デニス
闘技場の扉を潜ると少年がこちらを睨みけている、背は低い160センチくらいではなかろうか、全体的に小柄なイメージに見えるが、よく見ると相当に鍛え込んでいるのが服ごしにもわかる、顔はまだあどけなさを残しているが私を見る眼光はなかなかの迫力である、目と髪の色は黒に近い灰色をしている。
黒が持つ魔力の性質は身体強化だ、前世の知識がある私としては黒と言えば闇だろと、はじめ思ったがこの世界では黒と言えば身体強化である、そもそも闇とか光の性質の魔力は存在しないらしい。
話しが脱線したが、身体強化の魔力は厄介だ単純にして強力、接近戦で黒の魔力持ちに勝つのは至難の技、しかも少年の髪の色を見る限り、魔力の量もなかなかものだろう。
まさかこんな事になるとはなと、私は事の発端を思い出していた。
その日の昼休み私が中庭でアニーと話していると一人の少年が近づいてきた。
背は低い全体的に小柄でひ弱そうに見えるが、よく見ると相当鍛えているのがわかる、そして髪の色は黒に近い灰色だった。
黒の魔力持ちか、珍しいなというのが私の感想だった。
黒の魔力持ちは、全校で1000人以上いるこの学園でもごく僅かしかいない、そして少年の様な色濃い者を見たのは私は初めてだった。
少なからず少年に興味をひかれたが、あまり凝視するのもまずいなと視線を切り少年が通りすぎるのを待つ事にした。
私の思いとは裏腹に少年は真っ直ぐに私たちの方に歩いてくる。
そして、私達の前で足を止めた。
『こんにちわ、アニー先輩』
少年がアニーに向けて挨拶をする。
私は顔を上げて少年を見る、近くで見ると目も髪と同じ色をしている、ある程度魔力が高まると目と髪の色はほとんど同じになる、元々の色素が魔力の方に完全に負けるのだろう。
まあ髪の色を見た時点でそれは予想できたことだが、もしかして髪を染めているのかもしれないと思ったからだ、アニーが髪を染めるのを辞めてしばらくして、ほとんどいなくなったが今でも髪を染める人間は少なからず残っていた。
しかし、今のところ前世で言うカラコンの様な物があると言う話は聞いたことがない。
『あら、デニス君じゃないどうしたの? ここは一年の校舎からだいぶ離れてるけど』
アニーは少し微笑む様に少年に問いかける
少年はデニスと言う名らしい、アニーとは知り合いみたいで話しの感じによると一年生の様だ。
『先日の実習ではお世話になりました、先輩の魔力コントロールの精度の高さには、いつも感動させられてしまいます』
そういえば昨日アニーが1年の魔法実習の教育係として呼ばれていた事を思いだした。デニスの言う通りアニーの魔力コントロールの精度の高さは高く学園でも一番の使い手と目されている、それを見た後輩が感動するのも頷けると、目をキラキラとさせてアニーに話しかけるデニスを見て思う。
『礼には及びませんわ、こちらこそ皆さん真面目に私の話しを聞いてくださって助かりました、特にデニス君は優秀でしたね、性質が全然違う私の話しをよく理解してくれました、さすが期待のルーキーと言われている訳がよくわかりました。』
アニーは凛とした表情に優しさを滲ませながら話す。
アニーの期待のルーキーという言葉を聞いて、私はそんな話しを誰かがしていたなと思いだしていた。
デニスの方を見れば、彼はアニーの賛辞が嬉しかったようで顔を喜ばせていた。
しかしいくら感動したからといって、わざわざ場所が離れている2年の校舎までお礼を言いに来るとは、なかなか大胆なやつだな
『それで、お礼言うためにここまできてくれたの、ありがとう、嬉しいわ』
アニーも少し疑問に思ったのだろう、感謝の言葉をいいながら、デニスに問いかける。
アニーかま問いかけるとデニスは、顔を真剣なものに変えた。
『それだけではありません』
少しの躊躇いを見せた後、デニスは意を決した様に否定の言葉を述べた。
何か理由があるのか? 私は多少の興味を引かれていた。
私がデニスの方に目を向けていると、彼もまたこちらに視線を移してきた。
デニスの濁りのない真っ直ぐな瞳を向けられ、思わずドキリとした。
『あなたが、アニー先輩の婚約者であるロイ先輩ですか?』
『え、ああ、そうだけど』
突然のデニスの問いかけに、私は驚いて間の抜けた声を上げてしまう。
『そうですか、お噂はかねがね窺っております、学園で一番強いのはあなただと』
『ああ、まあそう言われてはいるね、実際のところはわからないけどね』
デニスの言う通り、私はこの学園で一番強いと言われている、実際にみんなが戦いあうわけではないが、魔法の実習などの成績や様子からそう言われている、本当のところはアニーが手を抜いているだけで、一番はアニーであるのだけれども。
私の返事を聞くと、デニスは無言で頷くとアニーの方に視線を向けると、口を開いた。
『無礼は承知で言わせてもらいます、僕はアニー先輩の事が好きです。』
は!アニーが好き?
突然のデニスの告白に、私が困惑していると彼は再度私に視線を向け、言葉を続ける。
『ロイ先輩、あなたに闘技場での決闘を申し込みます』
青天の霹靂とはこうゆう事をいうのだろうか、私は数秒の間、惚けた様に返事を返せずにいた。
見ればアニーも同じ様に驚いていて間の抜けた顔をしている、アニーのこんな顔を見るのは初めてだった。
アニーをここまで、驚かせるとは大したもんだと全く関係のない思考が頭をよぎる。
しかし、アニーが好きで、私に決闘を申し込むということは、まさか...
『まさか、アニーの婚約者の座を賭けて、おれと決闘しようというのか』
私はデニスに問いかける、自分で聞いておいて何だが、馬鹿な話しだ貴族どうしの婚約の約束を決闘でどうにかできるわけはない。
しかし、話しの流れだとそう思えてしまう。
『違います、そうしたい気持ちもありますが無理な事は分かっています、決闘の勝ち負けでどうなかなるものではありませんので、婚約の約束もアニー先輩の気持ちも、それに私の家は男爵家ですし、アニー先輩とはつりあいません』
デニスは、私の問いをきっぱりと否定した。
考えなしの馬鹿という訳ではないんだな、それにアニーの気持ちの事まで考えるあたりは、少し感心した、貴族の婚約では、当人達の気持ちはあまり重視されない、特に女性側の意思は無視されがちだからな。なかなか貴族にしては珍しい考えの男だ。
『では、どうゆう理由で決闘をするんだ』
私は、再度デニスに問いかける、彼がどのような理由で決闘を申しこんできたか興味が湧いてきた。
『納得したいからです、アニー先輩が手のとどかない相手ではある事は分かっていますが、何もせず諦める事が出来ません、あなたと戦う事で自分の気持ちにけりをつけたいと思いました。身勝手なお願いだと思いますが、どうかお願いします』
デニスはそう言い、力強い視線を私に向ける
うーん、と若いというか、馬鹿というか、なかなかに無茶苦茶な申し出だなと思う、しかし同時に嫌いではないなとも思う。
よく見れば、デニスの足は僅かに震えていた。怖いのだろうか、もしくは緊張しているのかもしれない。
それもそうかと思う、こんな申し出を言うのは余程の考えなしの楽天家でもなければ勇気がいるだろう。
臆病だとは思わなかった、むしろ膝を震わせながらも力強さを失わない瞳には尊敬すら感じる。
この決闘、私に受ける義務も義理もないけれど、断る事はできないなと、私も馬鹿なのかも知れない。
『分かったよ、君の熱意は伝わってきた、決闘を受けよう』
私は立ち上がると、承諾の返事をした、そして彼に右手を差し出す。
『ありがとうございます』
デニスは、私の右手を掴み握手をすると頭を下げ礼をのべる。
『アニー先輩もすいません、迷惑だとは思いますが、初めてお会いした時から、貴方に心を惹かれていました、賢いやり方とは思いませんが、他に方法もうかばず、お許しください』
握手を解くとデニスはアニーに体を向け謝罪の言葉をのべると頭を下げた。
『いいえ、謝る事はありません、ロイと私は結婚を約束した間柄、あなたの思いに応える事は叶いませんが、その真摯な気持ちは嬉しく思います、私にはもったいないくらいに』
アニーは優しい微笑を浮かべながら言う。
なんとなくだが、アニーの表情は珍しく本当に嬉しそうに見えた。
『ありがとうございます』
アニーの言葉に対して、そう一言デニスは返した。
『では、今日の放課後、闘技場でお待ちしています。闘技場の使用許可は僕が申請しますので』
『分かった』
私は了承の返事をする。
『ロイ先輩本当にありがとうございます、後1つアニー先輩の事を抜きにして、学園で最強と名高いあなたと戦える事は楽しみです、それ以上に怖くもありますが』
そう言うと、デニスは晴れやかな笑顔を浮かべて帰っていった。
『ふー、驚いたな。しかしなかなか面白い奴だ、アニーも満更じゃないんじゃないか、珍しく本当に嬉しそうだったじゃないか』
デニスが立ち去ると、私はアニーに話しかける。
『まあ、確かにそこらの男よりは幾分かは増しですわね』
控えめな評価だが、アニーにしては高い評価と言える、なんだかんだ、デニスを気に入っているのだろう。
『私より、あなたの方こそ珍しいんではありませんか、男嫌いのあなたが気にいるなんて』
私がアニーの評価について考えていると、アニーが言葉を続けた。
アニーの言葉にハッとする、確かに私が男に対して少なからず好意的な感情を持つなんて不思議だった。
アニーは今世で唯一私の前世の事を知っている人間だ、ゆえに疑問に思ったのだろう、私自身不思議だった。
『まあ、私自身男になって16年もたつからな、少しは男嫌いもましになったのかもな』
私は、そう言って自分を納得させた。
『ふーん、そういうものですか』
そう言うと、アニーは意味深に笑みを浮かべた。
『そうだよ、他意はない』
私はそう言いながらも、前世でも周りにあんな男がいたならな少しは私も男を信じれたかなと思う。
しかし、それと同時にデニスもまた本性を隠しているだけかもしれないなとも思う、外面だけいい男は、前世、今世通して数多く目にしてきたから。
不意に過去の記憶が蘇り胸がいたんだ。
『まあ、あいつも実際の所はわからないがな』
『そうですわね、しかし強いのは確かですよ。あなたでも油断したら負けるわよ』
『そんなにか、怖くなってきたな』
軽い口調ではあったが、本心に近い言葉だった、闘技場での決闘は、特殊な結界により安全は保障されているが、痛みはあるので普通に怖いのだ、それが強い相手となればなおさらだ。それに、名門オーランド家の跡取りが一年の男爵家の者に決闘で負けたとあっては、周りがうるさそうだしな。
内心の不安に駆られていると、予鈴が聞こえてきた、いつの間にか昼休みの時間を過ぎていた様だ。
『まあ仕方ない、やるしかないな』
私は、ふーと一息吐いてそう言った。
今さら後には引けないからな、それに怖いのは向こうも同じなのだから。
私は覚悟を決めると校舎に戻る事にした。
『戻ろうか』
私の言葉にアニーも頷く。
二人は校舎に向かい歩きだす。
意識が、今に戻ってくる、これが目の前の現状の理由であり、闘技場で今から私は、デニスと戦うのだ。
完結したので、見直して、誤字脱字等書き直してます。
文章も変なとこをなおしてるつめりですが、知識が薄いのでご指摘あれば嬉しいです




