特訓1
円形の闘技場の中央付近に立つ、正面を見れば、いつかの日の様にデニスが構え、強い視線をこちらに向けている。
先日の出来事を思い出す。
『僕と付き合ってくくれませんか』
デニスの突然の言葉に私は驚き狼狽してしまう。
『な...... 何を言ってるんだ』
辛うじて私は言葉を返す。
『僕は弱い、実習の時ロイ先輩が駆け付けてくれなかったら僕もアリサ達も死んでいました、それが恐ろしい、もっと強くなりたいんです、自分も周りの人間も守れる様に』
絞り出す様な声でデニスが言う、その瞳にはいつもにも増して力強い決意が感じられた。
思わずドキリとしてしまったが、話しが見えない
強くなりたいと、付き合ってください、の繋がりが見えないのだ、その疑問をデニスに問いかける。
『デニスは十分に強いと思うが、それで一体、その、何だ、つ...付き合うと言うのは、どうゆう事なんだ』
同様して、言葉がシドロモドロになってしまった。
『特訓です!』
デニスが力強い声で答える。
『とっくん?』
意味がよく分からない。
『そうです! ロイ先輩どうか僕の特訓に付き合ってもらえませんか、お願いします』
そう言ってデニスは深々と頭を下げた。
『特訓ね、そうか、そう言う事ね......』
なるほど、そりゃそうだよな、男の私に付き合ってなんて、そうゆう意味しかないよな。
って、あの言い方はおかしいだろ!
声にならない悲鳴をあげながら、平静を装いながら
『いいよ』と了承の返事をした。
『ありがとうございます』
デニスが嬉しそうな顔で、お礼を述べる。
何だかな、と思う。
デニスの晴れやかな表情とは逆に私の内心は煮えきれない思いだった。
学園長室に呼び出された翌日の放課後、こうして、私は闘技場に立っている。
闘技場は訓練には、適した環境なので事情を説明して使用する許可をもらえた。
正直気が重い、以前の決闘ではデニスの攻撃を受けずにすんだが、訓練を繰り返せば当たる事もあるだろう、デニスの攻撃が当たる、その事を想像するとゾッとしてくる。
覚悟を決めるしかないか、何とか気力を振り絞ると
『行くぞ! デニス』
私は吠える様に宣言すると、炎を放つ。
『はい!』
デニスの受ける声が聞こえる。
私の炎をデニスが、掻い潜ろうと向かってくる、
いつかの決闘の時と一緒だ。
私も、あの日の様に、あの手この手で、デニスの進行を阻む。
私の炎がデニスを完全に捉えると、デニスは炎に包まれ倒れる、しばらくすると、結界の光がデニスを癒していく。
回復して立ち上がったデニスの顔は驚くべき事に、いささかの怯えもなく戦意に満ち満ちていた。
一体、何が彼をそこまで突き動かすのか私にはわからなかったが、デニスの気持ちに応えてあげたいと、知らず私の心も奮い起つ。
その日は結局、四度デニスが倒れるまで特訓は続いた。
その日の夜、魔力を使い切った私は崩れ落ちる様にベットで眠りについた。
次の日も、その次の日もデニスとの特訓は続いた
特訓開始から三日目、ついにデニスの拳が私を捉える
デニスの拳が届く位置まで近づかせてしまったら、私に防ぐすべはない、反応すらできずに、顔に衝撃が奔る。
私は倒れるが、何とか立ち上がる、足がガクガクと頼りない、馬鹿みたいな威力の拳だ、殴られた頬がとても痛い。
けれど
『ふざけるな!』
私は、正面で私を見据えるデニスを睨みつける。
痛い、とても痛い、けれどデニスの拳が、この程度の筈がない、私がまだ立っていられる、その程度の。
『全力でこい! 俺を侮辱しているのか』
言ってしまった、全力のデニスに拳を受ける、想像するのも恐ろしい、が、手加減された、それが私には許せなかった。
デニスの覚悟を見た、それを見て、私も覚悟を決めたのだ、その覚悟を踏みにじられた様に感じたのだ。
私の怒声に、デニスがたじろぐが、表情を引き締めると『すいません』と私に詫びる。
『分かればいいんだ、さあ来い』
デニスに言い放ち、少し笑う、この状況から私に出来ることはない。
デニスが消えた様に感じた、気が付けば私は倒れていた、そして結界の光が私を包んでいる。
倒されたのか、痛みを感じる暇もなく、痛みを感じる事がなかったのは幸いだったが、デニスに殴られた私がどんな風になったのかは想像したくないものだと思った。
横を見あげれば、自分がどれ程倒されようと気にも止めなかったデニスの顔が歪んでいる様に見える。
だいぶ、ヤバかったみたいだな。
私は立ち上がり、特訓を再開した。
デニスとの特訓をはじめて一週間ほどがたった日の昼休み、私はアニーと一緒に昼食を食べていた。
『最近、デニス君と毎日訓練してるらしいわね、いつの間にか仲良くなったのね』
揶揄う様にアニーが言ってくる。
『そんなんじゃないよ、訓練もしんどいしデニスの奴、加減を知らないからな』
私は苦笑しやんわりと否定する
『そのわりには毎日楽しそうだけど、あなたには珍しく』
アニーはそう言い、ふふふと意味深に笑う。
『気のせいだよ、何がいいたいんだ』
そう言い返すが内心ドキリとする、確かにデニスとの特訓を始めてから久しく感じていなかった充実感を感じる。
『まあでも、疲れ切るまで訓練するのも悪くないのかもしれないな』
『それだけかしらね』
アニーが意味深な笑いをする。
『だから、何が言いたいんだ』
『別に、何もだけど、それで何で二人で訓練する事になったの』
アニーが楽しそうに聞いてくる。
何が、そんなに楽しいのか分からないが、私はデニスと特訓するにあたっての経緯をアニーに説明した。
『付き合ってくくれませんか、って言われたの』
私の説明を聞くとアニーは、ますます楽しそうにはしゃぐ。
『うん、そんな言い方はないと思うよな』
アニーのはしゃぎ様に若干引きながら私は言う。
『うん、普通言わないね、まあ、デニス君だから不思議じゃないけど、それでロイは告白だと思って喜んだのに、違っからガッカリしちゃったのね』
なるほどね、という感じで、勝手にアニーが納得する。
『何で、そうなるんだ、男同士だぞ、そんな訳あるか』
慌てて、私は否定する。
『怪しいなあ、だって、元は女の子でしょロイは』
『昔は昔だ、今は男なんだよ、それに私は男は嫌いだ、ろくな奴がいない』
『デニス君も?』
アニーが、尚も追及してくる。
『デニス...... は、まあ、男にしてはマシなほうだけどな』
否定するのが、だんだん苦しくなってきた。
『ロイが可愛い、恋しちゃったのね、そして私は婚約者を男の子に取られてしまう、悲運な美少女、ああ、なんて事なの』
アニーの暴走が止まらなくってくる。
『いい加減にしろ、そんな訳ないだろ』
うるさいとばかりに、叫ぶ様に私は言う。
『本当に? じゃあ私がデニス君貰っていい、デニス君も私の事好きみたいだし、可愛いし、ひたむきな子だし、私結構好きかもしれない』
アニーが、悪戯っ子の様な笑みを浮かべ話す。
『やめろ!』
と、アニーの言葉に思わず否定の言葉を、強く言ってしまう、しまった、と私が思っていると、案の定アニーが嬉しそうな顔で口を開く。
『やっぱり、好きなんだ』
『そんなんじゃない、遊び半分の気持ちで付き合われたら、デニスが可哀想だ、第一お前は私の婚約者だろ』
『まあ、そうゆう事にしといてあげようかな』
それから尚も、揶揄おうとするアニーから逃げる様にして教室に戻った。
私がデニスを好き、そんなはずがない。
男を好きなるなんて、そんなはずないんだ。
教室に向かいながら、私は自分に言い聞かす様に心の中で、そう唱えていた。
思いとは裏腹に、私の心の動揺は大きかった。




