トラップ、発動――!!
謎の起動スイッチを踏んでしまったオボロ。
それと同時に、通路の至るところから機械製のコードが伸びてきてオボロの方へと向かっていく――!!
「モンスターじゃなくてトラップだから、【獣性探知】には何も反応しないって訳……!?っていうか、またこの流れ!?」
逃げようとしたものの、驚愕で動きを止めてしまった一瞬の隙を突かれて、オボロの全身はコードに巻き付かれ完全に拘束されてしまっていた。
「クッ、コラッ!?……離せぇッ!!」
オボロがそう叫ぶものの、意思なき機械がそんなものに答えるはずもない。
機械で出来た無数のコードは、オボロの身体を這うようにまとわりついていく。
「なぁ、くぅ……っ!こ、この!!」
顔を赤らめながらも、必死に抵抗するオボロだったが、拘束しているコードが宙へとその身体を持ち上げたかと思うと、遺跡の壁からこれまでより一回りほどの太さと、先端部分を電気で発光させたような異質なコードが姿を現した。
その機械の出現とともに、アナウンスらしきものが流れてる。
『対象の消耗率を3割ほど確認。――これより、スマイル精神をモットーに、対象に元気を注入していきます――』
アナウンスの声を聞いたオボロはその瞬間、これまでの赤らめた状態から青ざめた表情へと瞬時に代わって声を上げる。
「ちょ、ちょっと……注入って一体何するつもりなの、アンタ!?こ、こっちに近づいてくんな~~~!!」
これ以上は流石にマズイ――!!
そう判断した俺達は、慌ててオボロを拘束したり元気(意味深)とやらを注入しようとしている機械群へと突撃していく。
「――"金"とはすなわち、キラリと輝くセンスでみんなを魅了する在り方なり。……括目せよ!天空流奥義:"スタイリッシュ斬り"ッ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
「フン、ハッ!!」
ヒサヒデの剛腕とラプラプ王の巧みな短刀捌きから放たれる斬撃によって、機械のコードが次々と引きちぎられ分解されていく。
俺達の突撃によって、機械から解放されたオボロは「わっぷ!」と声を出しながら、尻もちをついたものの、どうやら無事であるらしい。
ひとまず危機が去ったことに安堵しながら、オボロに手を貸して立ち上がるのを助ける俺。
オボロに捕まれた自身の手を見ながら、俺はふと思案にふけっていた。
――心なしか、いつもより"スタイリッシュ斬り"をした時に手ごたえなかったか?
気のせいと言ってしまえば、それまでかもしれない。
ただ、機械達に"スタイリッシュ斬り"を放った時に、かすかに手刀に斬撃が宿ったように俺には感じられていたのだ。
……まぁ、実際はレベルが上がった事による身体能力の向上を、今更実感できるようになった、というだけかもしれないが。
そんな事を考えている間にも、オボロが口を開く。
「本当に散々な目に遭ったわ~……だけどみんな、今回はとりあえず、ありがとね!」
まぁ、今回のトラップは流石に引っかかっても仕方ない部分があるしな。
無事を喜びあっていた俺達だったが――その直後に、遺跡内に響き渡るような轟音と衝撃が響き渡ってくるのを感じていた。
「な、なんだよコレッ……!!トラップを壊したと思ったら、また別のが作動したのかよ!?」
訳も分からない事態に、思わずそう叫ぶ俺。
だが、ラプラプ王が身体を低くかがめながら“否”と告げる。
「いや……前方から、何者かが近づいてくるようだ!!……それにしても、離れていても伝わってくるとは、なんたる気迫の持ち主なんだ!!」
ラプラプ王の発言を受けて、その方向を見ながらも――オボロは信じられない、と言わんばかりに目を見開く。
「嘘……アイツって、どう見てもモンスターだよね!?なのに、アタシの【獣性探知】が全く作動してないんだけど!?」
「ッ!?な、なんだって!!」
そんなはずがない――と、俺も前方からドシン、ドシン……!!と豪快に足を踏み鳴らしながら、こちらに近づいてくる相手を見つめる。
見れば、それは巨躯で全体ががっしりとした猛烈系ふくよか体型とでも形容できそうな姿をした、女性らしき存在だった。
はっきりと断言出来なかったのは、その姿が以前ライカが呼び出した“シャドウ・ビースト”という魔物のように、全身が真っ黒な影のようなもので覆われていたからである。
影で覆われた部分以外は、爛々と光った瞳と大きく開いた口を識別できるのみ――と言いたいところだが、彼女にはもう一つ大きな特徴があった。
「なんだ、アレは……本物の昆布、なのか?」
相手の姿を見て、思わずそんな戸惑いの声を上げる俺。
それというのも無理はない。
(おそらく)全裸であろう相手は、自身の猛烈な胸部と腰を隠すように、昆布柄……ではない昆布で作ったとしか思えないビキニを身に着けていたのだ。
ただならぬ気迫と異様な姿を前に、数で優っているにも関わらず既に気圧され始めている俺達。
だが、衝撃は外見だけではなかった。
慌てた俺やオボロは、相手のステータス表示を見てさらに愕然とさせられることとなる――!!
「名前は、“淫蕩を打ち砕く者”で……えっ!!何コイツ!?レベルが99ってどういう事!?」
戸惑いの声を上げるオボロに対して、俺は奴から全く視線を外すことなく、真正面を見据えながら答える。
「……それも当然かもしれないぞ、オボロ。――なんせコイツは、“神獣”同様にこの世界に一体ずつしかいないとされている“ユニークモンスター”に分類されている魔物だ!!……そこいらの野生の奴等とは、格段に強さが違うッ!!」
耳慣れない単語なれど、俺の様子から何かを察したのか、オボロやヒサヒデが驚愕の表情を浮かべる。
ユニークモンスター:“淫蕩を打ち砕く者”。
圧倒的な存在を前に、俺達が身動きを取れなくなっている中、彼女はゆっくりと――かつ盛大に右足を上げたかと思うと、勢いよく四股を踏む!!
『~~~~~~~~~~ッ!?』
遺跡内全体を揺らすような衝撃が、再び豪快に響き渡る。
そうして、“淫蕩を打ち砕く者”は、準備が整ったと言わんばかりに声を上げる。
「――ドスコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッイ!!」
凄まじい開戦の号砲とともに、俺達と奴との死闘が幕を開こうとしていた――。




