理由
僕はバイトが終わると急いで着替えて約束のカラオケ屋に向かった。ポケットにプレゼントのキーホルダーを確認して。大好きな美希ちゃんの笑顔を思い浮かべて。
15分ほどしてカラオケ屋に着いた。
しまった。部屋番を聞いていないどうしょう
困ってキョロキョロしてると
うっ、、、
ギュルル〜
ヤバイお腹が痛くなってきた。とりあえずトイレに駆け込む。
ふぅーと一息つくと誰かが喋りながら入ってきた。
この声は本田だ。丁度いい!少し嫌だけど一緒に部屋まで連れて行って貰おう!
大便の方から声を掛けようとした時本田の会話が耳に入る。
本田(美希ってやっぱり凄いよなぁー
清純に見えるが男が何人もいるんだぜ)
男(マジかよ。俺は今まで誰とも付き合った事ないって聞いてたぜ)
本田(何行ってんだよあいつは相当な遊び人だ。俺より酷い。
で面白いのがバイト先の吉田いるだろ!
美希の奴あいつをカモる気らしいぜ)
男(吉田ってあの大人しい吉田君?)
こいつらは何を言ってるんだ?僕は少し混乱してきた。しかし本田が話してるのはおそらくバイト先の棚瀬さんだ24歳のフリーターだけど温厚で頼れる兄貴的な存在の人だ。
僕は音をたてない様に話の続きを聞く。
本田(美希は吉田が自分に惚れてる事知ってるから惚れさせるだけ惚れさせといて最後はボロ雑巾の様に捨てる気だ!
あいつはモテナイ君をいたぶるのが趣味だとよ!
棚瀬(マジかよ。吉田可哀想じゃん)
本田(世の中騙される奴が悪いんだよ!
今日だって美希と賭けをしてるんだぜ!
吉田が来るか、来ないか、、、
美希は絶対来ると言ってたよ。吉田さんバカだからって。)
棚瀬(悪いけど俺美希の見方変わるわぁー)
本田(あいつはお金大好き女だからな本命の彼氏は赤のF40にのってんだ。たまにバイト先まで送って貰ってるよ)
二人はトイレを出て行った。
確かに僕はこの前見たよ。スポーツカーに乗った美希ちゃんを。
やっぱりあれは美希ちゃんだったんだ。
僕はしばらく動けなかった。
何分くらい過ぎたのだろうか。家に帰ろうとトイレから出た時、フッとさっきの会話が脳裏をよぎる。僕が帰ったら美希ちゃんが掛けに負けてしまう。顔だけ出して帰ろう。
優しさではなく確かめたいと思ったんだ。
本田の話が本当なのか。
トイレを出てフラフラしてると
女(あーいたー吉田さん何してるのこっちだってば)
美希ちゃんだ。美希ちゃんは僕の手を握りグイグイ引っ張っていく。
さっきの話がなければ僕は美希ちゃんの手の温もりで壊れていただろう。正直本田の話は半信半疑だ。少し希望が見えてきた。
美希ちゃんに連れられで部屋に入る。
美希(みんなー吉田さん来たよー)
部屋の中には男女合わせて8人いる。
バイト先の人もいれば全然知らない人もいる
ただ次の瞬間、僕は凍りつく。
美希は本田の方を見て。
美希(本田さん私の勝ちね!)
と小声で囁く本田はシラけた顔をしてそっぽを向く。
横にいる棚瀬さんはあたまを抱えて首を横に振る。
いつもの僕なら気にしないがあの会話を聞いていた僕には十分過ぎる反応だ。
僕はなんとか笑顔を作り。
ゴメンね実は急用が出来ちゃって帰らないといけないんだ!
スッと美希は手を離し
美希(残念だね。また今度ゆっくり来てね!)
とあっさり承諾した。
僕は心が壊れる音を聴いた。
飛び出す様にカラオケ屋を出て歩いた。
堪えていた涙が止まらない。
雨が降り出してきた。
空も泣いていた。