実習1
太陽の光が肌をジリジリと刺激する、日差しがだんだんと強い季節になってきた。
心地よい風が頬を撫でていく。
『いい天気だな』
私は横にいるアニーに話しかけた。
『そうね』
アニーが頷き少しだけ微笑む。
今日はデニス達一年生の実習の日だ、教師だけでは管理しきれなくなる恐れがあるため、こうして私やアニーの様に一部の上級生も参加している。
実習の内容は簡単に言えば魔物との戦闘である。
四人一組でパーティを組み魔物を倒すのだ。
魔物と言っても色々だ凶暴なものもいれば、比較的穏やかで、こちらが何かしなければ襲ってこないものいる。
ちなみに、この世界に普通の動物はいない全て魔力を少なからず持っており魔物と呼ばれている、ただし、虫や植物に関しては魔力が特に多いものだけを魔物と呼んでいる。
今回実習を行う場所はダンジョンと呼ばれる魔物が多い場所だ。
このダンジョンは森になっているダンジョンで中にいる魔物は弱いものが多く学生のはじめての実習ではよく使われる。
『おはようございます』
声がした方に振り向くと、そこにはアリサとデニスがいた、後ろには、もう2人知らない生徒がいる、おそらく2人のパーティのメンバーだろう。
『おはよう、今日は頑張って、調子は良さそうだね』
『はい、少し緊張してますが体調は万全ですよ』
胸を張り笑顔を見せながらアリサが答えてくれる。
デニスもアリサに同意した。
それから、他の2人のメンバーを私達に紹介してくれた、シリルと言う少年とハイネと言う少女だ。
シリルは青で、ハイネは緑の色が髪に混ざっていた、デニスとアリサに比べれば薄く魔力は弱くも思えるが平均よりは高い方だろう。
個人的な思いとしては、魔力が高く一色に染まるより、混じり気がある髪色の方が見た目に綺麗に見えて私は好きだ。
アリサ達四人と、少しお喋りをしていると集合の合図がかかった。
『もう時間だね、じゃあみんな頑張ってね』
私がそう言うと四人は、ありがとうございますと、お礼を言い集合場所に歩いていく。
『さて、俺たちもいこうか』
『そうね』
アニーが頷く。
2メートルを超えるくらいの木が蠢いている、根は足の様に自在に動き回り木の表面には模様の様に顔らしきものが浮かび、凶悪そうな口が大きく開いている
トレントだ、普段は普通の木の様に見えるが獲物が近づくと襲いかかる、このダンジョンでは比較的多い植物型の魔物である。
トレントの周りを四人の生徒が囲んでいる。
生徒達が次々に魔法を打ち込んでいく、風の刃、火の玉、土の弾丸。
四方から攻められ、トレントは攻撃も防御も的を絞れずにいる。
【隆起】
一人の生徒が地面に手を着き魔力を流すと、トレントの下の地面が盛り上がる。
突然盛り上がる地面に対応できずダメーシはないが、トレントは倒れてしまう。
二人の生徒が倒れたトレントに向け、火炎を浴びせる。
火炎をモロに受けてしまったトレントは、微かな呻き声を上げ沈黙した。
燃やされ、動かなくなったトレントを見て四人の生徒は歓喜の声を上げる、一人の少女は安心して気が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。
私はその様子を少し離れた場所で見守っていた。
危険が低いダンジョンとは言っても、万が一に備えて、教師や一部の上級生が監視役として生徒達に着いている、余程の事がない限り、監視役が動く事はないのだが。
私が受け持った生徒達は、それほど実力の高い生徒ではなかったが、初めてにしては良く連携もとれていていいパーティと言えた。
その後も何体か魔物との戦闘を着実に生徒達はこなしていく、監視役の仕事には実習の様子の報告も含まれているが、この分だといい報告ができそうである。
生徒達の前の草木に揺れが起きた。
新しい魔物かもしれないと、生徒達に僅かな緊張が奔り迎えうつ準備をする。
草木の揺れは小さい。
小柄な魔物だろうか、段々と草木をかき分け地面を駆ける足音が聞こえてくる。
正面の木々に小柄な影が映る。
生徒達の緊張は高まり魔法を放つ準備が整う。
あれ? と私は影を見て不審に思う。
本当に魔物なのか?
遂に影が木々から飛び出してくる。
『やめろぉぉー』
飛び出した影の正体を見て私は驚き、大声で叫んだ。
飛び出してきた影の正体は人間だ。
魔法を放とうとしていた生徒達も気付き、何とか寸前で止める事ができた。
飛び出してきた人物は、学園の女子生徒だった。
このダンジョンに学園の人間以外はいるはずはないのだから、当然と言えば当然なの話だが。
しかし、それにしても可笑しい各パーティは今起きそうになっていた不慮の事故を起こさない様一定の距離を置いて配置されており、その場所を外れすぎない様に生徒達も行動する事になっている、又生徒達が思いかけず道を外れた時は監視役が誘導する手筈になっている。
しかも、女子生徒は一人である、実習中パーティが離れる事は禁止されている、一人が怪我等で動けない場合はその時点で実習は中断される。
私は生徒達のいる方に駆け寄る。
生徒達の元にたどり着くと、木々の間から現れた生徒が慌ただしく訴えかけきた。
『助けてください! 大変なんです、みんなが、早くしないと』
目には涙を浮かべながら必死に訴えてくる。
生徒をよく見ると、服を汚れ摺り切れがあり、身体にも汚れや傷があるのが分かった。
しかし、その生徒は自分の傷等お構いなしとばかりに助けを求めてくる。
『まあ、一回落ち着いて、何が起きたのか教えてくれないか』
生徒の様子にただならぬ物を感じたが、まずは話しを聞かなければと生徒を落ち着かせる。
『あっ! はい、そうですよね』
生徒は、胸に手を当て一つ深く呼吸をすると私を見据えた。
『あっ! ロイ先輩』
私の顔を見て驚いた様に生徒が言う。
と同時に私を生徒に見覚えがある事に気づく、デニス達のパーティにいた生徒である、名前はハイネだったかな。
『ハイネさんだったかなデニス達と同じパーティの』
『はい、そうです、あーでも兎に角大変なんです、急に強い魔物が襲ってきて先生が動けなくなって、デニス君達が戦ってくれてるんですが、苦しくて私に助けを呼んできてくれって』
『なんだって! 』
予想外の言葉に私は驚く。
ハイネの話しを詳しく聞いてみると、襲ってきたのは魔猿という、猿型の魔物らしい魔猿は、このダンジョンでは珍しい魔物ではないし、それ程強くもないはずだがハイネ達に襲いかかってきた魔猿は通常の個体より遥かに強く、容貌も凶々しかったと言う。
まず、監視役である教師が不意打ちで襲われ動けなくなり、さらにその時に監視役が持っている連絡用の魔道具も壊れてしまい助けを呼べなくなってしまったみたいだ。
私は話しを聞き終えると魔道具(携帯や無線みたいなもの)を使い、他の監視役に連絡をとり事情を説明した。
そしてハイネと共にデニス達の救援に向かう、受け持ちの生徒は待機してもらい、他の監視役に迎えに来てもらう事にした。
できるなら、ハイネも待機させたかったがデニス達の居場所を見つけるにはハイネの案内があった方が早い何よりハイネ自身が一緒に助けに行く事を強く望んでいた。
仲間思いの良い子だな
ハイネと二人森の中を走る、邪魔な木々は焼きはらい、魔物がいたら刺激しない様にして先を急いだ。
この判断で正しかったのか、残してきた生徒達が心配ではあった、しかし他に良い方法も思いつかなかったハイネの話しを聞く限りデニス達の救援は一刻を争う。
ハイネが道を覚えているか不安ではあったが、彼女は目印を魔法等を使いつけていたみたいで迷いなく進む事ができた。
突然の出来事で混乱していただろうに、冷静に目印をつけておいたハイネに私は感心する。
森の中をしばらく走り続けると、遠くから物音が聞こえてくる。
『もうすぐです』
焦りが滲みでた様にハイネが言う。
あの音は、デニス達が闘ってる音か!
私の身体にも緊張が奔る、心臓が高鳴り、身体が少し強張った。
物音のする方に近づいていくと、だんだんと、聞こえる音が大きくなっていく。
前方に薄っすらと、魔物と人影が見えてくる。
緊張は高まり、早く行かなければと足が早まる。
更に近づいていくと、視界が開けた。
激しい戦闘のせいだろうか、木々がなぎ倒されている。
デニスと魔猿が激しく肉弾戦を繰り広げている。
デニスが少しバランスを崩したところに、魔猿が前蹴りを放つ、デニスは咄嗟にガードしたが大きく吹き飛ばされる。
魔猿が追い打ちをかけようと前にでる。
『させるか! 』
私は叫ぶと、デニスに追い打ちをかけようとする魔猿に火炎を放った。




