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覚醒 7~9

(7)

「先生、またデクがお漏らししました!」

「くっさ~!」

 教室は爆笑の渦に包まれた。僕は薄ら笑いを浮かべながら、教室

をぐるっと見渡す。笑っている顔、顔、顔。目に涙を浮かべて大口

を開けてる奴。普段から細い眼がさらに細くなって糸みたいになっ

てる奴。ここぞとばかりに憂さ晴らしに大声で喚いている奴。


 でも、一人だけ悲しそうな目で僕の方を見ている奴がいる。ああ、

またあいつだ。あいつの名前は確か…いや、嘘だ、嘘だ。今僕は確

か、なんて言葉を使ってあまり興味がなさそうな振りをしたけど、

あいつの名前はこの頃いつだって僕の脳裏に焼き付いて離れないん

だ。

 あいつの名前はアルファさん。十歳の女の子。学術的に言うなれ

ば、ホモサピエンスの幼体フィメールだ。あいつは僕を見る時、い

つだって悲しそうな目をしてる。


 僕は初め、僕がみんなにされる仕打ちが、あいつに過去の嫌な出

来事を思い出させるか何かで、悲しそうな顔をしてるんだとばかり

思ってた。つまりさ、あいつもみんなにこういう仕打ちをされたコ

トがあってさ、まぁ、今の僕程じゃないにしてもね。そう、例えば、

カワイイと思っていい気になってるんじゃないの? って言われて

さ、おでこを突かれたり、上履きを隠されたりって類のコトだけど。


 あ、そうそう、こいつは言っておかなくっちゃ。あいつはとても

カワイイんだ。僕は自分が醜い分、美しいものやキレイな物が大好

きで、審美眼だってある方だと思う。そんな僕が、女の子で美しい

だのカワイイだのって思えたのはあいつが初めてだった。ま、それ

位のカワイイ子だからさ、同性の嫉妬なんて問題もある訳。


 そもそも同性の嫉妬位タチの悪いものはないよ。これは僕の経験

上から言えるだけじゃなく、古からの本能に根ざした当たり前の現

象なんだよね。


(8)

 つまりさ、人は社会的動物で、群れを作って生きてきた。群れを

作るというのは、その中で順列を作るというコトなんだよ。簡単に

言うとね、どっちが上か、というコトなんだよね。マウンティング

とでも言うのかな。当然、男女間には差があるから、同性同士の比

較がよりシビアになるよ。本能的にも異性に対しては寛大になる設

計図が書かれているから、同性に対して厳しくなるのは当然なのさ。

厳しいというのは、より感情的になるというコト。だから同姓間の

嫉妬はタチが悪いのが当然と言えば当然なのさ。


 そんなこんなで、とってもカワイくて美しいあいつが、それが理

由で同性の嫉妬心を刺激していじめられる。そんなかつて受けた仕

打ちを、僕を見るコトによって思い出してるんじゃないかなって思

ったんだな。


 でも、それは違うらしいのが、だんだん分ってきたんだ。第一、

あいつはみんなのリーダー的存在だから、他の奴から何かをされる

コトも無いし、前に何かをされた様子も無い。嫉妬の件だって、美

しいのも桁外れに違うと、嫉妬は憧れに変わるものらしい。そうそ

う、人間は自分に似たものを嫌うって言うし、自分の手の届く、

或いは頑張れば手の届きそうなものが嫉妬の範疇で、それを超える

と嫉妬は他の何かに形を変えるようなんだな。


 それじゃ、単にみんなが言ってる【残酷】なコトが嫌いなのかな

とも思ったけれど、これは本人が違うって言ってたから違うんだ。

勿論、あいつから僕が直接聞いた訳じゃないんだけどさ。女の子達

が映画の話をしていたのを立ち聞きしたんだ。


「私、ラブストーリーよりも冒険活劇やホラー、スプラッターの方

が好きだな」

 吊上がった目を更に吊り上げながら言うシーさんの言葉に、これ

もサドっ気たっぷりのディーさんが答えた。

「あ、私も私も! でもアルファさんはラブストーリーの方が好き

なタイプでしょ?」


(9)

 二人の話を微笑みながら聞いていたあいつは、首を横に振りなが

「ううん、そんなこと無い。私もホラーやスプラッターなんかの方

が好きよ。だって面白いもの」

「へえー、意外なんだ。私、アルファさんのことだから、残酷なこ

となんか大嫌いで、だからデクのことも…」

 シーさんがまだ言い終わらないうちに、あいつは勢い込んで答え

た。

「違う! 私だって人並みに残酷さは持ち合わせているもの!」


 ここまで聞いた処で、僕が聞き耳を立てているのをディーさんに

咎められ、シーさんと共にお仕置きをされたことがあったんだ。そ

う言えば、あの時もあいつは手を出すようなコトは無く、ただ悲し

そうな目で僕を見ていたっけ。

 そんな思いを巡らせながら教室を見回してる僕に、先生が言った。

「おい、オマエ、早くトイレに行って自分で始末をして来い! こ

のままじゃ臭くって授業になりゃしない。それからな、こんな時に

も薄笑いを浮かべるお前のその態度、何とかならんか? あ?」


 僕は先生の為にも薄笑いを浮かべるのをやめようと思ったけれど、

長年身についてしまっているものはどうしようもない。

 床を汚さないようにゆっくりと立ち上がり、ソロソロと歩いてい

く僕を、順番にパンチしていくクラスメイト達。

「ったく、このデクはお約束通りの愉快なヤツよのぉ!」

「ホント、ホント! オラッ!」

 ジー君の横を通った時、キックされた僕は、ヨロッときて、あい

つの席の前で転びそうになった。あいつ、アルファさんは、それを

見て反射的に僕を突き飛ばそうとするみたいに見えた。


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