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覚醒34~36

(34)

 つまりさ、これに気づいてしまったからには、デクであるこの僕

は、あいつを処置しなければならないってね。小学五年生にもなっ

てこんなザマじゃしょうが無いってね。

 でも、それをしてしまうと、僕の愛するあいつは存在しなくなっ

てしまうんだ。多分僕は心の奥底ではずっとこれを恐れていたんだ。

だからこの僕は…


 目から涙を流しながらも、僕はいつもの習慣通り、教室に戻って

行く。放課後のご奉公が待っているからだ。

 教室ではいつもよりも少な目の七、八人が僕を待っていた。この

時ばかりはいつまでもこの時間が続けばいいなと思う僕だった。も

っともっとキツく叩いておくれ。もっと激しくいじめておくれ。そ

う、もっとだ!出来るなら、出来る事なら、いっそのことヒトオモ

イニ… 


 いつもより過敏な反応の僕に、クラスのみんなは大満足の様子み

たいだ。


 そうして白昼夢のような時間が過ぎて行き、次に意識がハッキリ

した時には、僕は教室に一人、転がってた。ああ、僕はまだ存在し

てる。デクであるこの僕は。


 寝っ転がりながら考えた。死ぬより、というコトについて。僕は

死ぬなんてことはちっとも怖くは無い。死の恐怖なんてものは注射

の順番待ちの時と同じさ。

 ほら、集団で予防注射を受ける時に順番に並ぶだろ? 注射をさ

れてる子を見てさ、ああ、痛いだろうな、怖いなって思ってる時の

方が嫌なもんで、いざ注射を受ける段になると、なんだ大したこと

ないじゃんって思えるものなんだ。それと大差ないことなんだよ。


 それにね、生まれる前は怖くは無いんだから、死んだ後だってき

っと怖くは無いさ。ね? 僕は死んだことは無いけど、死っていう

のはその程度のことだと思ってる。そんな僕だからこそかもしれな

いけど、今の僕は死ぬほどつらいって感じてる。


(35)

 立ち上がって涙を流しながら教室の後片付けをしても、あいつの

事に気づいてしまった僕は、もう後戻りが出来ない立場にあるんだ。

みんなの満足そうな笑顔を想像しても、自分の存在意義を思い返し

てみても、一旦あいつの事に気づいてしまった僕のこの悲しみを打

ち消すことはもう出来ないんだ。出来ないんだ。出来ない? 本当

に?


 僕は教室を出てから自分の部屋に向かう。職員室の横の、特別室

のそのまた横、そこにずらっと並んでいる長屋状のひとつの部屋に

ね。僕の部屋は九号室。


 そこで僕は着替えを済ませ、それから特別室に報告に行くんだ。

給食の時とは違って割り当て時間が決まっているので、他の奴と顔

を合せなくて済むのは有難いんだけれど、今となってはそれが何だ

っていうんだ?


 時間に合う様自分の部屋を出る時、部屋の中が何となく気に掛か

るのは、壁にかかってるカレンダーのせいだと気づいた。あの言葉

が載っているから。

【愛は与える程に中身を増す】っていう言葉がね。


 僕はまた考える。もしも、そう、もしもだよ? 愛を与えて、そ

れでも愛を与え続けたら、中身はどんなになっちゃうんだろう? 

与える方も与えられた方も、その重みに耐え切れなくなって崩れ落

ちちゃうかもしれない。愛ゆえに憎み、愛の名の下に破滅へと向か

う。それが人間なんじゃないだろうか? 罪深いとされる人間の本

性がそれなんじゃないだろうか? でも…


 でも、もしかしたら、大地に降り注ぐ優しい雨のように、穏やか

に包み込む春の日差しのように、神の領域にまでたどり着くことが

出来たら…? それはただの理想なんだろうか? じゃ、この僕は

どうなんだ? 僕の愛はその領域にまでたどり着けるのだろうか?

それとも?


 特別室のドアをノックしてから、僕はゆっくりと部屋に入った。


「ああ、D-9、お前、また給食の時間に来なかったな。ダメじゃ

ないか。まあいい。じゃ、早速そっちのベッドに横になってくれ」


(36)

 父さんの一人が、こう言って僕を横にさせた。僕はあいつの事が

どうぞバレませんようにと願っていたけれど、多分それは儚い望み

なのだろう。


「じゃ、いいかい? いつもの様にデータ測定を開始するから、暫

しの間サヨナラだ」

 父さんの一人がそう言いながら僕に手を伸ばし、再び彼が僕に手

を伸ばすまでの間、僕は現世との縁が切れる。


 ハッと気づいたのはいつも通りのベッドの上だったけど、周りの

雰囲気がいつもとは違っていることに僕は気がついてた。だから僕

はまだ意識が戻らないフリをして、父さん達の話を聞いていたんだ

よ。


「チーフ、D-9なんですが、ちょっとおかしいんです。このデー

タを見てください」

「ん? D-9っていうと五年四組の専用機だったな。ああ、それ

と一年四組のレクチャーにも使用されてる改良型レプリボーグ2か」

「はい、そうなんですが、少しばかりおかしなことが起こってるん

です。ほら、ここなんですが、データでは思考回路が増殖してる形

が出ているんです。このタイプでは、思考回路が自己増殖するって

ことは無いんですよね?」


 父さんの一人が不思議そうな声でそう言ってるのが聞こえる。


「ああ、そうだよ、この改良型タイプには、自分は惨めな人間だと

いうインプットがされてて、後は外界からいじめられると、いじめ

た相手の気分がスッキリするような反応をするシステムが組まれて

るんだ。そういうコンセプトのもと、五年四組の生徒達をはじめ、

それに付随する相手の様々なストレスの因子もインプットしてある。

それをわざと刺激するシステムもね。それから、何の抵抗も無くレ

プリボーグに対してストレスを発散するよう指導教育するシステム

も標準装備だ。まあ、それに反応する以外は、思考回路が自己増殖

するなど考えられないがね」

 大きな父さんがそう、答えているのも聞こえた。

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