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第26話

 玉座の間から一歩出る。廊下は真っ暗で、誰の気配もしない。アマネはさらに一歩出て見渡す。


「なんか、ほんとに今更だけど、信じらんないよね」


「あれだけの騒ぎを起こしても誰も来ないから分かってはいたけど、たしかに実感は湧かないよな」


「きゅ、急に緊張が……」


 いざという時アマネを守れるように、東弥、アマネ、米李の並びで廊下を進んでいく。カツン、カツンというアマネたちの足音だけが残響した。


「不気味……」


「……ねぇ、窓見て」


 米李が窓を指す。窓の向こうは真っ暗だった。


「見てって……今は夜なんだから、真っ暗に決まってますよ」


「夜? どうして? 今はまだ昼間だよ」


「……え?」


 東弥とアマネは唖然とする。


「何を、言ってるんです? 俺が窓を開けようとしてた時、窓の向こうはもう暗かったですよ」


「私、それ見てない」


「そういえば、米李ちゃんずっと私のとなりに居てくれたんだった」


「うん、だってしんぱいだったから」


「ちょ、ちょっと。どういうことですか。今はまだ昼って」


「私たちが起きたのが腕時計で十一時くらいを指してたの。私の腕時計の二十四時間とこの世界の一日って同じなんだ。アマネちゃんがお風呂に連れてかれた時くらいに戦争が始まったでしょ? それでフウラとアマネちゃんが戻ってきて、それであそこにいろって言われた。そっからまだ三時間しか経ってないんだよ」


「…………」


「太陽の動きもおんなじだから、太陽が真南に来た時がお昼でしょ? 私たちが起きた時、太陽は東側だったから、人間界でいう十時くらいってことだから、そっから三時間」


「……なんてことだ。じゃあ、まだフウラの言っていた秘密作戦までは時間があるってことか」


「夜にやるって言ってたもんね」


「準備をしてくるって言って出て行った」


「まだ準備の途中……? その準備に俺たちが玉座の間に閉じ込めるのが入っているのか……?」


「ますますフウラが怪しいね」


「…………」


 米李の言葉にアマネは目を伏せる。


「と、言うよりもうほとんど黒です。あいつ、俺たちを何かに利用しようとしたんだ。もしかすると、米李さんを攫ったのも……」


「じゃ、じゃありん先輩は? りん先輩はこの国に居ないって、フウラが……」


「立松。何を思ってフウラを庇ってるか分からないが、あいつは今俺たちを嵌めようとしているんだ」


「嵌めるって……おかしいよ。だってもしフウラが私たちをどうこうしようとしてるなら、なんでわざわざ扉を開けちゃうようなヘマをするの? 現に今私たちは部屋の外に出れてる。この部屋から出すって行為に意味があるの?」


「……それは、分からない。けど、あいつは明らかに立松を利用する気だ」


「利用って」


「俺に、邪魔をしたら殺すと言ってきた」


「…………」


「大事なのは立松だからってな。そういうことだ」


「……フウラは私に、世界を救ってって言ってくれたんだ。人間界と異世界、両方を救いたいって」


「口では、なんとでも言える」


「……そうなのかな」


「…………」


 重苦しい空気が舞い降りる。米李はオロオロと二人を交互に見て、目を回した。


「ね、ねぇ! ウダウダ考えず行こうってさっき話したとこじゃん! とにかくここから出た方がいいって!」


「……そうだね。ごめん、米李ちゃん」


「……おっしゃる通りです」


「うん、よろしい」


 米李は、アマネと東弥の手を引っ張りながら先頭を行く。


「なんだか、米李ちゃん今すっごい頼もしいね」


「う。ごめんね、いままでお荷物で……」


「あ、違う違う! そういう意味じゃなくって」


「なんか、初めてちゃんと戦って興奮してるんだ。今なら誰にも負けないよ、私」


 振り返らず米李は言う。


「……私、ずっとずっと悔やんでた。あの時、アマネちゃんを守るためにいたのに、結局私のせいでアマネちゃんをここまで来させてしまった。情けなくて、辛かった」


「…………米李ちゃん」


「大丈夫だよ。そんな、自責してる場合じゃないことくらいは分かってる。だから、絶対次は足を引っ張らない。死んでもアマネちゃんを守ってみせる」


「死なないでよ。私、米李ちゃんにいなくなってほしくない」


「ありがと。やっぱりアマネちゃんは優しいね。大好きだ」


「……ン゛ンっ」


 二人だけの世界に居づらくなったのか、東弥が咳払いをした。


「米李さん、もう手を引かなくて大丈夫です」


「あ、うん。ゴメンナサイ……」


「……作戦中のハイは集中力を高めますが、一方で一度乱されれば立ち直れません。しっかりと自分をコントロールしてください」


「うん! 分かってるよ!」


「じゃあ、さっきの形で進もう。ちょうど扉が見えてきた」


 闇の中、目を凝らせば大仰な意匠の扉が見えた。扉の継ぎ目からは一線の光が漏れ出ている。アマネはゴクリと生唾を飲み込んだ。


「これって、向こう側にだれかいるってことかな」


「その可能性は高いな。このまま行くのは危険だ」


「でも、廊下の窓も開かなかったんでしょ?」


「ええ、試してはみましたが」


「じゃあ、行くしかないよ」


 米李はナイフを胸に当て、深く心臓を突き刺した。


「かはっ……!」


 流れ出た血は二足歩行で球体のコクピットに四本の武器を装着した腕を付けたロボットを形成した。


「さあ、乗って。この『メイバスター』のコクピットは四人まで乗れるから」


「まさか、それで行く気ですか?」


「うん。これなら銃弾だって剣だって弾けるくらい頑丈だもん。それにこの扉おっきいからさっきみたいに突っ掛かったりしないし」


「よし、じゃあそれでやろう!」


「まじか……」


 アマネと東弥はコクピットに乗り込む。搭乗口を閉めると、半透明のグリーンな世界が外に広がっていた。コクピットの内側全体がモニターになっているらしく、正面の扉には照準マークが付いていた。


「屋永米李、行きますっ!!」


 メイバスターの足裏にあるキャタピラが高速で回転し、凄まじいスピードで扉に突っ込んだ。分厚い扉はなすすべもなく破壊され粉々になった。


「よし、抜けた! じゃあ、一気に────」


 メイバスターを操作しようとした米李の手が止まった。米李だけじゃない。アマネも東弥も、目の前の光景が飛び込んできた瞬間、驚きを隠せない。

 そこは大広間だった。絢爛な装飾が広間中に施されている。さぞ綺麗だっただろう。何も起こっていなければ。

 そこでは、フウラを筆頭としたノウナたちが、黒づくめで銃を持った者たちと戦っていた。銃弾と剣戟が戦場を飛び交っている。


「なに、これ……」


 カンカンカン! コクピットに何かが当たる。銃弾だ。人間側の何人かがこちらに銃口を向けている。


「アマネ! 来ちゃダメ!」


「陛下っ!」


 フウラの叫び声が聞こえる。直後に爆発音。フウラがビューノに庇われながら吹き飛んだ。


「なんだ、これは……? フウラと人間の裏切り者が手を組んで俺たちを嵌めたんじゃないのか……!?」


「ど、どうしよう。どっちを助ければいい!? それともこのまま逃げる!?」


「ふ、フウラ……」


 混乱を振り切って東弥は指示を出す。


「米李さん、このまま行きましょう! ここにいる人間もノウナも敵です! 一刻も早く離脱しないと巻き込まれる!」


 アマネもそれに声を上げる。


「ま、待ってよ! フウラは!? このまま置いていくの!?」


「……見捨てる! 多少の恩は感じなくもないが、それでも怪しい。俺たちの敵となる可能性があるとするなら、見捨てる以外選択肢なんてないはずだ」


「そんな……」


「行ってください! 米李さん!」


「あ、アマネちゃ……」


 米李はアマネの顔を見るが、覚悟を決めて前を向く。


「行くよ! ちゃんと捕まって!」


「ダメ! 米李ちゃん、お願い!」


「行けえええええ!」


 米李はメイバスターを発進させる。アマネは後方にすがりつき、フウラが吹き飛ばされた方を向いて叫んだ。


「米李ちゃん、ここを開けて!」


「ダメ! アマネちゃん、分かって!」


「ダメだ! そんな────」


 瞬間、身体が浮きだった。そのまま一回転。そして衝撃。


「うわぁっ!?」


「なんだ!?」


 警告音とともにコクピット内が赤く染まる。


「脚部を狙われたみたい! 多分ロケランかなんかを当てられた!」


 視界にはロケットランチャーに次弾を装填している人影が見える。


「早く起きなきゃ……っ!」


 メイバスターはなんとか起き上がるが、その隙に大勢の銃に囲まれた。三百六十度、全方向からの一斉射撃がアマネたちを襲う。


「こ、これ保つの!?」


「分かんない! でも多分無理!」


「どうするんだ!」


「こうなったら────パージ!!」


 メイバスターが一瞬眩く光り輝き、その躯体を内側から吹き飛ばす。衝撃波となったそれはアマネたちを取り囲んでいた敵を一掃した。


「そんなのがあったんですか……」


「うん、でもこれ使ったらインターバルがいるの」


「どれくらい!?」


「三十分!」


「急ごう! 早く離脱を……っ!」


「きゃっ」


 銃弾がアマネの頬を掠めた。


「この────」


 東弥は刀を召喚し、銃弾を弾きながら近くに寄ってきた敵を斬る。鮮血が容赦なく東弥の身体にかかった。これは人形じゃない。


「早く!」


「アマネちゃん、こっち!」


「あぐっ!」


 米李に手を引かれたその時、取られたその左腕を撃たれる。鋭い痛みが走り、座り込んだ。鈍痛がじんじんと身体中に駆け巡る。


「痛い……」


 傷口を抑える。どんどん血が溢れる。周りの音全てが遠く聞こえる。身体がひどく冷たく感じる。

 肩を激しく揺さぶられた。米李が必死になにかをアマネに向かって叫んでいる。東弥が一人で戦っている。身体が曲がった。腹を抑えている。眼前の米李が身体を反転させて敵に向かう。しかし体格差で倒された。


「やめて……」


 遠くの東弥の肩から血が吹き出る。二発、三発。東弥は膝をついた。米李は首を絞められている。


「やめて……」


 敵がアマネに向かってくる。その向こうには倒れた東弥と米李が見える。


「…………なんで、なんも、できないの? 私…………」


 からり。なにかがポケットから落ちた。黒い箱だ。本当に危ない時に使えと言われた、父親から受け取ったもの。

 何もできないのは、私が弱いからだ。

 大切な人の苦しむ姿を見ることしかできないのは、私が何の力を持ってないからだ。

 力が欲しい。守られたくない。みんなを守りたい。

 私が立ち上がるのは、みんなのためだ。

 だから────────


「私が、戦うんだ!!」


 箱を握った。淡い光が溢れ出す。光がアマネを包み込んだ。

 もう誰も、傷つけさせない。








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