決闘!
闘技場は、円形のフィールドになっていて面積は広い1万平方メートルはあると思う、高さも高い半球に近い形状で、中心の頂点は100メートル以上ありそうだ。
フィールドの周りには5000人は入るだろう観客席が用意されている、イメージとしては野球等のドームの様な感じだ。
こんな物を、この世界の技術力で良く作ったものだと感心する。
闘技場にはさらに特殊の結界が張れる様になっており、結界発動中は結界の外には一切の被害を出さないのはもちろん、一方が戦闘不能になった瞬間、結界がすぐに察知し戦闘を停止させた上、戦いでのダメージを完全に回復させる
闘技場を見渡せば、多くの生徒が観戦にきている、教師もちらほらと見かけられた。
いつの間にか、話しが広まっていた様だ。
『黒のデニスと、ロイ・オーランドの戦いだ、見ものだな、勝つのはどちらかな』
『普通に考えたら、ロイじゃないかな』
『いやいや、デニスも相当なもんだぜ』
『恋人を賭けた決闘みたいね、素敵な話し、私はデニス君を応援するわ』
ざわざわと、噂話しが聞こえる、少し尾ひれもついてるみたいだ、私も他人事だったら楽しいのになと思ってしまう。
にしても、デニスもなかなかに有名らしい、黒のデニスとか異名みたいなのも付いてるし、それだけ黒の魔力持ちが希少なのだろう。
お祭りの様に、皆一様に興奮して楽しそうにしているなか、1人の女子生徒だけが心配そうに、デニスを見つめている、デニスの友達だろうか、距離が離れていて顔はよく分からないけれど、もしかしたらデニスの事が好きなのかも知れないなと思う、そうだとしたら、ずいぶん複雑な心境だろうなと、少し可哀想に思えてくる。
そんな事を考えながら歩いていると、デニスが立っている闘技場の中央に辿りついた。
デニスを見ると、やはり力強い視線を私に真っ直ぐにぶつけてくる。
いい面構えをしている、少し緊張している様にも見えるが悪くない。
それに、緊張しているのは私も同じだから。
怖いなと思う。
集中しなければ、余計な事は考えるのはやめよう、今は戦いに集中しなければ。
『ロイ先輩、ありがとうございます、この様な申し出をうけていただいて、全力で戦わせていただきます』
『ああ、俺も全力で相手させてもらうよ、君はとても強いみたいだから』
そう言うと、お互いに手を伸ばし握手を交わす。
『では、二人とも開始線に着いてください』、
教師のアナウンスが聞こえてくる。
教師の指示に従い開始線まで下がる、デニスも同様に下がっていく。
お互いの距離はこれで20メートルになる、デニスならこれくらいの距離なら一瞬で詰めてくるだろう。
近づかれたら終わりだ、作戦は決めてある。
『では今から、デニス・ブロンズと、ロイ・オーランドの決闘を始めます、決闘は武器なしの、素手と魔法のみで行い、どちらかが降参するか戦闘不能になるかで勝敗を決めます、よろしいですか?』
同意の挙手を行う。
『良いようですね、では結界発動』
教師の言葉の後、闘技場の端から青白い結界が立ちのぼる、なかなかに幻想的な風景だ。
ついに始まるか。
心臓が脈打つのを感じる。
先ほどから足元が少しおぼつかない、二度三度地面を踏みしめてみる。
フーと一息吐くと、無理矢理に少し笑ってみた。
うん、大丈夫、少し楽しくなってきた。
『では、カウントを開始します、開始の鐘が鳴るまでは両者共、開始線から動かない様に魔法の展開も禁止します、魔力の解放のみ許可します、破った場合はその場で負けとします、よろしいですか?』
再度、同意の挙手を行う。
『よろしいようですね、では始めます。』
『10』
カウント開始同時に魔力を解放する
『9 .8 .7』
魔力をどんどんと高めていく。
『6 .5』
デニスも同様に魔力を高めている、が私は驚く。
凄まじい魔力の高まりである。
デニスの髪の色がどんどん黒く染まっていく。
これほどとはな。
こんなにも、魔力解放時の魔力の上昇率が高い人間を初めてみた。
『4 .3』
お互いに魔力の解放が安定してくる、デニスの髪は今や完全に黒一色だ、日本人みたいだなと、余計な思考が一瞬よぎる。
『2 .1』
緊張が高まる、両手を前に突き出す。
『0』
と同時に鐘の音が響きわたる。
鐘の音と同時にデニスが地面をけり、真っ直ぐに突っ込んでくる。
同時に私も突き出した両手に魔力を集めて一気に放出する。
【豪炎・無色硬式】
無色透明の豪火をデニス目掛けて放つ、と言っても完全な無色透明にはほど遠い、これ以上は私の魔力制御では威力が落ちすぎてしまう、何より今回の目的から考えれば、それほどの精度は必要なかった。
デニスは、私の放った炎に対し両手で顔を庇うと構わずに突き進んできた、おそらく予想していたのだろう、多少のダメージを負おうがデニスの間合いに入れば勝ちなのだ。
しかし、そうはさせない、そのための硬式の炎だ、この炎には硬さの性質を持たせてある、先ほど同様、私の魔力制御では大した硬度はだせないがデニスを受け止め吹き飛ばすくらいなら十分可能だ。
こんな感じで、魔法には色々な性質を持たせられる、もちろん高度な技術を必要するが、アニーには、及ばなくても私も学生としては高い魔力制御の技術を持っている、これくらいなら何とか可能なのだ。
デニスが私の炎にぶつかる。
ギリギリと炎が軋む。
デニスは炎の勢いに負けず、さらに力強く私の炎を突き抜けようとする、馬鹿げた力と耐久力だ、硬さをもたしてあると言っても炎なのだ、普通の人間なら焼け死ぬ熱さなのに、さすがは黒の魔力持ちと言えるだろう。
このままだと、デニスの力に負けて炎から硬さの性質がなくなってしまう、そうなればデニスは一気に炎を突き抜けてくるだろう、それはまずい。
私は歯をくいしばると、思いきり炎に魔力を注ぎ込んだ。
【爆】
炎の威力が増す、炎はデニスを押し込み吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされたデニスは闘技場の端の結界に激突する。
【解炎】
デニスが結界にぶつかった瞬間、私は炎から硬さの性質を消し燃え上がらせる。
デニスを炎が覆い尽くす、しかし、この程度の炎ではデニスを倒す事はできない、私は左手に魔力を込める。
【炎弾】
直径5センチほどの炎の弾を連続で打ちだす、連射速度は正確に分からないが1分間に500発ほどだ、威力は高くないが弾幕をはれば避けきるのは難しいだろう、炎に包まれているデニスだが、狙いをつけるのはたやすい、そのために無色の炎にしたのだ、威力は多少落ちるが、戦いの最中に相手を見失うのはリスクが高すぎる。
デニスは吹き飛ばされ体勢をくずしている、私の炎弾はデニスをしっかりと捉える。
ドドドと、炎弾の衝突音が響く、デニスは炎弾を喰らいながらも体勢を整えていく、そして腕や肩でガードを固めると、少しずつ前進を始めた。
やはり、炎弾だけでは無理か。
私は、下げていた右手を再度、前に伸ばし魔力を込める。
【炎砲】
今度は右手から、直径50センチほどの炎の弾を打ちだす、連射速度は炎弾ほどはなく、1分間に20発ほどだが、発射されてからの速度は炎弾を上回り、威力は炎弾より遥かに高い、当たればデニスといえども、それなりにダメージを受けるだろう。
デニスは炎砲に気づくと、何とか回避していく。
しかし、炎砲に気を取られ炎弾の防御が疎かになっていく。
デニスと私の距離は、今200メートル近く離れている、武器なしの決闘ではデニスに遠距離での攻撃手段はない、もし武器があるならば小さい鉄球でも投げるだけでも、デニスの力ならそれなりの威力になったはずだが、それも今回はない闘技場に入る前に身体検査があるし何より、結界内でのルール違反は不可能だ。
さらに、闘技場には小石1つ落ちていない、このまま押し切れそうだな。
続々と放たれる炎にデニスはついに防ぎきれなくなり、炎砲が当たりデニスが大きくバランスを崩す。
これで決めれる、そう思った瞬間、デニスが何かを投げる様に腕を振る。
ゾクリと冷たいものが体を走る投げるものなど無いはずなのに。
ハッタリの可能性の方が高かった、しかし反射的には私は防御をとる。
【炎壁】
体の前に、炎の壁を作る。
次の瞬間、ジュと音を立てて何かが炎の壁にぶつかり燃え落ちた。
ばかな、一瞬だが驚きデニスから気をそらしてしまう。
不味い、そう思ってデニスに意識を戻した時には、デニスは私の炎の弾をくぐり抜け接近していた。
距離にして80メートルほど、デニスは加速がついているし私は体勢が整っていない。
歓声が聞こえてきた、デニスの逆転劇に観客が盛り上がりを見せる。
私は焦るが、保険は掛けてあった。
魔力を地面に流す。
【地爆炎】
デニスの足元の地面が爆発する。
デニスの体が宙に持ち上がる、もしものために、地面に術式を構築しておいたのだ。
それなりに威力のある魔法だ、しかも完全なる不意打ち、さすがにデニスといえどもダメージは深いだろう。
しかしまだ、決着の合図はない、まだ戦えるということか。
吹き飛ばされたデニスに魔法を打ち込んでいく。
結界から、青白い光が降りてくる、炎が搔き消え、魔力が霧散していく。
鐘の音が聞こえた、終了の合図だ。
『それまで、勝者はロイ・オーランド』
ふう、何とか勝てたか、私は一安心する。
また歓声が聞こえた。
決着が着いた。
結界の光が、デニスと私を包み込む、光に包まれると優しい温かさを感じた、体から疲労が取れていく、今回直接のダメージは追わなかったが、かなりの疲労を伴った。
デニスの方も見ると、体の傷はもちろん衣服などの傷も消えていた。
さすがに、魔力までは回復しないがそれにしても闘技場の性能に驚かされる。
結界の光が消えていくと気を失っていたデニスが目を覚ました様だ。
デニスは立ち上がり、現状を把握すると闘技場の中央、私がいる方に歩いてきた。
デニスが私の前にたつ、気落ちしている様に見える、負けたのが悔しいのだろう。
『負けたみたいですね、最後何が起きたのかよくわかりませんでした、威勢よく挑戦したわりに結局一矢報いる事もできずに終わり情けないです』
気落ちした顔をさらに悔しげに歪めデニスがいった。
『そんなはないよ、むしろ後少しで俺の負けだった、一方的に終わらせなければ君には勝てないからね』
私はデニスの言葉を否定する、慰めの気持ちも少しあったが言葉に偽りはなかった。
『ありがとうございます』
デニスが頭を下げる。
『そういえば、途中投げつけてきたものは何だったんだ、投げつけれるものなんて無いはずだろう』
私は、不思議に思った事をデニスに問いかける。
『ああ、あれはですね、自分の歯を抜いて投げたんですよ、闘技場だから、どうせ後で治ると思って』
デニスは私の問いに、そう答えるとはにかんだ笑顔を見せた。
デニスの答えに私はドン引きする、自分の歯を引き抜くとか考えるだけでゾッとする。
『もう、お前と2度と戦いたくないな』
私は顔を引きつらせながら言う。
『えっ! 何でですか、訓練してもっと強くなるのでまた試合しましょうよ』
デニスが私の言葉に驚いて、頼みこんできた。
『嫌だ』
私はデニスの頼みを切り捨てる。
『そんな』
デニスが気落ちしてガックリと肩を落とす、その仕草が可笑しくて、笑いそうになるのを何とか堪えた、ここで笑うの失礼だなと。
落ちこんでいるデニスを見て少しだけ可哀想に思えてきたが、これ以上面倒な事はごめんだった。
最後にデニスと握手を交わし今日の決闘は幕を閉じた。
これが私とデニス・ブロンズとの出会いの出来事だった。




