闘い5
アニー視点
『これは、どうゆうつもりなのニコラさん』
ニコラに私は問いかける、ニコラが私を刺そうとした動きは訓練された者の動きだった、この学園にナイフを扱う授業はないのに。
『本当に規格外の強さですね、アニー先輩』
私の問いかけに答えず、彼女は言う。
ニコラの髪に変化が起きる、ダークブランドの髪が紫色に染まっていく。
ニコラの凍りついている右手の氷が砕ける、何でもなかったみたいに彼女は手を振り、残った氷を払い落とす。
私は少し感心する、彼女の魔力はたしか黒、であるなら身体強化で無理矢理氷を剥がしたのだろう、並の魔力でできる事ではない、デニス程度の魔力がなければ、それにあの髪の色は。
『闇の一族...... か、噂に違わぬ力ね、でもそれで私を倒せるつもりなのかしら』
強い事は強いだろう、けれど私の脅威にはなりえない、自惚れではない只の事実として、もう少しナイフが深く刺さっていれば危なかったがかすり傷程度の傷では戦いに支障はない。
『いえ、もう私の勝ちです』
ニコラが急な勝利の宣言をする。
『何を...あっ』
何を言っているの、そう言おうとしたが途中で体に痛みが奔り力が抜ける、急に苦しみが込み上げてきて
私は膝をついた。
『まさか、あなた』
『はい、多分想像通りですよ、ナイフには毒が塗ってありました、強力な毒で普通ならもう意識は無いはずなんですけどね、先輩はやはり怪物ですね』
『怪物だなんて、失礼な子ね』
まずい、軽口を返してはいるが、状況は最悪だ、すこしでも気を抜けば意識を失いそうだ、魔力を練る余裕なんてない。
『失礼しました、でも本当に凄いと思いましたよ、ここまでする必要はないと思っていましたが、実際にはギリギリでしたからね、ナイフが届いて良かったです』
ニコラは軽く笑うと、服の中からナイフを新しく取り出す。
『では、すいません先輩に恨みはありませんが死んでください』
そう言ってニコラは私に近づいてくる、少しだけ彼女の顔には悲しみの色が見えた気がした。
打つ手なしか、まさかこんなあっさりと私が負けてしまうとは油断があったのか、いや相手が上手だったというだけか。
歩み寄るニコラの表情に変化が起き、私の後方に視線を向ける。
私の耳にも土を蹴る音が聞こえてくる。
ザシリと、土を踏みしめる音と共に、横にデニスが立つ。
『アニー先輩大丈夫ですか』
デニスが心配そうに聞いてくる。
『ええ、なんとかね、ありがとう良いタイミングよ、
私の命運もまだ尽きてなかったみたいね』
そう返事をし、ニコラに向けて薄い笑顔を向けた。
『ニコラ...... これは、君は何をしようとしていた』
顔に驚愕を貼り付け、震えて弱々しい声をデニスが発した。
『見ての通りよデニス君、アニー先輩を始末しようとしていただけ』
淡々とした表情でニコラは言う。
『何故だ、何でそんな事を』
悲痛な声でデニスが言う。
『貴方に説明する意味はないわね、そして貴方も邪魔をするというのなら、死んでもらうわよ』
デニスの問いを冷徹な声でニコラは切り捨てた。
『待つんだニコラ、君はそんな事が出来る子じゃないだろ』
必死に呼びかけるデニスの言葉に、ニコラは若干の苛立ちを表情に滲ませる。
『貴方に、私の何が分かると言うのかしら!』
言うと同時にニコラは右手を振る、右手に持っていたナイフがデニスに飛来する。
飛んで来たナイフを体をズラしデニスは避ける。
『ニコラ、よすんだ』
デニスの顔が悲しみに歪む。
構わずに、ニコラはデニスとの間合いを詰める。
左の突きをニコラが放つ、捌くデニスに追撃の前蹴り、デニスが後ろに飛びよける。
『君とは戦いたくないんだ』
尚もデニスはニコラに呼びかける。
デニスの呼びかけに構わずにニコラは攻撃を仕掛ける、さばき続けるデニスだが、ついにはニコラの右の拳がデニスの顔を捉える。
『デニス君気持ちはわかるけど、今は戦うしかないわよ』
私は堪らずデニスに声をかけた。
『はい分かってます、もう大丈夫です』
追撃を加えるために間合いを詰めたニコラに、デニスが初めて反撃を加えた。
デニスの反撃を察知し、ニコラが間合いをとる。
『やっと、やる気になったか甘ちゃんが』
ニコラが挑発をするが、今度はデニスがなにも答えない。
静寂が場を包んだ、静かに二人が間合いを詰めてゆく二人の間合いが触れ合った瞬間、互いの拳が飛び交った。
数秒の激しい肉弾戦を経て二人はまた間合いをとる。
ニコラが口から血を吐き捨てる、デニスの拳がニコラを捉えていた。
けれどダメージを負ったのはデニスも同じだろう、互いの実力はほぼ互角に見えた。
互いのダメージは致命には遠い、戦いは再度始まる、
互角の攻防が続く。
何度目かの攻防の後、間合いを取ったニコラが顔を歪め舌打ちをする。
『遅くなってすまない、アニー』
ロイが横に立ち私に話しかける、ロイの後ろにはアリサもいた。
これで形勢はこちらに傾いた、彼女はどうするだろうか。
アリサが私の横に屈み、治癒魔法をかけてくれる、暖かい感触とともに苦しみは和らいだ。
『もう君の負けだ、大人しく投降してくれ』
デニスがニコラに諦める様促す。
ニコラが不愉快そうに歪む。
『イライラするな、全く何から何まであいつの想定通りだ、結局奴の思い通りか』
ニコラが意味深な言葉を発し、服の中から小箱を取り出した。
ニコラが小箱を開け中から、水晶らしき物を取り出した。
あれは!一つの予想が頭に過る。
ニコラが手に持つ水晶から深紫色の魔力が不気味に蠢き漏れ出す、その魔力がニコラに纏わりつき、そしてしみこんでいく。
『止めろ、ニコラ』
デニスも気付いて、悲痛な声を上げる。
ロイもアリサの顔も険しい、皆んな考え出る事は同じだった。
禁呪の魔道具をニコラ自身が使用したのだ。
深紫色の魔力が全てニコラの体に入り込み、水晶は色を失い砕け散った。
『が...... がはぁ』
ニコラが血を吐き苦しみだす、ニコラの可愛らしい顔が醜く歪み、血管が浮き出る。
ニコラが膝をつき蹲る、浮き出た血管が裂け血が飛び出している。
悲惨な光景だった。
人間が使用すれ殆んどがすぐに死亡し、上手くいっても1日持てばマシ、そういう魔道具をニコラは使用したのだ。
そして、見る限りニコラは前者の様だ。
『何て事を......ニコラ』
デニスが悲痛に顔を歪める。
ロイも同じ様な顔だ、アリサはもう泣き出してしまっている。
私も顔もきっと似た様なものだろう。
『アリサ、ニコラに治癒魔法を早く!』
デニスが切迫した声を出す。
『うん』
アリサがニコラに駆け寄ろうとする。
『よすんだ、今近づくのは危険だ、それにあれはもう手遅れだよ』
駆け寄ろうとするアリサを私は止める。
『でも......』
『気持ちは分かる、けど無理だ』
私の言葉にアリサは俯く。
『アニーの言う通りだ、辛いが仕方ない』
ロイが一緒に止めてくれた、彼も辛いだろう拳を強く握り締めている。
ニコラの苦しみの叫びが一際大きく咆哮の様に聞こえた。
そしてニコラは、倒れてしまい動かなくなってしまった。




