〜プロローグ②〜
本日二話目となります。
〜プロローグ②〜
入学式の朝。
前日に始業式が終わり、本日は新入生を迎えるための式が執り行われる。
校門前の桜並木を、入学式当日ということもあってか、そこにはうれしそうな、でも少し緊張したような、そんな顔をした新入生たちが校門へと歩いてきていた。
あるものは友達とともにこれからの学園生活を想像し話し合い、盛り上がりながら、あるものは知り合いを探して周りを見渡し、目的の人を見つけそちらに走っていきながら。
皆、目的地は同様にこの学園の始業式が行われる会場である。
期待に胸を膨らませつつ、二人の警備員が両側に立つ校門を通り抜け、会場へと向かっていく。
校門はいつものような厳粛な雰囲気の中にどこか、新入生を迎え入れるためのやさしげな雰囲気をまとっているかのようであった。
そのサイドにある桜の木は、少し散り始めているとはいえ、まだ満開と表現してもおかしくはない。
その桜の木から風によって散っていった花びらの一つ一つがふわりふわりと宙を舞い、これもまた、まるで新入生たちを歓迎しているかのようであった。
「綺麗なものですね。」
校舎四階のとある一室。
校門とそれに続いている駅からの道を見渡すことのできるその場所にいた一人の女性。
そこで彼女は長く綺麗でつやのある黒髪を入ってくる風になびかせながら、窓から外を眺め、そんなことを呟く。
その容姿はもうすでに少女と呼ぶにはふさわしくない婉然とした女性であった。
だが、その一方で、どこか幼さを感じさせるその容姿は男性をひきつけるには十分すぎるほどであり、周りの女性すらもひきつけてしまいそうなそんな儚さをも持ち合わせていうそな女性であった。
そのまま彼女は外にいる新入生を見ながら微笑を浮かべている。
おそらくはその外の景色の美しさに微笑を浮かべているのであろう。
そのまましばらく外を眺めていると、一人の男子生徒がこちらに気づいたのであろうか、あからさまにならない程度ではあるがはっきりとこちらのほうを見ていた。
彼女はその視線に気づくと婉然と微笑み軽く手を振る。
するとその男子生徒は少し照れたのであろうか、ほほをわずかに紅潮させつつもわずかにこちらに礼をし、そのまま入学式が行われる会場へと入っていった。
その様子をほほえましそうな目で見つめた彼女は外の景色を眺めるのに満足したのか窓辺から部屋の中央付近にある机の前に静かに座った。
「満足したのかい?」
彼女から見てちょうど机の対面側に座っていた、髪を短く切った女性から声がかけられる。
かけられた声は間違いなく女性の声ではあるのだが、どこか男性的なイメージがわく声であった。
現在、部屋の中には全部で4人の人影。
窓の外を眺めていた彼女と、窓からはなれた席で静かに手元の端末を操作しているおとなしそうな中にもどこか強い芯を感じさせるような女性、腕を組み、目を閉じているだけなのにもかかわらずおそらく百九十センチを越えているであろう背丈とその体つきの良さから周りに威圧感を与えているように感じてしまう彼と、今声をかけたボーイッシュな雰囲気を漂わせた彼女である。
「ええ。
景色も美しかったですし、何より、少々面白いものを見ることができましたので。」
そういって微笑む彼女は言葉通りの感情がその表情に浮かび上がっていた。
おそらく、その言葉が本当だということが分かったのであろう、問いかけた彼女のほうも少し興味がわいたようで、
「ほう……。
ちなみに聞きたいのだが、何に興味を引かれたんだい?」
そう彼女に問いかける。
「それは秘密ですよ。
おそらくはすぐに分かるでしょうから、それまではですけどね。」
ほほえみとともに彼女がはぐらかす。
「そうか、まぁ、それならいいか。
そういえばなんだが、今年生徒会に入る予定の新入生というのはどんなやつなんだ?」
彼女は、はぐらかされたことについては追求せず、話題を変えて、教室内にいたもう一人の女性、すなわち端末を操作していた女性にそう問いかけた。
「どちらも男子生徒ですね。
こちらがデータとなります。
今年の主席は、そちらの北神秋水という男子生徒ですね。
そして、副主席が西野秀樹というこちらも男子生徒です。
二人とも座学、実技ともに優秀ですね。
かなり成績はいいようです。」
「北神というと、あの北神家ということだな?」
「そのようです。」
「ということは水関係か。
珍しいタイプではあるな。
それに、北神家ということは、実務面なんかもかなり期待できるだろう?」
「おそらくはですが。
すでに軍隊の訓練なんかも実際に受けていたりもするようですので、なかなか期待できるのではないかと思います。」
「ほう、それはなかなか期待できそうだな。
ちなみにもう一人のほうはどうなんだ?」
「こちらも、軍隊の訓練を受けたりもしているようですが、注目すべきは修めている武道ですね。
さまざまな流派を抑えていますので、おそらくは、超能力に頼らないオリジナルの武術なども使えるのではないかと。」
「なるほど、どちらも期待できそうということか。」
「ええ、おそらくは。」
「そうか。」
そういって彼女は少し前に乗り出していた体を元の位置へと戻し先ほど送られてきていたデータのほうを読み始めた。
彼女は普段は資料などは読まないのではあるが、このときばかりは興味深そうな目で資料を眺めていた。
その彼女の様子を見て、もう大丈夫であろうと判断したのか、先ほど端末を操作していたほうの女性が、これまで一切口を開いてすらいなかったこの部屋の中にいる唯一の男性である彼に話しかけた。
「会長、本日の流れなどを説明しておいたほうがよろしいでしょうか?」
その言葉に会長と呼ばれた彼はゆっくりと目を開ける。
「ふむ、そうだな。
念のため全員で確認しておいたほうがいいかもしれん。
頼めるか?」
「勿論です。
それでは、本日の予定を。
本日の入学式は開始予定時刻が午前九時、終了予定時刻が午前十時三十分までの一時間半の予定となっています。
まず、入学式中における、各々の予定についてですが……」
彼女が全員に対して、本日の予定を一つ一つ伝えていく。
「……ということになります。
最後にですが、二人の誘導については莉奈に任せますのでよろしくお願いしますね。
ホームルームの終了予定時刻は十二時となっていますのでその後に勧誘してこちらに連れてきてください。」
最後に彼女が最初に窓の外を眺めていた女性、莉奈に対して声をかける。
「分かったわ。」
そういって莉奈は婉然と微笑む。
「お願いします。
それでは、そろそろ開始三十分前となりますので、移動しておいたほうがいいと思うのですが、会長。
どうでしょうか?」
「そうだな。
そろそろ向かうとするか。
では、行こう。
施錠は頼む。」
「了解しました。」
そういって会長はドアへと向かう。
それに続きほかの三人もドアの外へと出て行った。
ピッピッピッピッピッ、ガチャリ。
外についていた暗証番号式と思われる鍵のボタンを押し、施錠をしたうえで、更にシリンダー錠による施錠をし、誰もいない校舎の中を入学式の会場に向けて歩いていくのであった。
プロローグ② end
プロローグはこれにて終了です。
次話から本編となります。