戦い
忙しくも充実した日々は、着々と過ぎていく。
寒い冬になり、また過ぎて、今は春の暖かさに変わろうとしている。
今日は、三年生が卒業前の最後の実習に行っている。
三年生最後の実習は、一年生が行ったダンジョンより
危険度は高い、けれど、皆この学園で3年間学んだ生徒達であるし、同行する教員の数も多い、今までも重大な事故は起きていない。
今回はさらに前回の実習の魔猿の事もあり、教員の数が例年より多い、学園長も同行して万全を期している。
それによって、今学園はいつもより閑散とした雰囲気を出している。
今は教員の数が足りず教室で座学の自習をしている、ふとザワメキが起きる、クラスメイトが窓から外を見て何やら騒いでいる。
私も立ち上がり窓から外を見る、窓の外にある、演習場では、他のクラスの生徒が演習を行っている、その生徒達は、私達以上に騒ぎ混乱し、中には悲鳴を上げてる女生徒もいた、その騒ぎの中心に視線を向ける
魔法陣!
演習場の地面に、魔法陣が三つ浮かんでいる。
一体何だ、疑問と衝撃が私に襲いかかる。
驚愕に動けずにいると、魔法陣から何かが出てこようとする。
あれは
私は目を見開く、一つの魔法陣から出てきたものに見覚えがあった。
魔猿だ。
そして、残り二つの魔法陣からも魔物がでてくる。
あれは、サーペントと、ゴーレムか?
巨大な蛇と、同じく巨大な人形の鉱物の塊、サーペントと、ゴーレムだと思うが、魔猿と同様、その姿は、本来の姿より、ずっと禍々しく歪んでいる。
混乱の中、生徒達は一斉に逃げ出すが、このままでは被害は免れない。
私は演習場に向けて踏み出そうとして、体が止まる、恐怖が全身に奔る。
怖い、魔猿一体でも苦労したのに、もう二体、しかも、元の魔物の強さを考えれば、恐らく魔猿より強いだろう。
しかし、このままでは被害は大きなものになる、この時の為に特訓してきたのだ。
私は震えそうな足を踏みしめ魔力を高めると、二階の窓から飛び降りる。
一瞬の滞空を経て地面に降り立つ、足に多少の衝撃を感じたが問題ない。
特訓での、魔力を充満した状態での走り込みも今では普通にこなせる様になった、走る速さも通常の状態よりも遥かに速く走れる。
今の飛び降りも、通常の状態なら躊躇われたろう。
私は魔力を充満させ、軽くなった体で魔物に向かい走り出す。
もう、魔物は魔法陣から完全にでてこようとしていた
一番初めに出てきたのは魔猿だ、生徒を逃がすために残った勇敢な教員と一部の生徒が、魔法を魔猿に向けて放つ。
けれど、魔猿は少しだけ怯むだけでダメージを受けた様には見えない、そのまま教員と生徒に近づくと、一振りで教員と生徒が一人吹き飛ばされた、魔猿は残った三人の生徒に視線を向ける。
魔猿の視線を受け、三人の生徒に戦意は無くなっていた、怯えて立ちすくんでいる。
マズイな、私は間に合わないと悟り、まだ距離は離れていたが魔法を構築する。
右手に高密度の炎球、正確に制御された炎球は炎とは思えない程穏やかで、一見ただの光にも見える、しかし、実際は恐ろしいまでのエネルギーの塊。
その炎球を前に突き出し、魔猿に狙いを定める。
【光熱線】
以前、魔猿を仕留めた魔法、あの時より速く正確に制御できる様になった魔法を放つ。
一筋の光が魔猿の頭を通過し、後ろにいたゴーレムに当たると激しい爆発がおきる。
頭を失った魔猿はくづれ落ちる、が後ろのゴーレムは少しよろけただけで倒れはしない。
やはり、残り二体は魔猿よりも強いみたいだ、魔猿に当たり威力が弱っていたとはいえ、光熱線を受け、よろけるだけとは冷たい汗が流れる。
他の二体が動き出すと前に何とか魔物達の前に辿り着く。
『大丈夫か、後は任せろ』
恐怖の為か呆然と立ち尽くしていた三人の生徒に声をかける。
『あっ、はい、でも一人で戦うつもりですか』
私を心配してくれているみたいだ。
『俺は大丈夫だ、何とかなる、それより怪我人を連れて早く避難してくれ、守ってる余裕は流石にない』
キツイ言い方になってしまったが、私にも余裕はなかった。
『はい、わかりました、ありがとうございます』
三人はお礼を言うと、吹き飛ばされた二人の元に向かう。
まだ心配はされていたと思うが、先程の魔法を見たのもあったのか納得してくれた。
私は眼前の魔物を見据える。
丁度、一番時間がかかっていたサーペントが魔法陣から完全に出てきた。
大丈夫と言ったものの、緊張で心臓が高鳴るのを感じる。
今の私ならやれるはずだ、自分を奮い立たす。
魔物が私に向かい動き出す。
サーペントは体長五メートルほど、ゴーレムは三メートルといった所か、二体の巨大な魔物が自分に襲いかかってくるのは恐怖以外の何でもなかった。
落ち着けよ、自分に言い聞かせながら、魔法を構築する。
やはりというかサーペントが早い、滑らかな動きで地を履い、距離を詰めてくる。
私の目の前には、構築された五つの炎球。
【光熱線群】
それを、サーペントに向け放つ、五つの閃光が、サーペントを襲い、肉を削り、地を穿つ。
けれど、サーペントは凄まじい反応速度で閃光を避け、致命傷を逃れる。
怪我を負ったサーペントが口を開き獰猛な牙が見える
痛がってるのか? いや、あれは、多分怒っているのだろう。
私の魔法を受けサーペントが動きを止めているとゴーレムが近づいてくる。
もうすでに次の魔法は構築していた。
ゴーレムの足元に魔法を放つ、ゴーレムの足元が崩れバランスを崩したゴーレムが倒れる、さらに私は追撃の魔法を放つ。
ゴーレムを倒しきれずにいると、サーペントが再び近づいてきた。
私はゴーレムへの攻撃を一旦止めると、サーペントに向けて魔法を放つ、今度もサーペントは素早く魔法を避けるが、少しずつだかダメージを与えている。
いける、私は自信を持ちはじめていた。ゴーレムもサーペントもまだ仕留める事は出来ていないが着実にダメージを重ねていけている、相手はこちらに近付けないでいるし、魔力にも余裕はある、倒せるのも時間の問題だろう。
不意に後ろから、駆けてくる足音が聞こえた、若干の警戒を後ろに向けると、声をかけられる。
『やっぱり、僕も戦います、守ってもらなくても構わないので』
声を聞き、少しだけ目を向ければ、先程の生徒の一人だった。
『大丈夫だ、一人で何とかなるよ』
気持ちは嬉しかったが、足手まといにしかならないだろう。
『けれど』
なおも生徒は、食い下がる。
私のすぐ後ろまで近付いた生徒にもう少し強く言わないと駄目かなと、私が思っていると。
背中に鋭い痛みが、後ろを見れば生徒の手は血に濡れている。
刺されたと私は理解した、背中にはまだ何かが刺さっている違和感を感じる、おそらく短剣だと思う。
傷は深い、私は膝を付く、見上げると生徒は無表情で私を見下ろし、血で濡れた手を向ける。
生徒の手に魔力が集まるのが分かる。
『なぜ』
私の問いに生徒は答えず、淡々と魔法を構築する。
今の状況が理解できなかった、生徒の目的はなんだ、ただ、止めを指されようしているのだけは分かった。
傷が深く力が入らない、魔力も上手く練ることが出来
ない、どうにもならなかった。
最初の攻撃が魔法だったなら、まだ魔力の気配で気付けたかもしれない、しかし不意打ちの短剣での攻撃では防ぎようが私にはなかった。
また、こんな終わり方か、前世の死に際を思い出す、
あの時と状況は似ていた、無表情ではあるが醜い感じはしないだけあの時よりましかと慰めにもならない事を考える。
けれど、やっと幸せになれると思ったのに、涙が溢れでてくる。
生徒の魔法の構築が終わる、氷の魔法だ、アニーと同じ、それに貫かれる、涙が溢れ落ちる時間もなさそうだ。
死にたくない。
そう強く思った。




