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第23話

  「敵襲! 敵襲!」

 

  「準備急げ急げ!」


  「市民を城内に避難させろ!」


  城内はひっくり返ったようなお騒ぎになっている。アルエル國の衣装に着替えたアマネは、フウラに玉座の間に案内された。

  フウラは側に付いていた兵士に伝言を頼む。


  「情報は全部あたしに集めるよう各隊の隊長に伝えて。あと籠城するための攻撃結界を展開。出来る限り早く」

 

  「はっ、陛下の仰せのままに!」


  兵士は胸に拳を当てる忠誠を示す姿勢を取って、すぐさま玉座の間から出ていった。


  「おい、何が起こってる!」


  兵士と入れ違いに東弥と米李が入って来る。フウラは二人を振り返ると、至極冷静に返した。


  「何って、戦争だよ。あたしたちと、ニンゲンとのね」


  「そんなわけあるか!」


  東弥は対照的だ。冷静さを失い、フウラに詰め寄っていく。


  「協会の機能はまだ万全じゃない! ただでさえ先の大戦で戦力が充分整ってないのに、あれだけ大規模な行動起こせるわけないだろ!」


  「それはそっちの都合でしょ? 今重要なのは、ニンゲンたちが攻めてきてるってことなの」


  「……本当に人間なのか?」


  「都市の周りの対ニンゲン用術式が反応した。間違いないよ」


  「……クソっ!」


  東弥は吐き捨てるように言うと、玉座の間から出て行こうとする。アマネがそれを追う。


  「ちょっと、どこ行くの!?」


  「向こうの指揮官と話してくる。ここでこじれたら米李さんも、もしかしたらお嬢の身も危ういかもしれない」


  「もう戦ってるんだよ? 今出て行ったら危険だよ!」


  「じゃあどうしろって言うんだ!」


  困惑しているのか、立ち止まってアマネにあたるように叫ぶ。


  「これは協会の仕業じゃないのは明らかだ。ここまでの大規模な作戦なら戦闘員には通知が届く。計画するなら少なくとも二ヶ月前には進行しているはずだ。ならなぜ俺が知らない!?」


  「ハナちゃん……」


  「もし人間側の敵対者なら、組織の人間にバレるのは避けたいはずだ。俺が行けば、話くらいは……」


  「殺されるのがオチだよー」


  背後からの声に振り返ると、フウラが呆れた顔をして立っていた。


  「そっちがどういう状況か分かんないけど、あなた一人がノコノコ行ったところで、口封じに殺されるに決まってるじゃん。ちょっと頭冷やしたら?」


  「……なら、どうすればいい」


  「あたしたちが勝つのを黙って見てて。それにアマネたちがこの襲撃に関わってないってことくらいお見通し」


  フウラは東弥に近づき、胸に人差し指をトンと置いた。東弥にしか聞こえない声で囁く。


  「ここで妙なマネされてもしアマネに危険が及んだら、殺すよ? あたしたちの目的はアマネ一人だから。メイもあなたもどうでもイイの」


  「…………」


  突然フウラから放たれた殺気に、東弥は動けない。


  「ふ、二人とも? どうしたの?」


  「んーん、なんでもないよ! さ、安全なところに案内するから付いてきて!」


  「う、うん」


  一瞬垣間見えた今までのフウラとは違う雰囲気。アマネはそれを見逃していなかった。何かあるかもしれない。用心しておいた方はいいかもしれない。


  「アマネ?」


  「あ、ごめん。行こ」


  「……ああ」


  東弥がぎこちなく頷いた。鼻歌交じりに先を行くフウラに気づかれぬよう、東弥にコソコソと喋りかける。


  「ねぇ、さっき何か言われたの?」


  「……立松に危険を及ばせないのはお互い一緒だ、という話をしてた」


  「そ、そうなんだ。でも大丈夫。いざとなったら私だってなんとかできるよ」


  「……これから先、もしかしたら守り切れない時が来るかもしれない」


  「────ハナ、ちゃん?」


  覚悟を決めたような言葉だ。アマネは思わず東弥の顔を見る。


  「その覚悟だけはしておいてくれ」


  「ねぇ、何か変なこと考えてないよね。そんないつ居なくなるか分かんないからみたいなこと、言わないでよ」


  「……察しが良すぎる」


  気まずそうに目を逸らされた。


  「やっぱり。死地に赴く時のセリフだよそれ」


  「勘弁してくれ。格好つけたのが恥ずかしくなるだろ」


  「一緒にりん先輩に会うの。分かってるよね」


  「……ああ。分かってる。約束だもんな」


  「たりまえでしょ」


  玉座の間に戻ると、米李が泣きそうな顔で座り込んでいた。


  「ひ、一人にしないでよー! 言ってる言葉も分かんないし、いつ見つかるか分かんないから怖いしー!」


  「あ、そっか。周りから分かんないようにされてるんだっけ」


  どうやらアマネも東弥も忘れていたらしい。廊下でもしフウラ以外に見つかっていたら、即刻捕まっていただろう。少しだけゾッとした。


  「更新するの忘れてたよ。ごめんね」


  飴玉のようなものを飲み込んだフウラはそう言って、米李に手を向けた。手のひらには小さく結晶が見える。


  「はい、これであと丸二日はバレないようになるよ。でも、これってニンゲンをノウナに、ノウナをニンゲンに見せかける幻術だから、向こう側に行ったらノウナとして見られるってことだよ」


  「だから俺が話に行ったとしても問答無用ってことか」


  「そういうこと」


  フウラは笑みを浮かべる。

  大きな音がして扉が開かれた。伝達係の兵士が息を切らしながらそこに立っている。


  「陛下、報告します! 現在、戦線は硬直。消耗戦の様相を呈しています」


  「そのまま維持。特別部隊を編成して向こうの退路と補給、それから後方部隊を絶って。今日の月は?」


  「上翳りです」


  「ならまだ使えるね。夜になって月が出たら私が一個大隊を送るから、それ用に兵士を集めて」


  「はっ!」


  兵士は胸に手を当てると、すぐさま出て行った。


  「じゃ、夜になったら秘密作戦の方に入るから、それまで大人しくここで待ってて。美味しい飲み物食べ物用意しとくから好きなようにくつろいでね。あたしはこれから作戦を詰めに行ってくるよ」


  玉座の間を去ろうとする直前、フウラは何かを思い出したのか、「あ、そういえば」とアマネの目の前まで戻ってきた。


  「アマネ。これ、持っておいて」


 フウラは自らの髪の毛を一本抜き取ると、アマネの中指に巻きつけた。


  「……これは?」


  「護符的な? これがあれば、いつでもあたしはアマネを助けに行けるからさ。夜になったらあたしもここを離れなきゃ行けない。その時にアマネが狙われたら大変でしょ」


  「大変って……この戦いは、私が関係してるの?」


  不安げな顔をしたアマネに対しフウラは首を傾げた。


  「さぁ、それはまだ分かんないけど。でもアマネのがこっちとあっち両方にとって大きなものになりうるのは確かだから。とりあえず持っといて」


  「う、うん……」


  「アマネ」


  「え?」


  「行ってきます」


  その言葉とともに、フウラはアマネの頬に軽いキスをした。


  「えっ、ちょっと!」


  「へへ。おまじない。じゃーね」


  玉座の間から出て行くと、フウラは顔から笑みを消して耳につけている結晶のピアスに触れた。その片割れを持っている相手との通信を繋げるためだ。


  「今、準備してるとこ。そっちは?」


  『ああ、こちらも大方終わったよ』


  応えたのは、男性の声だ。狡猾そうな声色で、隙がない硬い印象を与える。フウラはゴクリと気づかれないように生唾を飲んだ。


  「約束通り、クオンに例の『リン』を送れたんだよね?」


  『ああ、勿論だ。雫山くんは立松アマネの親友。彼女のためなら、立松アマネは必ず動く』


  「こっちのメイとトウヤはどうするの?」


  『良きところで始末してくれ』


  「分かった。じゃあそろそろ切るよ。また何かあったら連絡する」

 

  『ああ、頼む。……この作戦が成功すれば、双方にとって大きな進歩となる。分かっているな?』


  「重々承知だよ。そっちこそしくじったらどうなるか分かってる?」


  『勿論だ。今日中に立松アマネをこちら側に引き入れる。これは確定事項だ』


  「……じゃあ切るよ。次話すとき、作戦が成功してたらいいね」


  通信が切れると、フウラはどっと疲れたようにその場に座り込む。緊張が解けて、汗が身体中からあふれ出した。


「……はは。まだ、あいつには慣れないなぁ……。怖すぎ」


  おどけて言おうとするが、口が上手く動かない。あの男は、何かあれば真っ先にこちらを切り捨てるだろう。一つでも指し手を間違えれば、命はない。


  「こっちだってやってやる……父さまと母さまが望んだ世界を、絶対に────」


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