよ。
そんな疑問を呑み込みながらも何とかオボロの説明を聞いたところによると、”BE-POP”を使いこなすことが出来れば単純な物理法則すら超越する事が可能である……というにわかには信じられない話だった。
しかし、生来のひねくれた見方をするなら、これが現実社会でいきなり身に着けたのなら確かに「これ、スゲー!!」とか柄にもなくはしゃいだりするかもしれないけれど、ここは魔法やらモンスターが存在する≪PANGAEA・THE・ONLINE≫というゲーム内の世界である。
どれだけ強大な能力だろうと、果たしてこの最弱レベルの性能でどれほどの事が出来るというのだろうか……。
「てゆうか、ただでさえ信じにくい話なのに、オボロの説明が悪すぎるんだよな……冗談抜きで」
なんせオボロと来たら、どうやって”BE-POP”を使用すれば良いのか分からないから聞いているのに
「だから、何か固定観念とかに囚われない感じで、自由なイメージを羽ばたかせる~!みたいな?」とか、
「魂を燃やし尽くすほどの力……それが”BE-POP”だ!」
とか、ふわっとした誰でも言えそうな抽象的な話ばかりをしてくるのだ。
百歩譲って、これらの発言も俺のような山賊初心者の想像力を変に固定化しないための配慮、と言えなくもないかもしれないが、上記のような説明をした後にオボロは平気で『天空流では八大属性がうんぬん~~』みたいな訳の分からない単語を持ち出してきたりするのだ。
『火属性はエッチな気分にさせるのに特化している!』とか、聞いていて馬鹿らしくなる脳内設定の羅列と『アタシは、八大属性のうちの四つに適正があるんだよ!!凄いでしょ!?』という承認欲求だけが凄そうなドヤ顔&発言を受けた俺は、『あ~、意識をシャットダウンしたうえで、無駄な時間を過ごしたな~……』と判断し、以降は”BE-POP”を扱う修行に関しては当てにならないオボロに頼ることなく、自分で強くなることを余儀なくされたのだ。
「あの話が本当だったとしても、あんな八大属性を半分近く使用出来るからって何が凄いんだよ……一生使わない知識ランキング、堂々の終身一位確定ですわ……」
そうぶつくさと呟きながらも、自分だけでは”BE-POP”を鍛えるためにどんな修行方法をすれば良いのか皆目見当がつかない。
丘の上で寝転がりながらも、思考の八方ふさがりで諦めかけていた……そのときだった。
「……ッ!?待てよ、仮にも”BE-POP”とかいうのに目覚めた今の俺なら、もしかして……!!」
そう言いながら、ガバッ!と身を起こす俺。
慌ててアイテムボックスを確認すると、中には当然の如く――この生活をするきっかけにして、俺の現状を打破する可能性を秘めたとっておきのアイテムが表示されていた。