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決裂の危機

 ある日を境に、突如≪PANGAEA・THE・ONLINE≫というゲームの中に取り込まれた俺とオボロは、この異常事態の原因を突き止め、自分達の世界に帰還するための方法を見つけるために、仮初の運命共同体として共に行動することになった。


 とりあえず俺達はこの近隣で何かこの状況を打開できるような手がかりがないか探していたが、低レベルモンスターがうろつくようなエリアである事からも予想出来ていた通り、この場所では全くそれらを得る事は出来なかった。


 かと言って、他にどこに向かえば良いのか?といった当てすら何一つない俺達はこの『ホッタテ山』を拠点に活動することとなった……。





「ブモッフォッ!!」


 俺の眼前を、猪型の魔物が勢いよく過ぎ去っていく。


 木の枝を右手に握りしめ腰を抜かした状態ながらも、俺はまだ挽回できると力強く声を上げる――!!


「……オボロッ!!そっちに向かったぞ!頼むッ!!」


 猪が向かった先は、木が生い茂る地点である。


 その遥か頭上から何やらガサゴソ、と音がしたかと思うと、猪に向かって一つの人影が颯爽と飛び掛かっていく。


「くらえー!! これぞ我が妖術!【野衾のぶすま)】!」


 そう言うや否や、飛来してきたオボロがまるで張り付くかのように自身の身体を使って猪の視界をふさぐ。


「ヴォルフフフモッフ!?」


 突如自身に起きた異常事態を前に慌てた猪型魔獣が、オボロを引き離そうと唸り声を上げながら、地団太を踏むかのように身体を上下に振り回して暴れ回る。


「わわっ!ちょ、ちょっと、暴れんな!この~~~!!」


 そう言いながらオボロが速攻で今使用したばかりの【野衾のぶすま)】とは別に、今度は【障気術】のスキルを用いて自身の身体から瘴気を生じさせていく。


 オボロから発生した瘴気はジワリ……と猪に纏わりついたかと思うと、ステータス異常を発生させ、体力を徐々に削り取っていく。


「……ッ!?」


 先程とは違う、明確な恐怖と苦痛によるくぐもった叫びが猪から漏れ出る。


 動きも緩慢になっていき――ついに猪はオボロの瘴気術で完全に力尽きることとなった。





 山賊と妖怪のハーフとかいうよく分からない存在ながらも、そのように称するだけあってオボロの解体術はそれなりに巧みだった。


 作業を終えて一息つくオボロに、俺は拙いなりに朗らかな口調を心がけて労いの声をかける。


「何とか出来たな、オボロ!……今回みたいにこの調子でやっていけば、お互いに当分の食事は何とかなりそうだな!」


 だが、そんな俺の言葉とは裏腹に――ある意味、予想通り目に見えて険しい表情でこちらを睨みつけながら、外見に反したドスの利いた声で答えを返してきた。


「……ぬぁぁぁにぃが、『今回みたいにこの調子でやっていけば』よ、このアホッ!!今回アンタは敵から逃げ回って隠れてただけじゃない!ここ最近食料調達してんのアタシ一人だって事実は微塵も変わらないんだからね!?」


 ……事実である。


 俺はこの世界で最弱の”山賊”であるため、ロクに戦えるだけの能力値もなく、唯一使用出来るスキル:【山賊領域】も満足に使いこなせていなかったため、狩りには全く貢献出来ていなかった。


 ぐぅの音も出ないとは、まさにこの事である。


(クソッ……ゲーム内の世界のくせに、何で無駄に腹が減ったり味覚を感じる機能が出てきてんだよ!?こんな無駄なリアルさとかいらないだろ!!)


 と言っても、当初この世界に来たばかりの頃はこんな空腹感を感じたりする機能は全く存在していなかった。


 せいぜいが、戦闘でダメージを負ったHPを回復させる程度の意味合いで治癒アイテムを摂取するという行為だったのだが、この世界で過ごすうちに次第に空腹感を訴えるプレイヤーが出始めたのだ。


 しばらくすると、それはレベルや職業に関係なくプレイヤー全てに起き始め、この生物としては当たり前の営みともいえる状態が、単なる状態異常や一時的な現象ではない事を皆が理解し始めていた。


 俺達のような弱小プレイヤーが虐げられながらあの胸糞悪いギルドに所属していたのも、単に力で敵わないというだけでなく、最低限の食事を支給されていたから……というのが大きな理由である。


 これが現実リアルならば、生活保護を受給されても良いレベルの劣悪な文化水準の生活に違いない。


 だが、もしも万が一この世界にそういう制度があったとしても、俺には関係ない。


 何故なら、『肝っ玉バイプス』のギルドや奴等に支配された”ヒヨコタウン”という街とか抜きに、”山賊”という職業だけが”反社会勢力”ということでこの世界の公共施設やそれらのサービスを受ける事が出来ない設定となっているからだ。


 他の明らかに反社会的な字面である"盗賊"や"狂戦士"ですら、普通に利用出来るのに。


 ……そんな目に見えたあからさまな差別が、まかり通って良いのだろうか。


 職業が”山賊”だからって、何故ここまで冷遇されなくてはならないのか。


 そして、偽りの文明社会から離れた剥き出しの大自然であるこの地においても現在俺は、狩りで活躍出来ていないことと、最初の飯のときに


「……う~ん、やっぱり瘴気術で相手を倒すと獲物の内部にも影響が出るのか、あんまり味が良くないな。……今度から出来るだけ、他の手段で仕留めるようにしてみないか?」


 と提案しただけで、協力者である相手から非道な扱いを受けるようになってしまった。


 人生の理不尽さに悲嘆する俺だったが――追い打ちをかけるかのように、更なる不条理が俺に押し寄せようとしていた。


 オボロが俺をキッ、と睨んだまま、おもむろに口を開く。


「今までは、アタシ達の世界でも知れ渡るほどの奥義:【山賊領域】を使用出来るっていうから、大めに見てきたけど……戦闘もロクに出来ない!そのくせ、アタシが作ったご飯には文句をつける無能なんて、組む価値ないじゃない!!てゆうか、現状のままならアタシ一人で十分やっていけるし!」


 そう言いながら、ビシッと俺に指を突きつけるオボロ。





「だから決めた!……あと数日以内に、アンタが自分の有用性を発揮出来ないなら、この運命共同体は速攻で破棄するから!分かったわね!?」





「???ち、ち、ちん???」


 あまりの衝撃に、言葉をなくして変な狼狽の声を上げる俺。


 だが、眼前の彼女の態度も、その意思の強さも――そして、当然の如く現実は微塵も変わりそうになかった。





 ――こうして、この事態を打破するための糸口である俺とオボロの協力関係は、彼女から一方的に突きつけられた残酷な宣言によって、早くも破綻の危機を迎えようとしていた――。

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