50日目
ころころと書き方が変わっている気がしますが、試行錯誤しているものとお許し下さい。
・50日目
「俺が何をしたっていうんだっ!!」
TVのリモコンを叩き付け、公一は叫んだ。
謹慎を指示されてもう1週間。カーテンを閉め切った薄暗い部屋で酒を飲みながら息をひそめるように生活してきたが、精神的に限界を迎えつつあった。自宅はマスコミが大量に押しかけていて近寄れないので、理研が手配したホテルで身を潜めていた。
毎日送られてくる大量の誹謗中傷のメールや電話、TVをつければ会見に応じた公一の写真を背景に、コメンテーターがしたり顔で「名誉欲にとりつかれたのでしょうか」などと言っている。
<日本ではもう研究しずらいでしょう、うちに来ませんか?>
四面楚歌の状況の中、そういった誘いも来ていたが、マスコミに「国外逃亡か?」と記事にされてからは一切応じていない。
今の公一にとっては、24時間盗聴されているかのような恐怖と疑心暗鬼にとらわれていた。
なかには直接出向いて交渉してくる相手もいたが、決まって研究ノートを先に寄こせと要求してきていた。研究ノートとは、実験の詳細なデータだけではなくその時の気温や湿度、自分の感情から全てを記録したものだ。
どんな些細な事でも書洩らさないようにする、いわば研究のすべて。研究者、いや今の公一にとっては最後の命綱のようなもであった。
出したらすべてが終わる。そんな予感めいたものもあった。
研究者としてはもう死んだ。このままでは人間として社会的に殺される。恐怖に押しつぶられる寸前の公一の転機は思わぬところから訪れた。
刑務所からの手紙であった。