突入、開始――!!
これまで見渡す限りの大森林が続いてきた中に、不釣り合いともいえる威容でドドンカン!と聳え立つ巨大な人工物。
外観としてはパッと見、俺が昔沖縄に行ったときに見た城と似たような造りをした入り口があり、ここから入ることによって広大な遺跡内を移動する事が出来るようになるらしい。
しかし、このゲームを作った奴等も海がないこのシスタイガー大森林というエリアに、沖縄をモチーフにした感じの城を作ることに違和感とか覚えなかったのだろうか……?
まぁ、どちらも南国っぽいとはいえるだろうけど……う~ん。
「ちょっと、リューキ!何ボケーっとしてんの?……これから、あそこに突入するっていうのに、まさか怖気づいたんじゃないでしょうね?」
ふんす!と鼻を鳴らしながら、オボロが俺にそう訊ねてくる。
そんなオボロの発言で意識を引き戻された俺は、「んな訳ないだろ」と言いながら、俺は入り口の方に視線を移す。
現在俺達は、敵に見つからないように茂みに隠れながら遺跡の入り口を見張っていた。
入り口には侵入者を阻む門番のように、三体の魔物が警護していた。
二体はこけしの顔に、表面がメタリックな質感の材質に覆われたグラマラスな身体つきをした機械系の魔物であり、名前表記では“こけしオートマタ”と表示されている。
もう一体は、膨らんだ頭部に前肢だけで這いまわる異様な姿の機械獣という変わった魔物:“ヴァイブス・ハウンド”だった。
“こけしオートマタ”のレベルはどちらも35、“ヴァイブス・ハウンド”のレベルは38。
そこいらの異種族よりもレベルが高く、俺が挑めば死闘は確実に避けられない魔物達だった。
この大森林で俺達が遭遇する事になる初の機械系の敵との戦闘。
ここは無謀に仕掛けるのではなく、確実に勝利を獲るために俺達は迅速に確認作業を行う。
「ヒサヒデ、あのお姉さん達は割とグラマラスそうだけど、お前ならあのこけし達を何とか出来るか?」
「……ピ~ス」
俺の問いかけに対しても、ヒサヒデは明らかに乗り気ではない。
どうやら、ヒサヒデは相手のビジュアル云々よりも、自身が大自然の中で生まれ育った魔物だけに、あぁいう“こけしオートマタ”のような機械で出来た相手にそういう感情を催して、Shippori and the Cityな行為を仕掛ける事に抵抗があるようだ。
「リューキよ、ヒサヒデの意欲が削がれているのはそれだけが原因ではないようだぞ?」
俺を呼び掛けたラプラプ王が、目線でその方向へと促す。
ラプラプ王が見つめる先にいたのは、“こけしオートマタ”達の傍らに控えるようにいた“ヴァイブス・ハウンド”だった。
この魔物は、自身の頭部を中心にやたらと身体を小刻みに動かしているが……あの動きに、一体何の意味があるのだろうか?
そんな俺達の疑問に、ラプラプ王が「おそらくだが……」と述べたうえで推論を口にする。
「あの“ヴァイブス・ハウンド”という魔物は、自身の身体を揺さぶることによって、遺跡とは関係ない野生の魔物達が嫌がる低周波のようなものを発生させているのかもしれない。……そう考えれば、あの魔物達がこの遺跡の番人を任されるのも納得と言わざるを得ないな……!!」
「なるほど、あの“こけしオートマタ”ってのがどんな戦い方をする魔物かは分からないが、少なくとも“ヴァイブス・ハウンド”によって、野生の魔物はあの遺跡には近づかなくなるから、あとは“プレイヤー”のような存在を相手にすれば良いってだけなのか。……少数ながらも、門番としてはよく出来た編成だな!」
「ウム。奴等を相手に手間取るような事があれば、おそらく奥の方から増援部隊が駆けつけてくるようになっているに違いない。ゆえに我等は、迅速にあの三体を倒さなければならない、という訳だ……!!」
「……ッ!!ヒサヒデのやり方が通じない、全くデータがない未知の魔物達を相手に速攻勝負か!……これは、なかなか厳しい条件だな……!!」
「ピ、ピ、ピ~ス……」
こうして悩んでいる間にも、刻々と時間は過ぎていく、長引けば長引くほど犬神 秋人を救出できる確率が困難なモノに跳ね上がっていく……。
かと言って、打開策も見つからないし、どうすれば良いのか意見を出し合っていた――そのときだった。
「スキル・【野衾・大】――ッ!!」
俺達の傍らでそんな声が聞こえたかと思った刹那、オボロが颯爽とこけしオートマタの一体に飛び掛かっていた!!
高速で迫るオボロの突撃を受けて、対象のこけしオートマタの身体が盛大に崩れ去る。
慌てたもう一体とヴァイブス・ハウンドが、すぐさまオボロへと迫ろうとしていた。
「クッ……!!あんな近距離じゃ一体を倒せても、もう一度【野衾】系を使う隙もないだろうし、万が一出来たとしても、あの突撃をまたやったりなんかしたら、下手すりゃ遺跡を壊す事になる!!――こりゃ、どうしたら良いんだ!?」
「ピ、ピ、ピ~ス!?」
相手が機械の身体である以上、【瘴気術】も通用するか分からない。
万事休すかと思われた――次の瞬間ッ!!
「フンッ!!」
そんな掛け声と共に、残ったこけしオートマタの身体が盛大に後方へと吹き飛び、地面に転がる。
残ったヴァイブス・ハウンドが、決死の覚悟と言わんばかりにこれまで以上に身体を全力で揺らすが、魔物ではない“プレイヤー”のオボロは、何ら動じることなくその身体を踏み砕いていた。
「――今のアタシは、レベル55!!」
なんという事か。
オボロはスキルを使うことなく、自身のレベルによるゴリ押し物理だけで三体の敵を瞬殺してしまったのだ。
これには、レベル65のラプラプ王も苦笑いを浮かべていた。
「全く、本当に無茶をしたものだな、オボロよ。――だが、我では奴等に気づかれずにあそこまで瞬時に近づく方法はなかった。時には、彼女のような蛮勇も必要、という事か……!!」
そうしみじみと語るラプラプ王。
……うん、もうオボロ一人だけで良いんじゃないかな?
一瞬、そんな考えが浮かんだりしたが、オボロの「それじゃあ、早く行くよ――みんなっ!!」という呼びかけを受けて、俺達は全員慌てて遺跡内部に突入する事となった――。




