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覚醒 31~33

(31)

 教室の前では、彼らの担任の若い女の先生が、心配顔で佇んでい

た。多分、僕のお勤めが終わるのを待っていたに違いない。すれ違

いざま、僕のわき腹を手にしていたレーザーペンで思いっきり刺し

たのも、彼女にしてみたら当然の行為だったのかもしれない。


 僕は薄笑いの顔のまま、この先生に会釈をしてその場を立ち去る。

でも、この時の僕は目から涙を流していたんだよ。

 僕が涙を流しているのは、刺されたわき腹が痛かったからじゃな

い。僕のお勤めがつらかったから? それも少しはあるけど、それ

ばかりじゃない。本当の原因は、僕が気づいてしまったからなんだ。

そうなんだ、僕はついに気づいてしまったんだよ。


 さっき、一年生達に僕のお勤めを果たしている最中、僕は彼らの

中にあいつを見てた。二十人の一年生の中に、少なくても十二人の

あいつが居て、その二十四のつぶらな瞳で、この僕を受け止めてい

てくれた。先月、先々月と、この僕にあれほどのひどい仕打ちを受

けていながら、なおこの僕を…


 きっと最近の幼児教育界では、反動もあって、建前教育が徹底さ

れていたのだろう。世の中に不正がはびこると、建前の正義感が強

調されやすいものだからね。彼らにとっては、先生の仰る事は絶対

で間違いが無い事。だからこの世の中には根っからの悪人なんて一

人も居やしない。居るのは善人と、そう、もし万が一悪い人と呼ぶ

べき者が居たとしても、それは童話の世界に居るようなちょっぴり

乱暴な、でもすぐに反省する愛すべき意地悪さんだけなのだろう。


 もしも目の前に自分の信じているものと違ったものが現われても、

彼らはその中から自分の信じられる部分を取り出し、やっぱりいい

ヒトに変えてしまうに違いない。


(32)

 今の彼らは、まだ天使の魂を持つ汚れなき存在だ。全国から集め

られてきた、天使の魂を持つ創られた天才達。

 でも、だからと言って、このまま彼らが大きくなったらどうなる

っていうんだ? そう、どうにもなりゃしない。そんなコトは言わ

ずもがなだ。最後に愛は勝つって教えられた彼らは、しょせん戦う

のは愛同士だってコトにはまだ気づいていないんだからね。


 だから、

【君達の為なんだ。ほら、このパンチだって、今流れている君の鼻

血だって、君の将来を思えばこそなんだよ。そっちの君、ちょっと

おいで、この手の中のキャンディをあげるから。そう言って握った

コブシで君をぶったのも、謝るふりしてまた脅かしたのも、一番の

仲良しさん同士に殴り合いさせたのも、みんなみんな、君達の為を

思えばこそなんだよ…】


 口には決して出さないけど、心の中で叫びながら、僕はお勤めを

果たし続けたんだった。


 そうして時間が経つにつれて、あいつはひとり、ふたりと減って

いった。この分なら残り後九回、全十二回中には、あいつは一人残

らず居なくなるに違いない。そう思った途端に僕は気づいたんだ。


 この僕の、一番のお勤めはあいつをなくす事だ! なのに、この

僕はあいつが消えていく事に戸惑いを覚え始めてる?

 この時、僕の頭の中で何かがショートする感覚がして、今までの

モヤモヤが一斉に吹き飛んだような、そう、台風一過の後の青空と

いった気分が、体の中をかけ抜けていったんだよ。


 つまりさ、今までのこの僕の疑問を一斉に解決する答え、それを

ついに見つけたんだ!

 イコール、あいつは不適格者で、この僕はそんなあいつに好意を

寄せてる。そういう、この答えをね。このデクのこの僕が? 笑っ

ちゃうだろ? そう、このデクのこの僕がだ!

 要するに僕は不適格者なあいつが好きなんだ!


(33)

 今までは単にあいつ、アルファさんの姿かたちに魅かれてるんだ

と、ぼんやり考えないでもなかった。こんなに醜い僕だからこそ、

ってね。美しい人に魅かれるのは当然の事だよ。


 そもそも、なんで美人やカッコいい人がモテるのか考えた事があ

るかい?

 それはね、生物学的に言って、簡単に説明がつくことなのさ。

 人でも動物でも、遺伝子の中には優秀な相手を取り込みたいとい

う、書き込みがされてるんだよ。その優秀とされるのが美の基本な

のさ。時代、文化によって多少の違いはあれど、基本的には異性愛

って奴は、すべてこの遺伝子を含む本能が命令を与えることによっ

て生まれるんだ。

 目が大きくて色が白く、ウエストも細くて手足がすらりと長い。

運動能力も高くて優しい。体が大きく、力もある。こんな人がモテ

るのも、ちゃんとした理由があるんだよ。

 ほら、漫画やアニメのヒーロー、ヒロインがみな似通ってるのも、

本能を刺激する信号としての部分を強調するからで、アニメや漫画

の主人公が好きな人は、生物学的に見れば、刺激に反応しやすい人

だということが出来るだろう。

 まるでルアー、疑似餌に飛びつく魚のようにさ。


 でもね、この僕にしてみれば、フィメールとしてのアルファさん

に魅かれても、その先は何の意味も持たない不毛の地だってコトも

イヤって言う程知っているから、そんな考えを真っ向から否定して

いたんだよ。

 でも、答えはそんなとこじゃなく、もっと心理的な場所、精神的

な場所にあったんだ。


 この僕は、心優しい、相手の事を思いやることの出来る、人を信

じる事の出来る、素直でおまけにカワイイアルファさんを愛してい

たんだってね。そんな存在を抹殺しようという立場のこの僕ではあ

るけれどもって。


 ここまで考えた時に僕は胸を突かれる思いがした。今までの青空

は、たちまち真っ黒い雨雲に覆われ、今にも嵐が来そうな予感がし

た。


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