表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/33

007

007



 リオンを抱きかかえ家の外に出た時、グレンはそれを見た。


 天から降り注ぐ流星の流れを。


 無数の火の玉が空を埋め尽くす。


 その塊が森の至るところに落下し、魔物(ドラゴン)とワイバーンもその餌食となっていた。

 悲鳴に似た鳴き声、逃げ惑う二匹。


 「ワイバーン!!」


 グレンが叫ぶその声に、何かを見つけ出そうとする。

 狙いが定まったのか、一目散に飛来するワイバーン。


 炎が迫る中、グレンたちの目の前に降り立ったワイバーンは傷だらけだった。

 グレンを見てひと鳴きする。


 「よしよし、いい子だ。済まないがもうひと働きしてくれ!」


 優しい声でそう語り掛けると、


 「ミーサ、リオンを頼む! ワイバーンに乗って安全な場所へ避難してくれ!!」

 「なに言ってるの! 貴方は……」

 「大丈夫だ、後から必ず追い駆ける。だから心配するな!

 「でも……」

 「ほら、乗って。少しゴツゴツするが許せ。ワイバーンには命令を出しておく。リオンを頼むぞ!」

 「グレン……貴方……」


 渋るミーサを無理矢理担ぎ上げ、ワイバーンの背に乗せると黙ってリオンを手渡す。

 下から見上げるグレンの表情は満面の笑顔を湛え、親指を突き立てた。


 「リオンを頼む! 行け、ワイバーン!!」


 それを合図に甲高い鳴き声を上げ、力強く翼をはばたかせ、稲妻の間をくぐり抜け、小さくなって行く。

 見えなくなるまで見届けたグレン。

 焼け焦げた木を踏み(なら)す音の方へ。

 

 「お待たせ。これでお互い遠慮なしにぶっぱなせるなあ、人殺し……違うな、仲間殺しと言った方がよかったか」


 辛辣(しんらつ)な声を掛けれられたその人物は、気にすることなくこう言った。


 「貴方が伝説の召喚士(サモナー)、グレンですか。流石、鼻がいいですね」


 炎と煙の切れ間から見えたその姿。

 それがカルフォンだと知る者が居れば、その表情に驚愕を感じるだろう。

 悠然と立ち尽くすその顔に、微笑みが浮かんでいたのだから。



 ◆



 「……クソッ……ヤツも狂っていたか……」


 郡流星メテオシャワーの直撃は免れたといえ、右腕は消失していた。

 止血は終わっていたが、周囲は荒れ狂う炎の海。


 「トリプルSがこのザマじゃあ笑えねえなあ。クック」


 片膝を着いていたアストレイは、左腕に手にした大剣を地面に突き刺し、それを支えに立ち上がる。

 足元が少しぐらついたが大剣を一振り、姿勢と呼吸を整える。


 ――疾風足(アクセルフット)


 アストレイは前傾姿勢のまま、森の草木と炎の間を風ように駆け抜けていった。



 ◆


 「あの物騒な魔物(ドラゴン)を連れてきた魔物使い(テイマー)か?」


 ――業火(ヘルファイアー)


 グレンの前に炎の壁が突如出現し、その男は躊躇うことなく腕を振る。


 「おいおい、冗談だろ。これ以上の火遊びはかんべんしてくれっ! ってか魔物使い(テイマー)じゃない!?」


 炎の壁から飛び出した無数の火柱が、グレン目がけて集中砲火を浴びせる。

 火柱がグレンの体に突き刺さる。

 かに見えたが、後ろの家の壁にそれが突き刺さり爆風を伴って炎上する。


 「……んっ!?」

 「おおっと動くなよ」


 いつの間にかその男の背後に立ち、喉元に短剣を当てるグレン。


 「動いてもいいが綺麗な顔と体がさよならするぜ!」

 「貴様……いつの間に……」


 男の腕が振り下ろされる一瞬の間合で、魔法――駿足(クイックスペース)を使っていた。

 狙った場所に近距離移動する魔法。


 「悪いな。召喚士とは名ばかりで、実は俺、召喚士(ぎせんし)って言うんだよ。で、貴様は何者だ? 家の中にいたヤツの仲間か?」

 「さあ、どうだろう。それより自分のことを心配したらどうだ」

 「そうかよ。偉く自信過剰なヤツだな。まあ、そういうの嫌いじゃないがなあ。もう一度聞くぞ! お前は調査隊か何かか?」


 喉元に短剣が当がわれていることを忘れているのか、声を上げて笑う。


 「気でも狂ったか? 命まで取りはしない。黙って大人く引けっ!」

 「……変わった事を言う」

 「ん、なんだと!?」


 炎上する家から火柱が一つ、二人めがけて飛来する。


 「ば、ばかな……」


 その言葉より早く、男の胸を貫き、後ろにいたグレンの肩に火柱が突き刺さった。


 「うがぁぁ……お、おまえ!?」


 衝撃と痛みで、短剣を離し膝を落とすグレン。

 業火(ヘルファイアー)の火柱で出来た胸の空洞をそのままに、男は言う。


 「見ての通り、ただの魔法使いだ。死ぬ行くお前に名だけは言ってやろう。我が名はカルファン! さあ、死ね!」

 「カルファン……」


 上機嫌に喋る魔法使い。

 グレンは何かを思い出そうとしていたのか、カルファンの見る目が変わった。


 彼の行動には、心がない。

 浮かべていたその表情すら怪しい。

 これは……。


 「お、お前……操り人形(マリオネット)か……」

 「お見事だグレン。いや、今はあえてこう呼ぼう。男爵(だんしゃく)、とな」

 「…………っ」


 男爵と呼ばれ、グレンは記憶を遡っていた。


 カルバン帝国の皇帝陛下から直接拝受(はいじゅ)した爵位(しゃくい)

 その名が世界中に知れ渡り、彼はすべての冒険者の中で一番の成功者、そして一番妬まれる存在となった。

 

 しかし、それは今から十数年も前の話し。

 今はそんな風に呼ぶ者はいない。

 自分でも名乗った通り、召喚士(ぎぜんし)と呼ばれることの方が多いのだが。

 

 「なぜそう呼ぶ……」

 「フッ、笑わせるな! 貴様、もう忘れたのか。あの時、見殺しにした魔法使い(メイジ)のことを!!」


 叫ぶカルファン。

 

 グレンの中で「見殺し」と「魔法使い(メイジ)」が走馬灯のように掛け巡る。

 忘れていたわけではない。

 そう言われても仕方が無い出来事。

 肩に刺さる火柱に耐えながら、あの日ことを思い出していた。


 ◆



 「なに……なにが起ったの!?」


 突然目の前から消えたシンフォニー。

 王妃は現状を理解出来ていないのか、頼りない足取りで彼に近寄ると、


 「ねえ、ねえってばぁ……。起きて、起きて頂戴……ブラウン。ねえってばぁ……」


 泣きながら筆頭執事の体を揺する王妃。悲痛を伴ったその声はダンジョン内に静かに木霊した。


 遠くの通路で、断末魔が聞こえる。

 しかも、女性の。

 恐ろしくなった王妃は、横たわるブラウンの体に顔を押し付け、落胆する。


 引きずるような足音。


 「イヤァーーーっ!!」


 泣きじゃくりながら叫ぶ王妃の肩に、手が置かれる。

 ビクッとしながらも、青くなった顔を上げるその先に、頭から血を流し、ロングスカートが裂けたシンフォニーが立っていた。

 その後ろに水色の半透明な物体を引き連れて。


 「シ、シンフォニー……だ、大丈夫なの?」

 「ご心配をお掛けしました、私は大丈夫です。王妃こそ、ご無事でなによりです」

 「あ、あれはなに?」


 後ろを指差して、驚いた表情をみせる。


 「私が出した精霊(エレメント)。水の精霊(エレメント)です……。それよりも早くここから脱出しましょう。私を瞬間移動テレポートさせ襲って来たのは小悪魔(サキュバス)、ここは普通のダンジョンとは違います。さあ、早く! 王妃!!」


 ふらつき、立ち上がる王妃。

 シンフォニーが精霊(エレメント)に指示を出し、倒れているブラウンを抱きかかえさせ、出入口へと向った。


 一行がダンジョンから抜け出した時、東の空に見えていたあの分厚い黒の雲はどこかに消え、空は晴れいた。


 「ここがミストダンジョンだったなんて……迂闊(うかつ)だったわ……」


 忘れていたとはいえ、悔しい表情を浮かべたシンフォニー。

 晴れた東の空を見て、「お姐様」と囁いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ