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男嫌いの女が異世界で男に転生して心の傷が癒えてく話し  作者: 6ミリナット


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学園長の指導

学園長からの申し出を受けた翌日の放課後、闘技場に着くとデニスと学園長は先に着いていた。

そして、もう一人アリサの姿が見える。


何故アリサがここに? 私は訝しみながらも三人が待つ場所に近づく。

『お待たせしてすいません』


『うむ、全員そろった様だな、ああ、そうだな、アリサ君も一緒に参加する事になったのだよ』

私が疑問の目を向けていた事に気付いたのか、学園長が説明してくれた。


『そんなんですか、じゃあよろしくね、アリサ』


『あっはい! こちらこそ宜しくお願いします』

アリサが勢いよく頭を下げる。


事情を教えてもらった所、デニスから学園長が指導してくれるという話しを聞いたアリサが、私もと頼み込んだらしい、デニス同様、アリサも前回の魔猿の事件の時に自分の力の無さを実感した様だ。

アリサの魔法の性質上、私達の特訓には参加する事は無かったが、自分なりに訓練を重ねていたらしい。


『まあ、という訳で訓練を始めるとするか』

私が事情を聞き終えると、学園長が口を開いた。


一体どんな訓練が始まるのかと、緊張し息を飲む、他の二人も同様の様だ。


『まずは、走れ』


『えっ!』

予想外の言葉に思わず声が漏れる。

『はしるって、走るんですか』

驚いたのはデニスも同じらしく、よく分からない言葉を返している。


『無論だ、もちろんデニス君は魔力は使うなよ』

学園長は私達の戸惑いを一蹴する。



走った。

現在私達は、学園の外にある森林公園を走っている、闘技場から森林公園に向かい公園を一周して帰ってくるのが、学園長の出した指示だった。


同時にスタートした私達であったが、今はもうバラバラになっている、デニスの後姿は遠く前方に見える、魔力なしでもデニスの体力はなかなかの物だ。

アリサは後ろにいるはずだが姿は見えない、大分離れてしまった様だ。

前世の日本では、トレーニングの基本とも言えた、走り込みだが、こちらの世界では魔法が主体の分、走り込みは軽視されがちだ、全くないわけではないが行う人も少なく距離も短い。


闘技場が見えてくる。

やっとか、と私は思う、前世では走る事も多かったが、今世ではこんなに走ったのは初めてだった。


闘技場にたどり着くと、私はその場に倒れこんだ、地面に寝そべり空を見上げる。


足は痛いし、息は荒れていたが、不思議と爽やかな爽快感があった。


悪くないなと思う、前世の知識で言えば、クールダウンを取るべきなのだが、それも、また今は無粋に思えた、と言うか、動きたくないというのが本音ではあるが。


『お疲れ様です』

頭上から、デニスが私を見下ろしている。

『どうぞ』と、手に持つ水筒を、私に向ける。


『ありがとう』

私は上体を起こして、水筒を受け取り、顔を上に向けると口を開け水筒を掲げるようにして水を落とし飲む。

水が喉を潤すと、体が生き返る様に歓喜する。

口から外れた水が首を伝いシャツを濡らす、その冷たさが、何とも言えず気持ちよかった。

『美味い!』

思わず、喜びの声を上げる、ただの水が今は何より美味しかった。


水を飲みしばらく休憩していると、アリサが遅れて到着した。


アリサが到着して、落ち着くと学園長が私達の前に立つ。

『初日はとしては、こんなもんだろう、しかしこの程度軽々と走れる様になってもらうぞ』


『学園長、失礼ですが、魔術の練習に走る事が関係するのですか』

私は、疑問に思っていた事を尋ねる、横を見れば他の二人も、同じ気持ちなのだろう、伺う様な目を学園長に向ける。


『ふむ、学生の君達には、あまり馴染みはないかもしれないが、軍に入れば、必ず行うのが走り込みだ、もちろん直接は魔法とは関係はない、しかし、体力がなければ移動も遅くなる、戦闘の際も魔法で戦うといっても体力は使う、体力が切れれば魔法の精度も落ちるだろう、学生には必要はないかもしれないが、君達が目指している強さには必要なものだ』


学園長の言葉を聞き、なるほどと私は納得する、言われてみれば、その通りである。


『さて、休憩はできた様だから、次の練習に移ろうか』

学園長の言葉に私は気分が重たくなる、しかし、デニスとアリサの二人を見れば目を輝かせていた。


私も負けてられないか、と自分を叱咤する。


『今からの練習は、別々に行ってもらう』

そう学園長は言うと、各々に、新たな練習を課した


私に課せられた練習は炎の球の維持、操作だった

拳大の炎球を作り出し、その場に留め、それを自在に操作すると言うのだ。


これが、思った以上に難しい、簡単だとは初めから思っていなかったが、予想以上だった。

まず、炎球を維持するのが困難だ、炎球自体は操作しなれていて、楽だと思っていたが、学園長は極力、完全な円球を維持する事を求めてきた、それが難しい、少しでも気を抜けば炎が揺れ円球が乱れる、乱れた箇所を無理矢理に修正しようとすれば、全体が崩れてしまう、円球を保ったまま、操作などできるはずもなかった。


これは、きついな。

デニスとの特訓の様な、派手な辛さはないが、集中力を使う、額に汗が滲んできた。

汗が目に入ると、集中が途切れて炎球が形を崩し唯の炎と化してしまった。


『つかれた』

私は、一息つくと、そう呟いた。


『しんどいか?』

横で見ていた学園長が聞いてきた。


『はい』と私は頷く。


『それだけ、普段雑に魔力を扱っていたという事だな』


学園長の厳しい言葉に私は項垂れる、返す言葉もなかった。


『まあ、学生に求めるレベルを超えてるからな、しかし、君ならできるはずだ、ほら、こんな感じに』

学園長の体の前に水球が浮かぶ、水球は僅かな揺らぎもなく、そこにあった。


『すごい!』私は感嘆の声をあげる。

しかし、驚くのは早かった。


一つから二つ、三つ、どんどん水球の数が増えていく、気づけば、数十個の水球が学園長の周りを囲む様に浮かんでいた。

その水球の群れが、動く、うずを巻く様に回転したり、入り乱れたりと、その間も水球は揺らがず円球を保ち続けている。


幻想的な光景だった、私は息を呑む。


水球の群れが一つに纏まり、大きな水球になる、その水球が、どんどんと小さくなり、学園長の手に収まる。


これは、と私は思う。


『君はこの圧縮魔法で、魔猿を倒したそうだね、学生の身でこれを扱うとは素晴らしい事だ』


『あれは、一か八かでやった事ですから、それに、学園長の魔法と比べられる物じゃありません』

学園長の掌の上にある小石程度まで小さくなった水球を見て私は言う、私が魔猿に放った魔法と同種の魔法ではあるが、圧縮密度は高く、水球には揺らぎはなく完璧に制御されている、それを学園長は軽々と行っている。

『それでも、凄いものだぞ、君が思うよりずっとな』

そう言った後、学園長の掌の上から、水球が霧散した。


私は、また驚き目を見開いた、あれ程の高密度の魔力の塊を、その場で簡単に消してしまえるとは、どれほどの技量だろうか、実力の底が見えないな、と私は学園長の力を思い知らされた。


『驚きました、流石は学園長です、国最高の水魔法士とよばれる訳が分かりましたよ』


『はは、この程度で驚いてくれるな、これ位なら、出来るものは少なからずおるぞ、無論君も出来る様になるだろう』

学園長は快活に笑うと、そう言った。

『この程度ですか、私にもできると』

学園長の言葉に、私は苦笑を漏らす事しかできなかった、この奇跡の様な魔法をこの程度と言うのか。

『そうだ、その為にも、まずは一つの炎球を維持操作出来る様にせい、何、慣れれば苦もなくできる、私も最初は苦戦したものだ』


『分かりました、頑張ります』

学園長の言葉に押されて、やる気が出てきた私は大きな声で返事をした。



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