表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/33

009

009



 「寝るのはまだ早いぞ!! 目を覚ましやがれっ!!」


 閉じた目を開ける前に蹴られ、ケツから転がった。


 「痛っ……な、なにしやがるって、エッ!?」


 魔の杖(マナスタッフ)は空中で止まっていた。

 状況を飲み込めないグレンは、必死に目を凝らす。


 「正義の味方が助けに来てやったぜ、おっさん!」


 見知らぬ女性戦士(ウォーリア)が、グレンが蹴られる前の場所でカルファンのスタッフを止めていた。

 良く観察すると、その女性戦士(ウォーリア)には右腕がない。


 「お、お前だれだ!?」

 「ああ、私か。アストレイって言うんだ。よろしくなぁ、おっさん。クック」

 「おっさん、おっさんうるさい! 俺はグレンだ! おっさんに変わり無いが……」

 「そうか、お前があの伝説のおっさんか。クック。今日は色々と見れる日だ! クック」

 「伝説のおっさんなんていねーよ! でもまあ、なんだ、助けてくれてありがとよ」

 「気にするなっ、おっさん。積もる話もあるだろうが、後にしよう……ぜっ」


 どうやら、忽然と現れたアストレイに助けられてた、という場面(シーン)なのだろうが、どこか腑に落ちない表情を見せるグレン。

 肩に刺さる火柱を、手で掴み、燃え移る手の平を気にすること無く、それを抜き去った。


 「痛っ。酷いことしてくれるぜまったく」

 「お、おっさん。お、おしゃべりもいいが、少しは少女(・・)を助けてくれよ。クック」


 トリプルSの戦士(ウォーリア)といえ、左腕一本はやはり辛いのであろう。

 グレンは立ち上がり、彼女の加勢しようと近づく。


 「なぜ邪魔をする、アストレイ!!」

 「はあぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ。炎で頭がイカれたのかカルファン!」

 「黙れ! 邪魔立てするなら、貴様も殺してやる!!」

 「おうおう、やっと本性を現したなゲス野郎っ。右腕の代償は高くつくぜ!」


 アストレイは短く気合の入った声を発し、擦れるような金属音がしたかと思うと二人は間合いは開き、再び対峙した。


 無詠唱なのか、カルファンが持っていた(スタッフ)を振る。


 アストレイの足元の地面が隆起し、彼女目がけて木が生える。


 「顔に似合わずせっかちだな。少女(・・)相手にそれだと嫌われるぞ。つっかもう、その嫌な性格のせいで腕一本なくしてるがな。クック」


 左腕一本で大剣を横になぎ払い、彼女に向ってくる生きた木(・・・・)を切断した。

 そして、彼女はそれと同時に、大剣から(ほとばし)る風圧で、カルファンを更に後方へと追いやる。


 「なあおっさん、言い加減起きて加勢してくれよ。間合いは十分できたぞ。英雄は少女を助けるって役目だろ」

 「ふん、何が少女だ。白魔物(ホワイトドラゴン)の鱗の甲冑なんぞ着た少女なんて聞いたことねーよ。笑わすなぁ」

 「見る目あるね、おっさん。中々やるじゃん。流石、森ん中に結界貼ってることはあるな、あははは」


 その言葉で、やっと腑に落ちない事が判明する。


 「ヤツは調査隊か?」

 「ちょっと違うが似たようなもんだ」

 「じゃあどうして助けた。お前とヤツは同じ場所に瞬間移動(テレポート)してきただろ」

 「ヒュー、やるね、そこまでお見通しか。まああれだ、その辺は諸事情ってやつで勘弁してくれ。つっかさあ、おっさんすっげえモンに色々狙われているな。なにやらかしたんだ?」


 豪快に笑う少女(・・)につられ、グレンも笑う。

 しかし、グレンの瞳は先程までとは違った。

 瞳の色は完全なる戦闘体勢。蒼白の瞳を宿していた。


 「さて、どうする、カルファンだっけ? 二対一。違うな、二と一匹対一だ!」


 上空に旋回するワイバーン。

 いつしか魔物(ドラゴン)は消え、夕暮れが空を赤く染めていた。


 ……やはりあの魔物(ドラゴン)、ダークローブの女がテイムしていたか。



 「どうした、カルファン。黙ってたらわからねえぜ、クック」


 アストレイが、先制攻撃を仕掛ける。

 それに、待った、を掛けるグレンだったがもう遅い。


 左腕を高く上げ、その場を鋭く蹴り上げると正面から突撃する。

 戦士(ウォーリア)クラスなら当然の攻撃方法なのだが、郡流星(メテオシャワー)まで使いこなす相手。

 無用心にもほどがある。

 グレンが何か言おうとした時、


 ――時の記憶(タイムキーパー)


 カルファンが詠唱する。


 時の流れがゆっくり進行する魔法。

 それが体感できるのは詠唱した本人だけで、詠唱中は時の長さに合わせ鼓動も半減し、その時間によって寿命も短くなっていく。

 詠唱した本人にも危険(リクス)を伴う闇の魔法。

 それを意図も簡単に実行するカルファン。


 そうとは知らず、突き進むアストレイ。

 カルファンの魔の杖(マナスタッフ)が振り上げられ、振り下ろされる。

 その動作は、こちら側から見れば一瞬の出来事。

 傍目からその魔法の効果を理解するのは難しい。


 振り下ろされた(スタッフ)に鈍い音が伝わる。

 そして、地面に倒れるような音。


 「なに!?」


 驚いたのはカルファンだった。

 殴りつけた相手は、グレンが召喚した雄鶏変異体(コカトリス)だった。

 雄鶏の頭に蛇の体。首の付け根からは二本の鍵爪が付いた羽。

 それが今、絶命の鳴き声を上げ、地面にひれ伏した。


 カルファンはどう思ったのだろうか。

 それがアストレイではない、と知った時の瞬間のことを。

 見上げるカルファンの頭上に、鈍く光る大剣が舞い降りて来た。


 「ふぅー。ありがとよ、おっさん」

 「どのみち操り人形(マリオネット)だ、本体はとっくの前に逃げてるだろ……っ」

 「どうした、おっさんっ!?」


 グレンはその場に崩れた。


 「魔力使い過ぎなんだよ、おっさん。ったくしゃーねえな。まぁ、貸し借りなしで行こうぜ、おっさん。クック」


 空を赤く染めた太陽が山の向こうに隠れようとしていた。

 しかし、周りの森はまだ明るく周囲を照らしている。

 炎の勢いに耐え切れず、家が崩れ落ちる。


 「おっさんの丸焼きか。チッ、喰いたくもねえや」


 二つに割れたカルファンに唾を吐き、軽々とおっさんを肩に担ぎ、炎の中を悠然と進んでいった。



 ◆



 ミーサは夢を見ていた。


 今になって、どうしてあの日の夢を見るのか。

 遠い過去。

 そして、忘れたかったはずの出来事を…………。



 「どうなってる? なんだこのダンジョンは!?」


 夢の中のグレンが大声で叫ぶ。

 

 壁に穴を開けたことによってダンジョン自体が痛みを感じたのか、空間が(ひずみ)ながら揺れ動き、どこからともなくやってくる、金属や木を擦り合わせたかのような不快音。

 それは耳の奥を激しく刺激し、激痛を伴っていた。

 全員が耳を塞ぎ、頭を抱え、倒れる。


 「ぐあおあーーー!」

 「きゃぁーーー!

 「な、なんだぁああっー!」

 「痛っーーーぃ!」


 何が起ったのか分からない。


 現実のミーサも額に汗が滲む。

 しかし、夢から覚めることなかった。

 ただシーツを強く握り締めるだけだった…………。



 「これは……」

 「地形が変わってる……!?」


 初めに気付いたのは弓使い(アーチャー)のミーサ。そして、戦士(ウォーリア)のマリーが答える。


 「ダンジョンが錬金されたと言うのか……」


 グレンとルナは最初意味が分からなかった。

 それを現実のものとし、誰よりも早く攻撃に転じたのは、やはり感の鋭いミーサだった。


 ――聖なる矢(ホリーアロー)


 詠唱ととも打ち放たれた矢は、一匹の死者(ゾンビ)に命中し、絶命した。

 しかし、その後ろから次々に現れる死者(ゾンビ)

 複数の相手に対し、弓は非力だ。


 仮に、死者(ゾンビ)相手に接近戦になったとしても、一匹あたりの攻撃は大したことはない。

 だが、それが数十匹、いや、それ以上となれば話は別。


 息を殺し、一同が凝視しする中、


 ――死の蘇生(ターンアンデット)


 死者を甦らせる魔法が詠唱された。

 悪魔系の呪いが掛かった相手にこの魔法を掛けると、生き返らせようとする効果によって呪いが解かれ、昇天させるという効果がある。

 逆利用した死の蘇生(ターンアンデット)死者(ゾンビ)種にとって一撃必殺の魔法。

 でも……。


 「魔力が足りない……」


 ルナは肩で息をしながらそう言う。

 ここに来るまで――ルナだけじゃない、他のメンバーたちも魔力を使い果たしていた。

 今の一撃で、前列にいた死者(ゾンビ)たちを昇天させることは出来たが、二列目、三列目と、通路一杯に広がって波のように押し寄せてくる。


 「クソっ、切りが無いぜ。しかもあれ、食屍鬼(グール)じゃねえか……厄介なヤツまでいやがる」


 一見するだけでは良く分からないが、他の死者(ゾンビ)とは少し違う。

 動きも早く、全身包帯で巻かれているが、ところどころ黒や赤に汚れている。

 それに、攻撃力が死者(ゾンビ)の数十倍もある上に、死の蘇生(ターンアンデット)も効きが悪い。

 絶体絶命のピンチとなった『薔薇の血(ブラッドローズ)』のメンバーたち。


 ミーサの汗がシーツに落ち、染みこんで行く。

 うわ言の様に、口を開いて何かを言おうとするが、声にならない。


 「大丈夫、大丈夫ミーサ…………」


 その声に呼び起こされて、ミーサは目を覚ました。

 あっ、と声を上げる。

 そこにはリオンが上半身を起こし、ミーサの手を包むように握っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ