学園長2
小箱の中にあったのは深紫色の水晶だった。
酷く不気味な水晶である、水晶の色は淀んでいて、まるで生き物の様に蠢いている。
その淀みが今にも水晶から漏れ出てくる様な錯覚に陥る。
間違いなく、この得体の知れない気持ち悪さはここから発せられている。
『これは一体何なんですか』
水晶から学園長に視線を移し、私は問いかける
『うむ』
重々しく学園長は頷くと一息置いて口を開いた。
『これは禁呪を用いて作られた魔道具だ』
『禁呪!』
デニスの声が上擦る。
無理もない、私自信背筋が寒くなってきていた。
禁呪とはその名の通り禁じられた魔法だ、禁じられている理由は禁呪毎に違いはあるが、どれもロクでもない魔法ばかりのはずだ。
禁呪の内容は一般には知らされる事はないので、詳しい内容は分からない。
禁呪は情報自体、機密扱いで一部の人間にしか取り扱う事が許されていないのだ。
そんな物で作られた魔道具が目の前にある、驚かない方がおかしい。
『戦争時代の遺物だ、残されていた物はこれだけだったはすだが、何者かが新しく作り出して使用している可能性がある』
学園長は不快な表情に顔を歪ませる
『戦争時代の遺物...... この魔道具は一体どうゆうものなんですか』
私は説明を求める
『うむ、それを今から話そう』
学園長は頷くと静かに語り出した、その顔には当初の優しげな雰囲気はなく歴戦の魔法士の顔が浮かんで見えていた。
『この魔道具ができたのは、40年前の隣国のイムシアとの戦争の時だ、私自信、未熟な身だが参戦していた、その時に我が国が作り出し使用した物がこの魔道具だ、その効力は単純で、魔力の増幅と肉体の魔素化である』
『魔素化! それは魔物と同じになるということですか』
私は驚き声をあげた。
人間と魔物は魔力を持っているという点では同じだが、大きな違いが一つある、それが肉体の魔素化である。
人間は体の内に秘めた魔力を練り、流し魔力を使うが、魔物はその肉体自体が魔力を持ち変質している、それゆえ魔物の多くは強靭な肉体を持っているのだ。
『ロイ君の言うとおりだ、この魔道具を使えば魔物の様に強い体を手に入れられる、その上、魔力自体も増幅される、その力は平凡な魔導師が宮廷魔導師とわたり合えるほどだ』
恐ろしい話だ、宮廷魔導師と言えば国の優秀な者の集まり、成り立ての宮廷魔導師といえど、並の魔導師10人分程の戦力だと言うのに。
横を見ればデニスもまた私同様、驚き緊張した表情をしている。
『凄いですね、しかしそれだけでは禁呪になりえませんよね』
効果は凄まじい、しかし、それだけなら強力な魔道具と言えど禁呪にはならない、戦時中なら、むしろ積極的に使われるだろう。
禁呪となるには、何か他に理由があるはずだ、その理由にも予想ついてはいたが、私は学園長に説明を求めた。
『ああ、もちろん君達も予想はつくだろう、肉体の魔素化、さらには魔力の増幅、そんな事をして人の体が持つはずがない、多くはその場で死んでしまう、上手く行ったとしても1日もてば良いと言う所だ、更に魔道具を使用した人間は自我を保てなくなり敵味方関係なく暴れ出してしまったのだ』
重く、痛みに堪える様な声で学園長は話す。
当時の状況を思い出しているのかもしれない、話しを聞くだけでも悲惨な状況なのが伝わってくる、実際の状況はどれほどだったのだろうか。
『そんな物、初めから結果は見えてるではないですか、何故使用されてしまったんですか』
デニスが問いかける、その疑問は、私も同様に感じていた。
デニスの問いかけに、学園長は少しの間沈黙すると僅かな怒気を含んだ声で口を開いた。
『ユリウス・デザイ、この名を聞いた事があるだろう』
【ユリウス・デザイ】、学園長が口にしたのは、この国の人間なら誰もが知っているだろう、狂気の天才魔導師の名前だった。




