表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/33

006

006



 「ええっ!! そんなの嫌よ!」


 王妃は素直に嫌がった、そして駄々を()ねた。

 ブラウンが立てた作戦はこう。


 カルファンとアストレイが雲の場所へ行く。

 残りは、捜索。

 至極簡単な振り分けだけど、実に理に叶った分け方だ。


 カルファンの移動魔法で現地に飛び、偵察をする。仮に戦闘をするようなことになっても魔法使いと戦士の相性(ツーマンセル)はよく、特に問題はない。

 で、残ったメンバーで捜索。


 その際、光りの羽を操れるのは、精霊魔法が使える弓使い(アーチャー)クラスのシンフォニーだけ。なら二手に別れた場合、これが一番よいパーティーメンバーとなる。


 王妃以外、その作戦に意義を挟む者はなく、多数決を取るまでもない。

 あと、これは褒めるべきだろう。

 少し前にやり合ったばかりの魔法使いと剣士(ウォーリア)だったが、流石はトリプルSクラスの冒険者たち、その称号は伊達ではない。

 最良を心得ている。


 「ダメですぞ、王妃。ここは我慢してください。このパーティーが一番理想なのですから」


 ブラウンの目は何も譲らない、といった感じでしっかりと腕組みをしている。

 大きなため息をついた王妃は、「わかったわ、そうしましょ」とだけ言い、皆に背を向けた。


 「よし、それではカルファン様とアストレイ様。宜しく頼みます。何か有れば直ぐに退散してください。あくまでも偵察が(メイン)ですから。では、ご武運を!」


 二人はその場から消え、王妃の愚痴が残った。


 「あーあ。私も行きたかったわ……」

 「諦めが肝心ですぞ。さて、我々も捜索を再開しようではありませんか」


 ブラウンは意気揚々と背負った鞄を何度か揺すり、光りの羽が差すダンジョンへと向っていった。

 シンフォニーが王妃に目配せをして、ブラウンについて行くものだから、慌てて王妃も後を追い駆けた。


 「ねえーー! 待ってよーぉ」


 王妃のパーティーメンバーは、とても大事な事を忘れていた。

 カルファンが居ないこのパーティーは、完全に孤立した状態になっている。

 それは、通常の冒険者たちとなんら変わらないということ。


 そして今から向かうこのダンジョン。

 世界三大ダンジョンの一つ、ミストダンジョンだと言う事をシンフォニーは知ってるはずなのが……。


 しかし、彼女はそれを言葉にするのを忘れたのか、わざとなのか。

 これから向かうダンジョンに、一体何が待ち受けているのか、それは神のみぞ知る、と言ったところであろう…………。



 ◆



 『アリスヘブン様、どうしましようか』

 『そうね、仕方ないわ。適当に見切りをつけて、王妃たちに合流しなさい』

 『はいっ。しかし……』

 『いいのよカルファン。貴方は心配しないで、私が何とかするから。だから、貴方が邪魔だと思えば、いつでも()っておしまい』


 カルファンは返事を返すことなく、相互(コミュニケーション)を絶った。

 荒れ狂う雷鳴の下、目の前にはアストレイが立っていた。



 ◆



 「二人を離せ!!」

 「あら、いいわよ。離してあげるわ。だからさっさと昇天させなさい。私の可愛いドラゴンが痛がる姿、見たくないのよ」

 「なっ可愛いドラゴンだと! あんな化物を……!!」

 「酷い言い方ね。さあ、早くしなさい。二人の方がもっと酷くなるわよ」


 女性は高笑いをし、釣り下げられていた二人を更に高く浮かす。

 呼吸は荒々しく、苦しそうにもがいているが空中にいる限りどうすること出来ない。

 首に赤い筋が浮き始める。


 「さあ、早く!」


 一際大きな声で呼びかけ、グレンが指を動かしかけた時、リオンの目が赤く光りだし、それは次第に部屋中を赤に染めあげた。


 「な、なにこの子!? まさか……!!!!!」


 女性が目を()らした瞬間を見逃さなかった。


 助走なしに一気に飛んだグレン。

 女性の顔面めがけ短剣を伸ばす。


 ダークローブを着た女性の顔面に刺さるかと思った瞬間。

 その切っ先(きっさき)は女性を通り越し、壁に乾いた音をたて突き刺さった。

 

 床に落ちる音が、二つ。


 着地したグレンが慌てて振り向くが、忽然と現れ消えたダークローブは、どこにも居なかった。

 力なく倒れている二人に近寄り、


 「大丈夫か! ミーサ、リオン!!」

 「だ、大丈夫よ、グレン。それよりリオンは……」


 リオンを揺するグレンの手が激しくなる。


 「おいっ、リオン! 目を覚ませ、リオンーっ!!」


 ぐったりとしたリオンは、人形のように揺さぶられるがまま、手足をバタつかせていた。



 ◆



 「おい、あれ。二匹いないか?」

 「……そうだな。一匹はワイバーンだ」

 「こりゃいいやー。狂った魔物使い(テイマー)に、暴走した召喚士(サモナー)ってか。お互い禁忌を犯してやがるぜっ! こんなの滅多に見れるもんじゃねえ、見物して行こうぜ。クック」


 稲妻が走り、轟音が轟く中、二匹のドラゴンが火を吐き、翼で攻撃し、共に死力を尽くし空中を飛び回っている。


 時折、豪快に反転する魔物(ドラゴン)の風圧で、森が、山全体が震えた。

 それが低空で動き回るとなると風圧はもちろんのこと、吐いた炎の熱気で燃え易い物から火が付く。

 ここは森。

 あちらこちらで木が燃え始めた。


 「おい、あそこに家があるぞ。どうしてこんなところに……」

 「……さあなあ」

 「冷たいヤツだなあ。ちょっと見に行こうぜ。誰かいたら助けないとやばいっしょ。こんな山奥だ、もしかしたら手がかりがあるかも」

 「……俺らは偵察が(メイン)だ。余計な事はするな」

 「なにいってんだお前? じゃあいいよ、役立たずが。クック」


 アストレイはカルファンに背を向け、山道を駆け出した。


 「焼死か、圧死か、好きにしろ」


 カルファンは詠唱を行った。

 何に向けてだろう。

 彼が視線を送る先は、走り去っていたアストレイがいる。


 ――郡流星(メテオシャワー)


 その言葉通りになったのは、少し遅れてのことだった。



 ◆



 「ねえねえ、なんだか凄く殺気を感じるんだけど……」

 「まだ入って直ぐですぞ。大体一階には弱いモンスター(・・・・・・・)と相場は決まっておる。今頃からそんなことを言ってどうするのじゃ、王妃」

 「……ううっ。だって……怖いんだもん」


 光りの羽が示す方向はダンジョンの奥へと誘った。

 それに従い、何の不信も感じることなく突き進むうちに、地下へと続く階段が現れた。


 「ううん。ちょっと可笑しくないですか?」

 「そうじゃな。シンフォニー様もそう思われますか……」


 暗く口を開ける階段の先は見えず、暗闇だけ。

 そこに向って「ここだよ」と、光りの羽が差す。

 シンフォニーが何度か魔法を掛け直し(リセット)したのだが、クルっと回っては同じ場所を示していた。


 「ねえねえ、何が可笑しいの? こっちじゃないの?」

 「王妃。仮に人さらいがここを通ったとしても、地下に行くのはちょっとどうかのう。人目を避けるだけならダンジョンを通り抜け、そのまま別の場所に出る方法を取るはずなのじゃが……」

 「そっか。でもさあ、地下に抜け道があるってことはない?」


 確かにそれはあるかも、と手を打ち鳴らし納得するシンフォニー。

 じゃ行きましょう、と言って階段に足を掛けた王妃が突然揺れた。


 「あれ? なに……!?」


 王妃が足を掛けた石作りの階段が音を立て、揺れ始めた。


 「え? えーえっ??」

 「じ、地震じゃー!」

 「ま、まさか、これは……」


 ダンジョン全体が揺れている。

 床や壁、天井が共に反響し合い、耳をつんざく音に変え震える。


 「きゃぁぁーーーっ!」


 座りこんで叫ぶ王妃。

 耳を押さえながら辺りを見回すブラウン。

 でも、シンフォニーだけは平然と立っている。

 そして……。


 「これ……郡流星(メテオシャワー)よ。しかも凄く近い場所……」

 「なんだって……今、おぬし何と言ったんじゃ!?」

 「私、間違えてたかもしれない……。あーあ、なんてことを……」


 シンフォニーはそのまま言葉切り、ロングボーを構えた。

 二頭の巨大狼(ダイアウルフ)が赤い眼を光らせ、低い唸り声を上げて飛びかかって来た。


 ――拡散の矢(スプレッドワイヤー)


 知らぬ間に矢を引いていたシンフォニーが詠唱を行い、矢を放つ。

 二頭の巨大狼(ダイアウルフ)の目前で矢の先が四方に拡散(スプレッド)し、その矢と矢の間には(ワイヤー)が張られ、それが巨大狼(ダイアウルフ)の体を包みこむように絡まり、動きを封じ、落下させた。

 その隙をついて、


 ――三連の矢(トリニティーアロー)


 再び詠唱したシンフォニーだったが、放たれた矢は重なり倒れていた巨大狼(ダイアウルフ)の片方だけを貫いた。

 絡まる(ワイヤー)を食い破り唸り声をあげた残りの巨大狼ダイアウルフ、座りこんでいる王妃目がけて飛躍した。


 「ぎゃぁーー!!」

 「王妃ーっ、逃げて下さい!」


 鈍い音と何かが砕ける音。

 頭を抱え込んでいた王妃が震えながら顔を上げる。


 「ああ……なんことなの……」


 体を張って突進を止めたのだろう。

 閉じた口の隙間から長い舌を覗かせたまま、巨大狼(ダイアウルフ)は息絶えていた。


 巨大狼(ダイアウルフ)の傍に短剣を持ったブラウンがうつ伏せのまま横たわっている。

 唖然となる王妃に代わり、シンフォニーが急いで駆け寄り、脈を確かめる。

 ブラウンの腕を手に取り目を閉じる。


 「大丈夫よ、生きてる。衝撃で気を失ってるだけだわ」


 安心して力が抜けたのか、地面にペタンと座り込み、俯いたその下に涙が落ちた。

 

 「よ、よかった……」


 その声に、何かが反応する。

 一階とは言え、ここはダンジョン。安息地などないことをパーティーメンバーは忘れていた。


 顔を上げた王妃の前を、何かが横切る。

 瞬きする間に、シンフォニーの姿は消えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ