54日目
第1話で公平って書いていたのに公一になってました。面倒なので公一で行きます。主人公の名前覚えていないとかダメですね。
ちょっと出の脇役キャラにも名前つけたほうがいいんでしょうか・・・?
プルル プルル プルル
繰り返し鳴っている電子音で公一は目を覚ました。
手探りで枕もとの携帯端末を手にとったが、マナーモードにしていた事に気づき体を起こす。
見ると、部屋の机に置いてある据え置き型の電話が鳴っていた。今の時代でもホテルの電話には液晶1つないんだなと考えながら受話器を取る。
<フロントです。河野様、理研様より外線のお電話が入っております。>
「わかりました。つないで下さい。」
どうせろくでもない電話だと覚悟しながら、深呼吸をする。
「!!!!!」
つながった瞬間、言葉にならない怒声が公一の耳元でさく裂した。
「はい。すいません」「申し訳ありません」と受話器から耳を離しながら返事をしつつ、横目で携帯端末を見ると、センター長からの数十回の着信履歴が表示されていた。
センター長から昨日一晩連絡がつかなかった事を散々責められ、本題が切り出されるまでに10分以上がたった。
「まったく、今まで寝ていたとは良い身分だね君は。ご家族が大変な目にあっているというのに。」
「家族が?」
初耳であったし、公一の両親は騒動後に散々公一を責めた後は、一切連絡に出ようとせず、公一自身も疲弊していて、関係修復を急ぐ気になれず放置していた。
「そうだ、とうとう家を引き払ったそうだ。また父君は仕事をやめられたそうだ。親不孝ものだな君は」
「そんな情報がどこから・・・センター長のところへ電話があったのですか?」
何が楽しいのか嬉しそうにセンター長は続ける
「はは、君の家族に構える程私は暇ではないが、職員が教えてくれてね。ネットの掲示板とやらで君の家族の事を調べまわる輩もいるようだな。底辺の集まりと思っていたが、探偵紛いの輩もいるようだな。」
暇ではないといいつつ、そういう情報をわざわざ仕入れるセンター長にうんざりしながら、公一はネットの匿名掲示板を思い出していた。
何度か科学系の掲示板で意見を述べた事もある公一は、センター長程の偏見はもっていないが、祭りと称する悪意の暴走を間近で見たこともあるのでその材料に自分の身内がなっている状況にやりきれない思いを抱いた。
「どうだ、ご両親を安心させる為にも君の研究ノートをすべて提出して検証チームに協力したまえ。そうすれば悪いようにはしない。せめてもの親孝行だと思わないか?」
先ほどのまでとはうってかわり、優しげな声で語り掛けてくるセンター長だが、公一はその隠しようがない本音が透けて見え、両親を持ち出すその方法を苦々しく思った。
「何度もお伝えしている通り、調査には全面協力します。ただ、研究ノートは大量にあり、まとまりきっていません。それよりも私を再現実験の検証チームに加えて下さい。必ず実験は成功します。成功せずともその時は責任を取ります。公開実験をすれば終わる話じゃないですか、何故、当事者の私が聞き取りもされず、参加できないのですか?」
センター長を筆頭に理研の調査委員会はしきりに研究ノートの提出を迫っていた。公一としては、再現実験を1度行えば解ける誤解と思っているがなぜか再現実験はせず、あくまで研究ノートを調査することに拘っていた。
「君もしつこいね。再現実験は研究ノートを調査し、実験をするに値すると判断されてからの話だ。よく考えたまえ、今ならまだ穏便におさめられる可能性もあるが、時間がたつにつれそれも難しくなる。残された時間はそうないぞ。」
もう一度よく考えろとセンター長は言い電話が切られた。
「もう・・・ノートを出すしかないのか・・・」
公一自身は再現実験を1度で成功させる自信があるが、理研は頑としてそれを認めないのである。研究ノートは自宅の金庫に隠してあり出そうとすればいつでも出せる状態ではあるのだ。まとまっていないというのは言い訳だった。
公一は、どうしたら良いかわからぬまま、端末の前に座り、センター長のいった掲示板にアクセスしてみた。
スレッドと呼ばれる一覧を見ると探すまでもなく、話題は公一の事でもちきりだった。
一番アクセスの多い掲示板を読んでみると、確かに父が退職においこまれたことや、実家から親戚のうちに夜逃げ同然で両親が逃げたことも書いてあった。ご親切に地図とともに公一の実家まで写真を撮りに行った人間もいるようだ。
俺が一体何をした、100歩譲って俺が犯罪者だとしても俺を俺の家族を貶める権利がお前たちにあるのか・・・。
真実を知りもせず、ただメディアが発表した事を鵜呑みにしてそれを免罪符にバッシングをする世間、世の中に怒りが沸き起こる。
「今の時代に、こんな古臭い掲示板でもこんなに人が集まってくるんだな・・・昔は誰もが掲示板で連絡をとって・・・掲示板?」
仮想空間を構築できるようになった今でも、変わりなくこうしたものが存在する。個人情報保護を理由に削除依頼を出すか迷っていた公一の脳裏にふと引っかかるものがあった。
「そうだ!掲示板だ!」
学生時代、束縛されることを嫌って携帯端末をもたないポリシーが公一達の流行りであったが、皆に連絡を回すのが面倒な上に連絡の不首尾を指摘されて切れた当時のゼミリーダーがプライベートのアカウントで連絡掲示板を作った。
そこで、以後ゼミ生への連絡は全てそこで通知し、通知された以上は見落としていても自己責任だと宣言された。しまいには教授も便利がって課題やらなにやらをそこで通知する始末であった。
協調性のない学生時代の公一達が集まった場所といえばそこしかない。
「あの掲示板だ、間違いない!」
公一は絶対の確信を得ていたが、次の瞬間とんでもないことに気づく。
「アクセス方法・・・覚えていないぞ・・・」
そう、情報管理にうるさかった佐倉が検索システムにひっかからないようにプログラムを組んで、掲示板を現実に知っている人間しかアクセス出来ないよう細工していたことも思い出した。
簡単にいうと意味のない文字列を入力して検索し、さらにそこから学籍番号を入力するというシステムだった。
文字列を覚えるのが面倒だった当時の公一は財布にメモ用紙を入れていたが当時の財布はとうの昔に捨ててしまっている。
「まずい・・・・」
あわてて携帯端末のデータベースを探してみるが、学籍番号は理研につとめる際に卒業証明を得るために調べなおした時のものがあったが、当時の掲示板の検索文字列などわざわざ残していなかった・・・