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見届け人  作者: もやし
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53日目②

「世界に種を撒きたくないか?」


そう言った佐倉の顔は冗談を言ってるようには見えなかった。


「今の俺に何が出来るっていうんだ・・・」


公一はそう答えるのが精一杯だった。


世界に自分の研究を認めてもらいたい、研究者なら誰しもが持つ夢だ。

だから自分は、寝食を惜しんで研究し、論文を発表したのだ。


しかし、世界の全てがを自分を嘘つきと呼んでいる今。この状況を覆す術など何も思いつかなった。


「時間だ・・・」


これまで直立不動で控えていた看守がそう告げた。

佐倉は、席をたちながら公一に話しかけた。


「今日はなかなか楽しい時間だったよ。ありがとう河野。そうだ、先生はお元気か?」

「・・・何を言って?」


怪訝な表情を浮かべ、話そうとした公一を遮り佐倉は続けた。


「学生時代のように、皆が毎日集まって夜通し語りあったあの場所で、先生の口癖が聞きたいものだ。会うことがあれば皆によろしく伝えてくれ。」


背中越しにそう言って佐倉は扉の向こうに消え、公一1人が残された。

公一は険しい顔のまま、部屋を出て、面会終了の手続きをし刑務所を後にした。


適当なところでタクシーをつかまえ、ホテルに戻るその車中。公一は先ほどの会話を思い出す。一緒にいた看守はただの挨拶に思っただろう。しかし実際は違う。


「・・・先生は死んだじゃないか俺たちが卒業した年に」


そう、公一と佐倉の恩師は、公一達が卒業したその年の夏にアフリカで死んだ。交通事故だった。我儘でデタラメな行動力と生命力。公一達は振り回されてばかりであったが、どこか憎めない性格で人が自然と集まる、そういう人だった。


佐倉はそんな教授のお気に入りで、いつも渋い顔をしながらあちこち連れまわされていた。


「あいつが、俺を覚えていて先生の事を忘れるはずはない・・・」


必ず何か別の意味があるはずだ。そう公一は考えた。


ホテルに戻った公一は、すぐに閉じたままだった端末を立ち上げた。学生時代の事を思い出しながら佐倉の言葉を何度も思い返す。

最初に大学のホームページに何かあると思い見て見たが、昔と変わらぬ現在の教室紹介があるばかりで、自分たちの研究室のものはとうの昔に消されていた。


学生専用のページを見つけ、当時の学籍番号とパスワードを携帯端末データから探し出し入力してみたが、エラーで入ることは出来なかった。


それならと思いつく限りのキーワードで検索をかけて見たが、過去に発表した論文データなどが引っかかるぐらいで別段怪しい所は見つからなかった。


気づいた時には、カーテンの隙間から朝日が差し込んでおり、食事を一切とっていないことに気づく、空腹を覚えた公一だが、外出する気にもホテルマンに会う気にもなれず、そのままベッドに寝転がるとぼんやり天井を見ながら呟いた。


「あいつは何を俺に伝えたかったんだ・・・」


状況は何も変わっていない、むしろ悪くなっているように思えるが不思議な充足感を覚えながら公一は眠りに落ちた。

世界をゾンビでつつむのはまだまだ難しいです。話が進んでいきません。


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