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第一話 入学式

本日三話目となります。

 第一話 入学式①



 俺は駅から高校までの道のりを一人でゆったりと歩いていた。

 その頭の中の大部分を占めているのが本日の挨拶についてである。

 人前で話すような機会は今までほとんどなかったためかなり緊張しているのだ。

 間違えてしまったらどうしようかなどと考えつつ、ゆっくりと足を進める。

 しばらくして、そんなことを今考えてもしょうがないだろうと開き直ることができた俺は、少し足を止め駅から高校まで生えているこの何本もの桜の木が連なった景色をゆっくりと眺める。

 日本人の気質なのかもしれないが、桜を眺めていると気分が落ち着いていくのが分かる。

 ちなみに俺は昼の桜も好きだが、夜桜のほうが趣があっていいなと感じるタイプだ。

 暗闇の中でひっそりと佇んでいる桜に対しては、その美しさと儚さ、そして怖さを感じられずにはいられない。

 もちろん昼の桜もよいものだとは思うのだけれど。

 そんなことを考えて気分を落ち着かせた俺は、桜から周りに視線を移す。

 周りにはおそらく同学年であろう学生たちが同じように高校へと向かっているようだった。

 どの生徒も期待や緊張が顔に表れていて、その緊張した様子を見て、俺は心を落ち着けることができた。

 さらに、道の両脇にある店を見ていくと、文房具屋や、本屋などの他に、実習でけがする人も多いため病院や薬局など多種多様な店舗が建ち並んでいる。

 何軒かの店主と思われる人は、おそらく新入生の緊張をほぐしてあげようという気持ちと、これからお得意様になるかもしれない人たちへの顔見せをしておこうという気持ちがあってだろう、わざわざ店頭に立ち、新入生に対して手を振ったりしている。

 まぁ、そこにどんな意図があったとしても、新入生からすれば暖かく迎え入れてくれているような気がして心地よいことに変わりはないのだが。

 そんなかんじで、店主が出てきている店を中心にどんな店があるのかを確かめながら歩き続ける。

 いくつかのカフェや、全国へ展開しているチェーン店などなど、本当にいろいろな店が立ち並び、ここ一帯が普段から賑わっていることを感じさせる。

 おそらくその賑わいの中心であろう学園の校門へと差し掛かり、中へ入ろうとする。

 ここでふと、違和感を感じた。

 いや、違和感というか、なんだろうか、誰かから見られているような視線を感じたのだ。

 周りの生徒たちは特に気づいてはいないようで、そのまま入学式の会場への案内どおりの道順をたどって校内へと歩み続けている。

 だが、わずかにではあるが、はっきりとその視線の存在を捉えた俺は、その視線が来ていると思われる校門のもっとも近くにある校舎の最上階をすっと盗み見る。

 あからさまに見ないのは、こちらに危害を加える意思がある場合に問題が起こる可能性があるためだ。

 手元の端末を使用しているふりをしながらそちらの方向をこっそりと見てみると、制服を着ているので、おそらくはこの学園の先輩であろう一人の女性がこちらを見下ろしていた。

 その女性は長く、綺麗な黒髪を風になびかせ、こちらのほうを眺めていた。

 しっかりと見たわけではないけれど、間違いなく美人であることが分かるどこか儚げな雰囲気をまとっていた。

 もう一度その顔を見てみたいという思いに捕らわれて、そちらを盗み見る。

 すると、その先輩はこちらが気付いたことに気付いたのか、こちらに対して婉然と微笑んできた。

 そして、こちらに気づきましたよということをアピールするためか、挨拶をするかのように軽く手を振ってくる。

 整った顔立ちに長い黒髪という容姿で、微笑んだ顔はまさに、大和撫子を彷彿させるような微笑みであった。

 そして、そちらに気をとられていたことを気づかれたのかと思うと途端に恥ずかしさが沸いてくる。

 おそらくは顔も少し赤くなってしまっているだろう。

 このまま走り去ってしまいたいと思うものの、おそらく先輩であることは間違いないので、そういう行動をすることは無礼にあたってしまう。

 そう考えた俺は先輩と思わしき女性に対して軽く頭を下げて会釈をし、入学式の会場へと向うことにしたのであった。 




 入学式が行われる会場へと向かうため、俺は端末にダウンロードしておいた案内アプリの誘導にしたがって歩みを進める。

 この学園は、大学の付属高校であるという理由もあり、かなり広大な面積を誇っている。

 高校側と大学側は明確に分けられているというわけではないものの、東側のほうが基本的には高校生、そして、西側に行くにつれて大学生のエリアとなっている。

 今回の入学式が行われるのは、ちょうど高校生と大学生のエリアの境目付近、学園の中央やや左側の位置にある建物である。

 建築されてから三十年ほど年月がたっているらしい、この木造建築の講堂は、日本人として、どこか懐かしさを感じることができる、そんな建物であった。

 その建物の両開きとなっている扉の前には『入学式会場』という看板が立てかけられていて、そこにはスーツを来た先生らしき人が三人ほど立っていた。


「入学式の会場はこちらとなっています。

 新入生の方は入ってすぐ左の扉となっております。

 ご家族の方はお手数ですが、この扉を入ってまっすぐ行った先の突き当たり付近に会談がございますので、そちらを上ったさきの、二階席、三階席をご利用ください。」


 扉の前に立っていた先生のうちのひとりが、こちらに対してそんな声をかけ続けている。

 まぁ、残念なことに、俺の家族は仕事の関係で来ることができなかったのだが。

 本当は姉さんは絶対に行くからと言っていたのだが、一昨日の夜に連絡を受けたらしく、

「その日に重要な会議があるからいけなくなっちゃったの。」

 という電話をもらっている。

 なぜか、俺よりも、行けなかった姉さんのほうが落ち込んでいたのが少し面白く感じた。

 ともあれ、現在、俺の家族はこちらには来ていないので、一人でそのまま建物内へと入り最も近くの扉から講堂の中へと入る。

 その講堂は、築三十年ほどではあるものの、どこか厳粛な雰囲気を感じさせた。

 そして、俺はどこへ座ろうかと悩んでいたのだが、よくよく考えれば、新入生代表として挨拶をするのだから前のほうのそれも連なったいすの端がいいだろうということに気づき、左右に分かれていた長いすの前から二番目、その右側の椅子の左端つまりは、中央の通路に最も近い位置へと座ることにした。

 椅子に座り、その、どこか落ち着きを感じさせるような室内をゆっくりと眺めつつ、俺が今入ってきた扉のほうをふと眺めてみると、見知った顔がちょうど講堂内へと入ってくるところであった。

 俺がそれに気づいたのとほぼ同時に向こうも俺をを見つけたようでスタスタとこちらへ近づいてきた。


「おや、秋水ではありませんか。

 久しぶりですね。

 元気にしていましたか?」


 このスマートな体型のさわやか系イケメンは西野秀樹(にしのひでき)

 俺の小学校の頃からの友人である。

 頭脳明晰で運動神経も抜群、容姿もよくて、何より誰に対しても優しいく、丁寧な態度で接し、何より自分の才能を鼻にかけないとあって、女性からの人気はとても高い。

 今もこいつは優雅なしぐさに俺の席の隣へと座ってきた。


「いや~、昨日まで今日の挨拶文を書いていないことに全く気づかなかったせいで夜は大変だったよ。

 まぁ、何とか間に合ったからよかったけどな。

 まぁ、ついでに言うが、久しぶりといっても、一週間ぐらい前に会っただろ?

 ところで、秀樹こそどうなんだい?」

「それは自業自得ですね。

 ですから、前から、スケジュール管理をきっちりしたほうがいいですよと忠告していたというのに。」

「うるせぇよ。」


 こんな感じで楽しく談笑していく。


「それにしても、この講堂ってやっぱりどこか厳粛な感じがするよな。」

「そうですね。

 そこまで年月はたっていないのに厳かな雰囲気を漂わせているというのは建造者の腕のよさを感じさせますね。」

「まぁな、確かこの講堂を立てたのって結構有名な建築家だったよな。」

「そうですね、初代学園長、今の学園長の伯父さんにあたる方なんですけど、彼は顔が広かったらしいですからね。

 その人脈でもって、この講堂の建築を頼んだようですよ。」

「なるほどな。

 やはり、人脈って言うのは大事なんだな。」

「そうですね、つながりというものは大切にしなくてはいけないでしょうね。」


 こんな話をしつつ、入学式が開始されるまでの時間をつぶしていくのであった。



 第一話 end

そういえば、どなたかは分かりませんが、早速評価がついていました。

どちらも満点評価で、とてもうれしかったです。

その評価に負けないよう、よい作品を描いていく所存でございますので、どうか、よろしくお願いいたします。

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