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第25話

「あああああああ!」


 激昂した東弥は鐘戸に襲いかかる。しかし鐘戸は拳銃で刀の攻撃をいなし、持ち手で東弥を殴った。こめかみから血を流し、東弥は膝をついた。


「抵抗はしない方がいい。別に進んでお前たちを殺そうとしてるわけじゃないんだ」


「米李ちゃん……! 米李ちゃん!」


 アマネは米李にすがりつき、肩を揺する。だらんとしたまま、アマネにされるがまま揺さぶられている。


「あ……ま……」


「米李ちゃん! しっかりして!」


 掠れた声が辛うじて聞こえる。まだ息はある。しかし息があるだけだ。


「お、生きていたか。心臓を撃ち抜いたはずなのに、丈夫だな。さすが戦士といったところか。だがもうじき死ぬな」


「お前ぇええ……!」


 立ち上がろうとした東弥を銃で牽制する。いつのまにかアマネたちの周りは銃を持ったレパードたちによって包囲されていた。


「だから動くなって。自殺願望者か? おい、こいつら持って帰るぞ。拘束しろ」


 命令を受けたレパードがアマネと東弥を押し倒し、後ろ手をバンドで縛った。東弥もこれ以上抵抗しても意味がないと悟ったのか、歯を食いしばりながら鐘戸を睨むのみとなった。


「死にかけてるやつは放置しろ。生きのいいガキとお嬢さんだけだ。お嬢さんのほうは丁重に扱えよ。ガキの方はどうでもいいが」


「待って! 乱暴しないで!」


 アマネが叫ぶが、鐘戸はどこ吹く風だ。


「悪いが命令にその項目は入ってないんでね。向こう側に着いた時そこの東弥くんが死体だったとしても俺たちの責任じゃないわけだ」


「東弥に何かあったらあんたらのこと許さないから!」


「威勢がいいねぇ」


「米李ちゃんだって……許さない! 絶対に、許さない!!」


「……おい、こいつの口を塞げ。鬱陶しい」


 ガン! 頭に強い衝撃が走りった。何かで叩かれたらしい。一瞬意識を手放しそうになるがなんとか耐えた。しかし視界の焦点が定まらない。口に布のようなものを噛まされる。

 その様子を見て、耐えきれなくなった東弥が口を開いた。


「おい、立松を────」


「いい加減にしろ! 黙れよもう! クソ。早く帰るぞ、座標はまだか」


「すみません。なかなか上手くいかず……」


 鐘戸は舌打ちする。


「こういう時にもたつくからこっちの任務は嫌なんだよ……」


 そう言ってタバコを取り出し火を点けた。匂いが鼻をつく。


「米李ちゃん……」


 走馬灯のように米李との思い出が蘇る。初めて会った時のこと。一緒にゲームで徹夜したこと。喧嘩する凛と米李の仲を取り持ったこと。

 ずっと一緒だと思ってた。離れることなんてないと思ってた。それくらい大切だった。妹みたいな存在だった。

 かなしみしか、アマネの中になかった。


「米李ちゃん……ごめん……」


「────謝らないで、アマネちゃん」


 直後、激しい銃声。レパードの隊員が一斉に屠られる。


「……へ」


「思うんだけど、この人たちってプロじゃないよ。だって本当に特殊部隊ならさ、私の武器を出すところが心臓って知ってるはずだもん。人間なら心臓を狙えばすぐ死ぬって思い込み? 浅はかだなぁ……」


 米李は自ら流した血を身体に纏う。血は拡大し、膨張し、徐々に形を成していく。機械然とした両足。四本のアームには、大剣、ガトリングガン、レーザー砲、大きな盾が装備されている。米李は中心の半透明のコックピットに乗り込み、ゲームコントローラーによく似た制御端末を操作している。


「血司武器使いに血を出させるのがアウトだよね。こんなさぁ、おあつらえ向きの展開用意してくれちゃってさぁ……」


 ガトリングガンを向け掃射。あっという間に隊員たちを一掃した。残るは鐘戸のみ。


「何より、アマネちゃんを泣かせたな?」


 レーザー砲を向けた。米李の目には怒りの炎がゆらゆらと燃え盛っている。


「アマネちゃんの涙は────お前の命より重いんだよ!」


 鋭い音とともにレーザーが発射される。鐘戸はそれをなんとか避け切る。すぐさま攻撃に移るが、銃弾は米李のロボに弾き返される。


「効くかぁあああ!」


 大剣を振り下ろす。床に巨大な凹みが生まれた。これも避けた鐘戸の表情が歪む。


「……不利な状況。ここは逃げるか」


「はい?」


 鐘戸はあっという間に走り出すと、開け放たれた扉からすたこらさっさと逃げ出した。


「まっ、待てぇ!」


 米李はロボを操作して部屋の外へ向かうが、扉に突っかかった。


「あっ」


「…………」


「…………」


「こっちがでかい! あー! しまったー!」


 米李はコクピットを降りて部屋の外へ出るが、広い廊下にはもう鐘戸の姿はなかった。


「ああああ、や、やってしまった……どうしよう……」


「……米李さん、とりあえず俺と立松の拘束を解いてくれないか」


「あっ、そうだった! 今すぐやる!」


 米李は急いでアマネと東弥へ駆け寄ると、二人の拘束をナイフで切り裂いた。


「────! アマネちゃん、頭から血が……」


 言われてアマネは自分の額に手をやった。話してみると、手のひらにべっとりと赤いものが付いている。


「ううん、なんか大丈夫。それより米李ちゃんこそ。あんなに血ぃ出てたのに……」


「あれはブラフだよ。なかなか演技うまかったでしょ? ま、心臓撃たれてなかったらやばかったけど」


「ハナちゃんも焦ってたし、もうダメかと思った」


「俺も米李さんの血司武器を取り出す場所なんて知らないからな。……でも、無事でよかった」


「うん、ほんとに」


 米李は泣きそうになった。倒れこむようにアマネの胸に飛び込んでくる。


「ふえええ、怖かったよぉ……初めて実戦で血司武器使ったし、怖かったし怖かったぁあああ……」


「おお、よしよし」


 胸元にある米李の頭を撫でる。米李の身体は震えていた。


「あ! 私、初めて人を殺し……」


「いや、そうでもないみたいですよ」


 東弥が親指で指した方向には、辛うじて人の形を保った土塊が散在していた。


「あの鐘戸とかいう奴の仕業か分からないが、多分ノウナの能力だ。ああいう人形を作ることができる。でも……」


 東弥は土塊の中から、手首につける装置を拾い上げた。


「これは、協会が開発した異界と人間界の通信を可能にするものだ。……嫌な予感が当たってしまった感はある。少なくとも、あいつは俺たちの敵ってことには変わりないが」


「そっか……じゃあ、さっきの鐘戸は協会と繋がってるかもってことだね」


「ああ。そして、俺たちを狙ってきた。礼司さんや他のみんなは大丈夫なのか……?」


「…………」


 重苦しい空気が三人を包む。


「あ、あのー、そろそろ行った方がいいんじゃ」


「うん、そうだよ。ここでウダウダ考えても結局分かんないんだからさ」


「……たしかに。扉が開いてる今がチャンスだ。早くこの部屋を出よう」


「うん。米李ちゃん、立てる?」


「平気! アマネちゃんこそ、血、止まってないけど……」


 米李の手を引っ張りながら立ち上がる。


「おい、立松」


 東弥が自らの上着をナイフで裂くと、布をアマネの頭に巻いた。


「いくら平気と思っても頭から血出してんだ。危険に決まってる。それ外すなよ」


「あ、うん。ありがと。って、ちょっとキツイってば。痛い! いたたたた!」


 ぎゅうぎゅうに締め付けられる、ついでに顔についた血も拭く。


「でこの上ら辺が切れただけだな。出血は大袈裟に見えるだけか。良かった」


「良かったぁ」


「もう、ほんとに大袈裟なんだから。じゃあ行こっか」





「アルエル國……入るのは久しぶりだ。アマネ、無事だといいけど……」



「ほんとにここに、アマネさんと妹がいるんですか?」


「多分ね。しかしアマネがアルエル國に来てて、そこでニンゲンと戦争なんて。これって偶然?」


「……私は、信じたくないです。協会はこんな戦争を起こせる状況じゃない」


「ま、直接確かめれば分かるか。行こ」


「あの、今更なんですけど、私たち黙ってここまで来て良かったんですか?」


「いちいちタマヲに許可とるなんて無理。ていうかタマヲが良いよなんて言うわけないでしょ。いいのいいの。あの子たちは常に私の位置が分かるようになってるから、今頃こっちに向かってる頃だよ」


「……部外者の私が言うのもなんですが、従者の皆さんの苦労がしのばれます」


「もう、いいじゃん! リンだって結局ついて来たんだし! 私だってアマネが心配。フウラだって、正直あいつのことは苦手だけど、放って置けない。そもそも同盟組んでるんだから、ニンゲンが攻めてきたらすぐ知らせるのが約束なのにそれをしてないのは怪しいけど」


「……分かりました。行きましょう」


「よっし! じゃあ、気合い入れるぞー!」








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