男かよ(泣)
夢を見ている様に意識が曖昧だった。
視界は、黒?赤?形あるものは何もなかった、模様の様に視界が歪むだけ。
ざわざわと音が聞こえてくる。
誰かが私を呼んでいるのか?
声は聞き取れない、そもそも私の名前はなんだっけ
考えがまとまらない、意識が浮かんでは沈んでいく。
だんだんと意識がはっきりしてきた。
やはり声が聞こえる、でも何語だろうか?
日本語でも英語でもない、少なくても私の知る言語ではなかった。
どれくらい時間が経ったろう、私の世界に光がさしこんだ、
見知らぬ顔が見える、鮮やかな紅い髪を長く伸ばした穏やかな表情の女性がいた。
紅い髪、染めているのかな?それにしては自然な色合いだ。
『ロイ 』
いつもする様に女性は私に話しかける。
相変わらず言葉は分からないが【ロイ】と言う言葉は何度も聞いたので覚えた、おそらくは私の名前なんだろう。
もしかしたら おはようとか元気とかそうゆう意味かもしれないが。
なんとなく予想はしていたが目が見える様になって確信した、どうやら私は赤ちゃんになっているみたいだ。
現実とはとても思えないが現状それ以外考えれない。
生まれ変わり、憑依、人体実験、もしくは植物人間になってずっと夢を見ているとか色々と可能性を考える。
どれもこれも馬鹿らしい、まるで漫画や小説見たいな話しだ。
私自身漫画や小説わりと好きだったが、まさか自分の身に起きようとは。
こんな話しを見た事がある様な気がして思い出そうとしたら、頭痛がして上手くいかなかった。
頭痛のせいで私が顔を顰めると、女性が心配そうに話しかけてくる、たぶん大丈夫とかどうしたのという感じの言葉だろう。
『ロイ』
また名を呼ばれる。
ロイなんて男みたいだなと思った。
そうだ
私は思い出す自分が女だった事を、意識ははっきりしたけれどまだまだ記憶は曖昧なままだった。
これからどうなるんだろう、不安が押し寄せてきたがあまり塞ぎこんでも目の前の女性、おそらく母親なのだろうがきっと心配するだろう。
ひとまず、私は母親らしき人に笑顔を見せておいた。
まどろみの中、目蓋を刺激されてそっと目を開けると太陽の光が窓から差し込んできた。
私が生まれ変わってから16年の月日が流れていた。
今世の私の名前は、【ロイ-オーランド】と言う。
あれから日が経つにつれて私は記憶を取り戻していった、一年が経つ頃には前世の記憶をほとんど取り戻す事ができた。
信じられない事だが実際に起きてしまったからには受け入れるしかない。
記憶を取り戻してから数年が経ち周りの状況も掴めてきたころ私はさらに驚く事になる。
驚く事はたくさんあったが重大な事実が2つ分かった。
一つは私が生まれ変わったのはいわゆる物語でいうファンタジー世界であるという事だ。
ある日母親らしき女性がというかやはり母親だったのが、暖炉の牧に手を翳して火をつけているのを目撃した。
何かの見間違いかとも思ったが、それからも魔法使ったとしか見えない場面をなんども見かけたのだ。
それから、成長とともにこの世界の言葉や常識を学ぶにつれそれは、確実なものになった。
この世界は、ファンタジー小説にありがちな世界観によく似ていた。
文明はそこまで発展しておらず、周りの人間や町並みを見る限り、ヨーロッパ風なイメージをうける。
といっても自分自身、ヨーロッパのイメージも曖昧なのでなんななく、それっぽいというだけだが。
それに加えて魔法がある分、所々前世より便利と思える部分もあるという感じだ。
ただ、ファンタジーでありがちなエルフや獣人などの多種多様な人種はなく、地球と変わりはなかった。
しかし、髪や瞳の色は赤や青、金、銀と多彩である。
その理由も魔法にあるらしく、魔力の性質が髪や瞳の色に特徴となって現れるみたいだ、もともとの本人の髪や瞳の色と魔力の色とか混じり合って多彩な色彩を作り出している。
私はというと赤である、生まれた時は少し赤みがかった金髪だったが、成長とともに魔力も強まりいまでは、ほぼ真っ赤である、今世では赤は炎の性質を表していて、真っ赤な髪は強い炎の魔力を持っているという誇るべき特徴であるが、前世の記憶がある私としては恥ずかしいと今でも思ってしまう。
そして、もう一つの驚きだが、ある意味これが一番強烈だった、魔法に比べればしょぼくも見えるが私が事実を受け入れるのに一番時間がかかったのもこれだ。
それが何かというと。
簡単に言うと私は男に生まれ変わっていたのである。
信じられなかった、あれほど嫌いだった男に自分自身がなるなんて。
名前が男みたいだと思っていたら、まさか本当に男だったとは。
男より男らしくありたいとは常々思ってはいたし、現に何度か女の人に好意を寄せられた事もあった。
しかし、それでも女の子と付き合いたいとか、男になりたいと思った事は一度もなかったのに。
自分自身の身体に対する嫌悪感で気づいた当初は絶望感に押しつぶされそうだった。
男なんてのは、醜くて、卑怯で傲慢でそのくせ、いざとなると臆病な最低な生き物だと思っていたからだ。
その最低の生き物に自分がなるなんて耐えられなかった。
もちろん、頭では男も女も色々な人がいて、中にはちゃんとした男もいるし、悪い女もいるだろうとは分かっていた、けれど、過去の記憶が、自分の心が、身体が、それを受け入れる事を許してはくれなかった。
それでも、周りに余計な心配をかけない様大人しくしていようと思ったのだが、そこは中身は大人だか身体は赤ちゃんという事だろう、自分で驚くほど泣いてしまい、盛大に心配をかけてしまった。
大泣きして、大変情けなくもあったが、意外に泣いてみるとスッキリするものがあった、しばらく葛藤もあったが今ではこう思う様になった。
どうせ男になったからには、私が理想とする完璧な男になってやろうと。
現在、私は16歳になり学園に通っている、今は丁度目覚めたとこだ、目覚まし時計なんてものはこの世界にはないから、陽の光がいつも目覚ましのかわりになっている。
わりかしと、私はこの不便さを気に入っている、16年という月日で私の心はこの世界に馴染んできていた。
この世界にはまだ、義務教育というものがない、学園自体少ない、学園に通えるのは貴族や商人などの裕福な家庭な子がほとんどで、平民はよほど優秀で学費が免除されたものがいる程度である。
私が通う学校は、その中でも最高峰の学校でお金はもちろんの事、優秀なものしか入れない、たとえ、どれほど身分が高かろうが能力の低いものは入れない、そして平民の学生も一人もいない、平民が成り上がるという、物語の定番みたいな夢のある話しは今のところない、優秀であろうが、金がなければ入れないのである、第一、裕福な家は学園に入る前からある程度な教育を受けれる、その日暮らしが背一杯の平民では覆せない差があった。
全く、ファンタジーだと言うのに夢のない話しである。
私の家はと言うと、侯爵家であり、なおかつ血筋の中に魔力が高いものが生まれる事が多い名門の家柄である。
私自身、赤い髪が示す通り魔力は一際高い、オーランド家の長男で次期当主という事もあり、学園での知名度も高くなってしまっている。
このまま、もう少し寝ていたいがぼちぼち立ち上がろうか。
私は一度深呼吸をすると布団からでて学園に向かう準備を始めた。
次は明日投稿します♪( ´▽`)




