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見届け人  作者: もやし
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53日目

53日目


センター長に公一が外出を申し出てから、丸一日たってから許可が出た。


「君、わかってると思うけど、くれぐれも妙なマネはしないでね、死にたくなる気持ちもわかるが、今死なれると困るんだよ。で、どこにいくの?刑務所?知人に会いに・・・そうか、いずれ君もお世話になるかもしれないし気になるよね。まぁいい、連絡だけは取れるようにくれぐれも頼むよ。」


笑いを含んだ声でそう言われた。後に「あいつだけは自分で殺して置けばよかった」とこぼした公一だったが、その当時は、平身低頭土下座をする勢いで礼を言った。


翌日、公一は早朝にホテルから逃げるように外に出た。駅前でタクシーを捕まえ、8時30分からの朝一番の面会時間に間に合うよう向かった先は千葉刑務所。


千葉刑務所は刑期8年以上の初犯者(重罪初犯者)を収容する男子刑務所であり、収容人数は1150名。


約束の面会時間までは、1時間以上あったが刑務所での面会など初めての公一は、手続きに時間がかかるもしれないと、とりあえず受付に向かい事情を話すことにした。


身分証を提示し、名前と住所を面会帳に記入した後は、携帯端末を預け時間が来るまで待つように指示され自販機と長椅子だけの殺風景な部屋に通された。

幸い、公一以外には面会希望者はおらず、雑誌も何もないところではあったが、公一にとってTVも端末もない隔離された空気が心地よく、あっという間に面会時間となった。


面会室は公一が思ったより広かった。どこか見慣れた風景がするのはTVドラマの影響かもしれず、その板1枚隔てた場所に知っている人間が座っている事が公一になんとも不思議な感じを与えた。


「久しぶりだな佐倉」


パイプ椅子に座りながら目の前に座る男、佐倉誠に公一は話しかけた。大学時代の同期で痩身で切れ長の目が印象に残る男だった。年相応に老けはしたものの今でも外見は変わりなく元気な様だった。今の自分のように余裕もなく殺伐としているだろうと考えていた公一は、穏やかな笑みを浮かべている佐倉を意外に思った。


「いったいどうしたんだ、急に俺に連絡をしてきて驚いたぞ?」


佐倉は当時から人付き合いをあまり好まず、研究分野も違った為に公一とは特に親しいという間柄ではなかった。、何度か教授が主催する飲み会で呼び出され、嫌そうにウーロン茶を飲んでいた記憶がある程度だ。


「何、俺よりも悪名を高めつつある同期の顔を見てやろうと思ってな」


薄く笑いながら佐倉は言う。


「俺は人を殺したりはしていない!一緒にするな」


苛立ちを強めながら公一は佐倉を睨みつけた。


「一緒さ、世界の希望を砕いたという点ではな。ただ一つ違うことは俺は世界に種を蒔けた。俺がやったことは人としては罪かもしれないが、確実に世界に根付いた。何の後悔もないよ。お前の研究とはそこが違う。」


静かに微笑む佐倉を見て、公一は事件後に調べた佐倉の情報を思い出していた。



佐倉 誠


スーパーコンピューターの設計技師。

世界初の汎用人工知能搭載型スパコンの開発者。

第2世代型の<ANNシリーズ>特に後期のANN68000は世界的に評価を受けた

第3世代型<DRGONシリーズ>DR01を開発。コスト削減と小型化が進み世界的に普及した。同時に世界初となる脳下垂体接続式ユニットVRギアを開発。

第4世代型の試作機TANATOS<タナトス>を開発。

同時に一般への普及をめざし、世界初のVRMMOを制作し一般人200人を対象にした先行体験テストにおいて、ゲームオーバー時に脳を焼き切るという前代未聞の行為に出た。(通称:デスゲーム事件詳細は別項参照)結果189名を殺害。業務上過失致死罪で逮捕。

無期懲役の判決を受ける。前年に廃止された死刑制度であったがこの事件を機に復活を望む機運が全国的に高まり、現在においても各地で議論を起こすこととなった。

また若年層を中心に急速に普及しつつあったVRギアは製造が中止され、脳下垂体接続式のVRユニットは国際的に全面禁止され、視覚、聴覚投影型へと移行を余儀なくされた。軍事目的での脳下垂体直結型のユニットは研究が継続され、遠隔操作を基本として無人機の開発競争が起こっている。

@wikiより佐倉誠 研究の項


自らの研究の為に100人以上を殺しておきながら、後悔がないという佐倉に比べ、研究者として、何も残せず汚名だけを被せられた自分が間違っているような錯覚を覚える公一であった。


無言になりうなだれた公一を黙って見つめる佐倉。

そのまま時間がすぎ面会時間の残りが5分を切った時に佐倉が口を開いた。


「世界に種をまいてみないか?」


はっと公一が顔があげ見た佐倉は、かつてのような鋭い目をしていた。







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