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覚醒 40~42

今回にて終了です!

(40)

[なあ、D-9、今日お前は自分の部屋に帰らないようにな。明日ま

でこの特別室で待機だ。それから、明日は授業に出席しなくてもい

いから。あ、何も言わなくていいんだ。とにかく言われた通りにし

なさい」


 大きい父さんの言葉に僕は

「あの、僕を呼ぶ時にはデク、と呼んで下さい。D-9だなんて人

間じゃないようでおかしいや」

「ああ、そうだったね。お前はデクっていう名前だったな。これは

失礼した。それではデク君、今日、君はこの部屋でおとなしくして

いる様にね。分ったね?」


 僕は抗議をしようと思ったけど、それはやめて素直にハイ、と返

事をしたんだ。だって、これから僕には早急にやらなくっちゃなら

ない重大な用件が有るんだからね。僕はそう決めたんだ。


 それにしてもさっき父さん達が話していたのは何だったんだろう?

僕には何の事かよく分らないけど、ただひとつハッキリしているの

は、あいつの事を父さん達が話していたという事実だ。やっぱり父

さん達には気づかれてしまったようだ。多分この僕にあいつを矯正

する力が無いから、他の奴にさせるつもりなんだろう。ちぇっ、そ

うはさせないぞ! 僕の決心はもっと強くなる。


 僕は見るからにみんなとは違う惨めな人間だから、その惨めなこ

の僕にも出来るお勤めがあるならばと、精一杯、与えられたお勤め

をやってきたつもりだった。人が嫌がる事をやる事が、僕の存在理

由だと思ってた。


 そうする事で他のみんなが喜んでくれれば、それが僕の喜びに繋

がるって信じているところもあったんだよ。でもね、今は…何と言

えばいいんだろう?


(41)

 そう、僕が良く考える事にこんなのがあった。それはみんなに囲

まれてお仕置きをされてる最中だとか、校長先生の相手を強要され

てる時間なんかによく考えてた事なんだけどね、それは『ゴキブリ

は何の為に存在しているのか?』って事だった。


 そりゃ、殺虫剤会社の為さって、笑ってる人も居るかも知れない

けど、僕が欲しいのはそんな座布団一枚どうぞ的な答えじゃなくっ

てさ、何ていうか、心に響くっていうのかな?そんな答えだったん

だ。


 ゴキブリってのはさ、色んな種の絶滅が当然とされてる今の時代

に、カラスと共にこの種だけは大増殖で、みんなに嫌われて、何も

しなくてもその姿を現しただけで大声で騒がれたり、叩き潰された

りするよね?

 確かにゴキブリは病原菌を運んだり、食器棚の中に糞ふんをした

りでキレイとは言えないよ。おまけに暗闇の中でも活発に活動する

しね。

 でも、それはゴキブリが望んでそうしてる訳じゃなくて、そうい

う存在に生まれついているからなんだよね。


 だからと言ってゴキブリにどんな存在理由があるのかって考えた

時に、僕はその答えを見つけられずにいたんだ。人に迷惑をかける

だけの、居るだけで毛嫌いされるだけの存在なら、いっそのこと無

くなってしまえばいいって思えてたしね。


 でも、今の僕にはそうは思えない。今日の僕は頭が冴えに冴えて、

今まで考えられなかった様な想いが、次から次へと湧き出てくる感

じがしてるんだ。この感じは頭がショートしたと感じたあの時から

ずっと続いているんだけどさ。


 で、その答えなんだけどね。


 『ゴキブリの存在理由は、そこにゴキブリが存在しているから』

っていう事に気づいたんだよ。

 つまりさ、何かの為になるとか、役に立つとかってのは、人間様

の勝手な理由であって、ゴキブリには何の関係も無いってことにね。


(42)

 ほら、大切に保護されてみんなに愛されてる一輪の花。これだっ

てゴキブリだって、ううん、カラスだって同じ存在なんだってね。

もうひとつ言うなれば、このデクの僕でさえもってね。

 さっきから何を言ってるのか分んないって? いいんだ。誰に分

ってもらえなくてもいいんだ。

 これが僕の中では充分響いてる答えなんだから。


 だから僕はこれからここを抜け出して、あいつの家に向かう事に

決めたんだ。今までは決して父さん達の言葉に逆らったことは無か

った。今までの僕だったら、父さんの言葉通りにこの部屋でおとな

しく、じっとしていたことだろう。

 でも、今の僕は違う! この僕にとって何が一番大切で、何がそ

うでないかっていう事に気づいたんだからね。このまま嘆き悲しん

でるだけじゃダメだってね!


 今朝、自分の部屋で見たカレンダーの言葉、『愛は与える程に中

身を増す』ってのは事実かもしれない。そう考えながら僕は特別室

の窓をそっと開けて外へと足を踏み出した。


 外はもうすでに真っ暗だ。空を見上げると星が微かに瞬いている。

今日はずっとどんよりとした一日だったのに、今はお天気になった

んだなと、僕は思った。


 それからあいつの家を目指して僕は走り出した。耳元で風を切る

音がゴーゴーと鳴ってる。その中にブーンブーンという音を聞いた

気がした僕は、あれ? って思った。 待てよ?


 さっき僕は、僕にとって一番大切なことは? って思った。その

為には他の事はいいやって思った。自分の大切なものの為にはって。

 僕にとって? 僕にとって一番大切なこと。立場が違えば一番大

切なことも違う。


 あっ!これは『最後に愛は勝つ!』っていう常套文句の、愛同士

の戦いに似てるよ。どっちが勝っても愛が勝つんだ!


 そうか! 要は自分の意思にかかっているのか! 自分の意思が

すべての基準なんだ!


 そう考えた瞬間、僕の脳裏に一つの映像が流れ始めた。あの、緑

の草原で白い椅子に座っていた僕と、白い羽を広げていたもう一人

の僕が、重なり合って一人の僕になったんだ。

 一人になった僕は、目も眩まんばかりの白い光に包まれてる!


 僕はこの時、薄笑いではない微笑を浮かべてた。そう、断じて薄

笑いなんかではないね。そのうち、心の底からの笑いが込み上げて

きて、僕は声に出して大声で笑った。思いっきり走りながら、思い

っきり大声で。


 人通りの少ない夜の道を、僕の笑い声がどこまでもどこまでも響

いていっていち早くあいつの耳にまで届いたらいいのになと、僕は

走りながらそう考えていた。


                  天使のいる風景 D-9編 終


天使のいる風景 D-9編 これにて終了です。アルファ編と続きはあるんですが、掲載はまだ考えていません。最後まで読んでくださった奇特な方、ありがとうございました。面白味の少ない作品ですが、心を込めて書いたつもりです。それではまた短編で会いましょう!

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