第五話 生徒会①
第五話 生徒会①
秀樹をにあうため、B組へと向かう。
ちょうど着く頃に終わったようで、何人もの生徒たちが教室から外へと出てきていた。
その中で、ようやく知った顔を見つける。
「おや、どうかしましたか?」
「いや、ここって食堂があるみたいだし、一緒に昼をとらないかという誘いだ。」
「あぁ、なるほど。
そうですね、一度ぐらい食べてみるのもいいかもしれませんね。」
そういって二人で歩いて食堂へと向かう。
まだ他のクラスは終わっていないため、人通りの少ない廊下を秀樹とともに歩く。
「そういえば、秀樹はクラブ活動とかやるのか?」
「いえ、特にやる予定はありませんね。
秋水はどうなのですか?」
「う~ん、俺もこれだというのはないんだよな。
興味を引く物がないわけじゃないんだがな。」
「あら、それでは生徒会に入るというのはどうでしょうか。
遣り甲斐もあるのでお勧めですよ。」
「!!」
直前までこの廊下には何の気配もなかったのだが、急に後ろから声がかけられた。
すばやく後ろを振り返ると、そこには朝登校するときに見かけ、入学式でも、前の席に座っていた女性が静かにこちらを向いて立っていた。
特に何をしているわけでもなく、ただ立っているだけなのであるが、それでも、他の人をひきつける何かが彼女からは発せられていた。
「あ、貴女は……」
「初めまして、北神さん、西野さん。
私はこの学園の生徒会副会長で藤堂莉奈と申します。
まぁ、初めましてと言っても、北神さんとは正確には朝、顔を合わせているのですけどね。」
そういってこちらに微笑みかけ、軽くお辞儀をした。
「初めまして、藤堂先輩。
僕は高校一年の西野秀樹と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。」
横で秀樹が挨拶をしているのに気づいた俺は、それに続けて挨拶をすることにした。
「初めまして、藤堂先輩。
同じく一年の北神秋水です。
よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
「ところで藤堂先輩。
生徒会に入らないかというのはいったいどういうことなんでしょうか?」
俺はふと疑問に思って先輩にそうたずねてみる。
「言葉通りの意味ですよ。
私は、生徒会に入らないかという勧誘にきたのです。
毎年、主席と副主席が生徒会に入るのが慣例となっていますので。」
「そうだったんですか。
秀樹は知ってたか?」
「ええ、一応は、ですけどね。」
そういえば、さっき後ろから声をかけられていたのにあまり驚いていなかったな。
気づいていたのだろうか。
「ところで、秋水はどうするつもりですか?」
「ん?
あぁ、俺的には別に入ってもいいと思うんだけど、秀樹はどうなんだい?」
「僕はもともと入るつもりでしたから。」
「慣習をご存知だったのですね。」
「ええ、秋水のお姉さんに聞いていましたので。
一応、秋水も聞いていたはずだと思うのですが。」
「そうだったかな?」
残念ながら、全く覚えていない。
「えっと、それでは、二人とも入ってくださるということでいいのかしら。」
「はい、いいんだよな、秀樹。」
「ええ。」
「そうですか。
よかったです。
それでは改めまして、私は生徒会副会長を務めています、高校二年の藤堂莉奈です。
クラスは、A組ですのでもし、何かあれば。
もっとも普通に端末や携帯にメッセージを送ってもらってもかまいませんよ。
あっ、そうでした。」
そういって、先輩が端末を取り出す。
「連絡先を教えておきますね。」
そういうことかと、俺たちも端末を取り出す。
「上のほうが端末のほうのアドレスで、下のほうが携帯のアドレスです。
どちらに送っていただいてもかまいませんが、緊急のときは携帯のほうに送ってください。
そちらのほうが早く見る可能性が高いと思いますので。」
「分かりました。」
アドレスの交換をした後で、そう告げてきたので、答えを返しておく。
「それでは、これから、生徒会室に連れて行きたいと思うのですが、何か用事などありますか?
あるのでしたら、そちらを優先していただいてもかまいませんが。」
「いえ、大丈夫ですよ。
あぁ、ただ、本当は今から昼食を食べに行こうとしていたんですけど、それは別に後でもかまいませんし。」
「ああ、それでしたら問題ありませんよ。
生徒会室のほうで、簡単な軽食を用意してありますので。」
「そうなんですか。
ちなみに何を用意しているのですか?」
「一応、簡単なものなんですけど、サンドイッチとコーヒーを用意してあります。
私のお手製ですので、プロのものよりは味は落ちてしまうと思いますがいかがでしょうか?」
そういえば、少し話は外れるのだが、現在、アレルギーというのは存在していない。
食物アレルギーなどは、研究の結果、治療法が確立し、一昔前は厳しく定められていた食品に書かれているアレルギーについての表記なども、現在ではなくなっている。
この治療法を発見したのは日本人の研究者で、名前は……忘れてしまったが、俺の知っている研究者の親友らしい。
その研究者は、様々な分野で活躍していて、賞を受賞するのもそう遠くないんじゃないかといわれている。
ちなみに、女性の方だそうだ。
「あっ、はい。
パンは基本的に好きなので全然かまわないです。
秀樹も問題ないよな?」
「ええ、特に問題はありませんよ。」
「そうですか、それではご案内いたしますね。」
そういって藤堂先輩はこちらに背を向けて歩き出し、俺たちもその背中を追うようについていくのであった。
「そういえばなんですけどね。」
階段を上る途中で藤堂先輩が話しかけてくる。
「はい、何でしょうか、藤堂先輩。」
「私を呼ぶときは、名前でいいですよ。
四文字だと呼びにくいと思いますしね。」
「そうですか?
分かりました、それでは、莉奈先輩と呼ばせていただきますね。
あぁ、こちらも秋水でかまわないですよ。」
「僕のほうも名前でかまいませんよ。」
「そうですか。
では秋水君に秀樹君と呼ばせてもらうことにしますね。」
そういって先輩は微笑を見せた後、また、前を向く。
そういえばと、俺はさっき気になっていたことを先輩に聞いてみることにした。
「ところでなんですけど、先輩の能力はテレポートなのですか?」
「いえ、ちがいますよ。
私にテレポーテーションは使えません。」
「ではどうやってあそこに?
普通に歩いてきたのならば気付けると思うのですが……。」
「隠密能力は他の人に比べても高いと自負していますから。」
「そうなんですか~、ちなみに、どんな能力なのか教えていただけたりは……。」
「別にかまわないですよ、私の能力は身体強化です。
この能力のおかげで、たとえ拳銃で撃たれたとしても、傷一つつきませんね。
あくまで、能力の発動中ですけどね。」
「そうなんですか、それはすごいですね。」
「そうはいっても、秋水君の能力でも、おそらく、銃弾を受け止めることはできるのでは?」
「う~ん、まぁ、確かにできますけど、条件が限られてしまいますしね。」
「まあ、北神家は皆そういう能力で有名なわけですからね。
そういえば私、あなたのお姉さんと会ったことがあるんですよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、とてもすばらしい方でした。
去年卒業してしまいましたけど、高校一年だった私に声をかけていただいた上に、いろいろと親切にしていただきました。」
「霧華さんはそういう方ですからね。
誰にでも優しいですし、仕事なども完璧にこなしますし。」
「ええ、本当に優しい方ですね。
ああいう兄弟がいるのはとてもうらやましく感じます。」
俺の姉である、北神霧華は現在二十三歳で、社会人一年目である。
去年までこの学園の上の大学に通っていて、現在は大学に在学していたときから半分勤めていたようなものであった、海軍で働いている。
在学中は常に主席であり、教師からの信頼も厚く、あこがれている人も多いようだ。
身近なところでいうと、秀樹も姉さんのことをとても尊敬しているうちの一人である。
自分もああいう風に何でもできる人になりたいと昔からずっと言っていた。
まぁ、そうなるようなエピソードがあるのだが、それは機会があったらということにしよう。
さっきまでの会話を聞いていると、莉奈先輩もどうやら姉さんを信仰している人のうちの一人であるようだった。
まあ、確かに外での姉さんは容姿端麗で仕事は何でも完璧にこなし、成績もよく誰に対しても丁寧な対応をし、生徒会長として皆から頼られ、運動神経も抜群と、神に何物も与えられた様な人であるにもかかわらず、それをひけらかすことはしないという非の打ち所がない人である(と前に家に来た姉さんの友達が言っていた。)。
まぁ、その一方で裏の顔は……まぁ、これ以上はやめておこう。
俺にとってはとても優しくて頼りがいのある姉であり、それだけだ。
そういうわけだからあげないよ。
その後も少し話をしていると、藤堂先輩が立ち止まった。
「さてと、こちらが生徒会室となっています。」
場所は校門に最も近い校舎の四階、おそらく今日の朝、莉奈先輩が校門を眺めていた場所であろう。
そのドアは、自動ドアではないようで、取っ手に加えて、鍵と思われる物が、おそらく端末をかざす物と、暗証番号、それにシリンダー式の鍵とぱっと見ただけでも、鍵が三つもついている。
やけに厳重だななんて考えつつ、少し上のほうを見てみると、プレートに生徒会室とはっきり刻まれている。
その様子を見た莉奈先輩が、俺に話しかけてきた。
「鍵関係が厳重なのはこの中の端末からだと、生徒の個人情報などにアクセスできてしまうためなんですよ。
超能力者の場合、鍵が一種類のみの場合は簡単に開けられてしまう場合がありますからね。
なので、いくつか鍵を用意しているんですよ。
まぁ、他にもいくつか防犯対策がなされているんですけどね。」
「そうなんですか。」
「ええ。」
そういうと先輩はドアのほうに向き直った。
そして先輩が扉をノックし、
「藤堂です。
二人をお連れしました。」
と中に向かって呼びかけると
「入れ。」
という言葉が低く渋い感じの男の声、おそらくは生徒会長であろう、が返ってきた。
「どうぞ。」
先輩がドアを開けて、中に入ってくれと促してくる。
「「失礼します」」
俺と秀樹は礼をしつつ、そう声をかけて、生徒会室へと入っていくのであった。
第五話 end