アリサとデニス
アリサと街で出会ってから一か月が過ぎた、最近は決闘の騒ぎも落ち着いてきて平和な日々がもどってきていた。
その日の帰り校舎の渡り廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
『ロイさん』
振り向いた先にはアリサがいる、そして横にはデニスも。
最近では二人ともすっかり顔馴染みになり、こうして学園で出会った時には話しをする気易い仲になっている。
『やあ、また会ったね』
私は、アリサの呼びかけに答える。
二人は私の横に並び、歩きだした。
『二人は仲がいいな、いつも一緒に帰ってるのかい』
『寮が一緒ですからね』
少し照れた様にアリサが答える。
『そうなんだ、楽しそうでいいね』
『楽しくないですよ、アリサが煩くて大変なんですよ』
デニスが、疲れた様な顔をして言う。
『あんたが馬鹿なせいでしょ』
『でた、すぐ人を馬鹿って言う、馬鹿、馬鹿って、勉強の成績は同じくらいじゃないか』
『そうゆう、意味で馬鹿って言ってんじゃないのよ、この馬鹿』
『また馬鹿って言った、それしか言えないのか』
これが俗に言う痴話喧嘩ってやつかなと、二人のやりとりを見て思う。
デニスも、アリサも初めて会った時は、年のわりにしっかりしていると思ったが、だんだん話していくうちに、年相応の幼さが見えてきた、特に二人で話している時は本当に幼い子供の様だ。
そうゆう様子を見るのが、私の最近の密かな楽しみになっていた。
終わりがこない二人の言い合いを見ていたら、クスクスと、思わず笑いがもれてしまった。
『あっ、すいません』
アリサが顔を赤くして謝る
『いいんだよ、楽しそうで羨ましいくらいだから』
『楽しくないですよ、疲れますよ毎回』
やれやれという顔でデニスが言う。
『それは、私のセリフよ』
『それはそうと今度一年生は実習があるだろ、二人は一緒にパーティーを組むの』
また痴話喧嘩がはじまりそうだったので、話しを変えてみた。
『あっ、はい一応一緒です、あと二人も決まっていますよ』
『そうか、初めての実習は緊張するだろうけど君達なら余裕そうだな』
『そうですね、緊張します、先輩も緊張しましたか?』
アリサが訪ねてくる
『俺は今でも緊張するくらいだからな、はじめはだいぶ怖かったよ』
『そうなんですね、緊張とかしなさそうなのに』
少し驚いた顔をアリサがする。
『そんなもんだよ、まあでも、いざとなれば教師もいるから大丈夫だよ、それに今回は俺とアニーも付いて行く様に頼まれてるから』
『アニー先輩もくるんですか?』
デニスが驚いた様に聞いてきた。
『そうだよ』
『あんた、まだ諦めてなかったの、この前の騒ぎでロイ先輩にあんだけ迷惑かけておいて』
不機嫌そうに、アリサが顔を歪める。
『もう、諦めてるよ、ただちょっと驚いただけだよ』
デニスはバツが悪そうにする。
『ふーん、ならいいけどね』
『まぁ、二人とも落ち着いて』
本当に喧嘩になりそうな二人に若干焦りを覚え、仲裁に入る。
私が仲裁に入ると、二人はすいませんと、頭を下げた。
そこからの帰路は、少しだけ気まずい雰囲気が流れていた。
『あっ!』
急に、アリサが驚いた様に立ち止まった。
『どうしたの?』
アリサに問いかける
『すいません忘れ物をしました、とりにもどらないと先輩は先に帰っていてください、デニスもね』
『一緒に取りにいくよ、そんなに急いでもいないし』
『いえいえ、いいんです、私が忘れたのいけないんですし』
そう言うとアリサは、私達に別れの挨拶をして学園に戻って歩きだした。
『すいません、あいつ結構抜けてる所あるんですよね、心配だから一応俺も付いていきます』
アリサが歩いて行くのを見ていると、デニスがそう言ってアリサの元に向かおうとする。
なんだかんだ、二人は仲が良いんだなと思えて笑いが零れる。
『何か可笑しかったですか?』
私の笑いを聞いてデニスが不思議そうに尋ねる。
『いや、仲が良くて羨ましいなと』
『そんな良いもんじゃありませよ、ただの腐れ縁ってだけで』
デニスが、照れた様に顔を赤く染める。
腐れ縁か、アリサと同じ事を言うな。
『俺から見たら、アニーよりアリサの方が良い子に見えるけどね』
少し意地悪な質問をしてみた。
『そんな事は、絶対にありませんよ』
一瞬驚いた顔をした後にデニスは否定する。
『そうかな? まあいいや、引き止めてごめんねアリサのとこにいってあげて』
『あっ、はい!』
デニスは、アリサが歩いている所に小走りで駆け出した。
さて、私は一人寂しく帰るとしますか
デニスとアリサの微笑ましい光景を見て、私は気分が良かった。
あんな風な幼馴染が私にもいたらな
私は前世を思い出して思う、恋人はもちろんいなかったし、心許せる友達もいなかったなと。
私にあったのは、負けたくないって意地だけだった。
今にして思えば誰に対して、何に対して負けたくなかったのだろう。
よく分からなくなってくる、ただ悔しさだけは胸にずっと残っていた、生まれ変わった今でも。
急に気分が沈んできた、さっきまであんなに気分が良かったのに。
デニス達と、自分自身の過去を比べて虚しくなったのかもしれない。
生まれ変わってからは、それほど苦労せずに生きてこれた、けれども、ふいに虚しくなる時がある。
何故私は生まれ変わったのか、魔法があるこの世界でも、生まれ変わりなんて話しはお伽話しでしか聞いた事がない。
考えても仕方のない事だ、意味なんてきっとないのだろう、それでも、自分がこの世界には本当はいてはいけない様な存在に思える時がある。
そのせいだろうか、生まれ変わってからこの世界の出来事、人間に深く関わろうとできないのは。
いや、元々そうゆう性格だったのかもしれない、思考が、だんだんまとまらなくなってくる。
どんどん気分が沈んできた。
トン!
急に背を押される。
驚いて振り返ると、そこにいたのはアニーだった。
『辛気臭い顔してるわね、またくだらない事で悩んでいたんでしょ』
いつもの、八方美人の顔じゃなく、アニー本来の気の強い表情をしている。
『くだらないか、確かにそうだね』
『まあ、いいわ聞いてあげるから話してみなさい』
人に話すには恥ずかしかったが、アニーの勢いにおされて、私は簡単に説明した。
『ほんとくだらないわね、驚くほどくだらないわね、まあでも、あなたらしいわ何か納得』
やれやれと疲れた表情をアニーがする
『デニス達が羨ましいなら今から青春すればいいじゃない、まあ私があなたみたいに生まれ変わりなんて貴重な体験したら世界征服くらいするけどね、それを虚しい、いてはいけない存在かもしれないとか、アホみたい事言って、それでも男なの、いや中身な女だっけ』
アニーにまくし立てられ、私は絶句してしまう。
『世界征服ってまた恐ろしい事を言うな』
『冗談よ、それくらい分かりなさい』
呆れた様にアニーが言う。
『アニーなら本当にやりそうだからね』
思わず、笑ってしまう。
『失礼な人ね、それに一つだけ言わせてもらうけどね』
アニーが言葉を切る。
『私はあなたの事、友達だと思ってるわよ、あなたは違うみたいだけどね』
アニーが怒っている。
『ごめん、私が悪かった許してくれ』
私は、心から謝罪をする、くだらない事で悩んで落ち込んでさらにアニーまで傷つけてしまった。
『分かればいいのよ、分かったらさっさと帰るわよ、明日から1年の実習の打ち合わせや準備があるから忙しくなるわよ』
ふんと、鼻を鳴らしてアニーが言う。
こんなアニーをデニスが見たら驚くだろうな、驚いているデニスを想像して、笑いそうになる。
『そうだな、帰ろう』
いつの間にか気分は元に戻っていた。あの時もそうだったなと、私はアニーと出会った頃の事を思い出していた。
××××
『あなた、私の友達にしてあげるわ光栄に思いなさい』
それがアニーが私に言った最初の言葉だった。




