帰り道
学園長に指示された訓練だがやはり難しく、なかなか上手くいかなかった。
眼前に浮かぶ、炎球が小々波が立つ様に揺らぐ、必死に揺らぎを止めようとするが、一際大きな揺らぎが起きて炎球は霧散する。
ふーと、私は一息つく、まだ維持すら満足にできないが、多少はマシになったとも言える。
学園長はデニスやアリサの指導もあるので、今は近くにいない。
その後も、黙々と訓練をつづけていると日が暮れてきた。
そのため、この日の訓練は終わる事になった。
学園長に、お礼を言うと私達三人は家路に着いた。
『あー、疲れましたね』
帰り道でアリサが口にした。
『確かに、疲れたね、ただ闇雲に訓練するより目的がハッキリしてて、いいな』
私も、アリサに同意しつつ、そう返す。
『そうそう、そうですよね、自分一人だと、これで本当にいいのかなんてとか悩んじゃいますもんね』
そう言って、アリサは笑顔を見せる。
その後は、お互いにどんな訓練をしたか三人で話しながら、家までの道のりを歩いた。
アリサが受けた訓練は、魔力に反応する特殊な粘土を操作するものだった、アリサが借りてきた、粘土を試しに操作させてもらったが、これも、なかなかに難しい、思う様に操作できず、形が歪になってしまう、造形を細かくすればする程難しくなるだろう。
アリサも全然できなかったと嘆いていた。
アリサの訓練は、私と同じ魔力の制御を上げる訓練の様だ、使う魔法の違いからだろう、制御を上げる方法は違うみたいだが。
そのため、デニスも制御を上げる訓練をしたのかと私は思ったが、聞いてみると意外にもそうではなかった。
デニスがした訓練は、基本的な格闘技の形の訓練と学園長との組手だった。
この世界にも一応格闘技の技術と言うものは存在する、主に黒の魔力持ち意外は覚えることはないし、魔法や魔物を相対する事を想定しているため、地球の格闘技とは別物と言える動きではあるが。
デニスももちろん、格闘技の技術はそれなりに持っている、そのため今更と言う思いがあったみたいだが、だいぶダメ出しをされたみたいだ、学園長いわく、基本がなってないと言われたらしく、凹んでいた。
学園長との組手も魔力無しで戦ったとはいえ、まるで相手にされなかったらしい、いかに学園長と言えども格闘でデニスが手も足もでないとは驚きだ。
普通の魔法士なら黒の魔力もち以外、格闘技等覚えもしないのが普通だと言うのに。
アリサもデニスも、自分の力の無さをまた実感した様だ、けれど二人の目には強い輝きが見えた。
そんな二人を見ていると、私の胸も少しだけ熱くなる様なもどかしさを感じる。
こんな気持ちになるのはいつ振りだろうか。
話しを続けていると、私の寮が近くに見えてきた。
『じゃあ、お疲れ様』
私は手を振って二人に別れを告げた。
『はい、お疲れ様です、また明日お会いしましょう』
アリサが笑顔でお辞儀をする。
『お疲れ様です』
デニスもまた、同様にお辞儀をする。
二人に背を向け、歩きだす、日が落ちかけて空が茜色に染まっている、ふと何気なく後ろを振り返ると、夕焼け空の下、二人が楽しそうに笑って歩いているのが見える。
何だかんだ、言って二人は仲が良いんだなと思い、笑いが漏れる。
不意に寂しさが押し寄せて、胸に僅かな痛みを感じた様な気がする。
何だろうかこの気持ちは、自分の感情に疑問を持つ、けれど、気のせいだろうと思い直し前を向いて歩き出した。
そっと自分の気持ちを仕舞い込むように。




