第十二話 トーナメント戦の開始
第十二話 トーナメント戦の開始
訓練期間が終了し、ついにトーナメント戦が始まる日の朝を迎えた。
この学校は一学年が二十四人×八クラスの百九十二人となっており、ちょうど三人組で組むとトーナメント戦にぴったりの人数となっている。
そして、このトーナメント戦は四日間行われ、初日が一回戦で三十二組、二日目が二回戦と三回戦で十六組と八組、三日目がが準々決勝と準決勝、最終日に三位決定戦と決勝とその他いろいろと言う日程になっている。
つまり優勝するには全部で六回勝利しなくてはならないのだ。
また、準決勝、三位決定戦、決勝に関しては制限時間はない。
二日目、三日目は一日に何試合か戦わなくてはいけないので、その辺の力の配分だったりもしっかりとしなくてはならないのだ。
こういうところも、実践や、夏の大会では必要(夏の大会でも、一日に何戦もしなくてはならない場合が多い)なので、そういうところもトーナメント戦のうちということなのであろう。
「先週も説明しましたがもう一度説明しますね。
今回のトーナメント戦は三人一組のグループでのチーム戦です。
市街地をイメージしたフィールドでの戦闘となり、相手の三人を全員戦闘不能にするか、十五分立っても勝敗がつかなかった場合は、審判の判定で勝敗が決まります。
皆さんにはこのヘルメットをかぶってもらいます。
戦闘不能の判断はこのヘルメットで行います。
戦闘不能と判断された後は攻撃することはできませんし、反対に敵チームも攻撃を加えては行けません。
武器に反しては学校が指定した剣を用いてください。
ただし、どうしても必要だということで相談に来て、許可された物に関しては問題ありません。
とりあえず以上ですが、何か質問などありますか?」
現在、クラスでは山田先生が最後のルール説明を行っている。
準備期間中でも何度か利いているような気がするが、何度も言ったほうがいいと俺は思う。
こういうところを怠ると事故が起こりやすくなってしまうからだ。
まぁ、やりすぎるのはくどいと思うのだけれど。
そんなわけで、山田先生がクラス全体に向かって問いかける。
「……特にないようですね。
では、会場へと移動しますので皆さん、ついてきてください。」
先生が声をかけ、会場へと移動することになった。
会場はかなり大きな場所で、真ん中には四百メートルトラックの倍程度(正確には長いほうの長さが二百メートルジャストということでそれよりも少し長い)の市街地を模したステージが配置され、その周りの情報に観客席があるといった感じであった。
観客席の位置は意外と高くなっているのだが、これは、普通の角度からだと建物が邪魔なせいで殆ど何も見えないからだ。
その一方で距離が遠くなってしまうので、皆メガネ型の望遠鏡(二つともズームすることができるので、双眼鏡なのかもしれないが)を用いて基本的には観戦することになる。
これは、手を使わなくてもかけるだけでよいため一般的に登山などでも重宝される物であり、形状は目全体を覆う水中眼鏡のような形となっている。
色は様々あるものの、皆一様に目を望遠鏡で覆っているのはなかなかにシュールだ。
ダイバーのボンベなしバージョンがたくさんいるみたいな感じである。
まぁ、便利なので結局、皆、基本的にはこれを使っているのではあるが。
この望遠鏡はフレームの位置についているボタンで倍率の調整ができ、実視界(双眼鏡を動かさずに見ることのできる角度)や、見掛け視界(視野の広がりぐあい)も新たな材質の発明によってはるかに広がりかなり使い勝手のいいものとなっている。
そんな人たちが多く座っているその周りの観客席には何人かの先生方と生徒たちがいるだけで、割とすいている。
三日目と四日目は上級生もするのだが、それまでは一年生だけなので割りとすいているのだ。
また、一応カメラ撮影も行われて入るのだが、その戦闘の速さゆえにあまりズームするとぶれるので、かなりひいてとっているので、正直観戦には向かないのである。
そういえば、生徒の中でも、武術をならっておらず、戦闘向きでない能力の人はどうしているんだという疑問が浮かぶかもしれないが、これに関しては、少し面白い研究データがある。
イギリスの研究者、ジョン・レドナップ氏の研究データだ。
この研究データは大学で超能力者についての研究をするのであれば必ずといっていいほど習うことになるデータで現在、彼は超能力者の研究の第一人者といわれている。
その研究データはかなりの長さなので今回言いたい部分だけを要約すると、
『超能力者は一般的な人々に比べて身体能力、例えば筋力のつき方や体の柔らかさの差はない。
ただし、その一方で、反射神経や動体視力などについては、超能力を使いこなしている人は明らかに他の人に比べてその値が高い。』
というものだ。
これは、実際は英語の文章だが、日本語訳の文章の一部を引用するとこんな感じだ。
「これにより、スピードこそ出なくても超能力者というだけで、いうなれば、『体の使い方がうまい』のだ。
無駄のない動きや、相手の動きを見切る力などが一般人に比べて高くなることによって、はたから見れば、身体能力が超能力者になると向上するといわれるのだが、実際に向上するのは脳の思考力といったところなのである。
つまり、超能力者はたとえ、腕立てが殆どできないような子であったとしても、フェンシングの試合で、実力者の剣を見切ることができることすらあるということだ。
これもまた、超能力者の面白いところである。
――ジョン・レドナップ『超能力者』――」
とまぁ、そういうこともあって、超能力者というだけで、ある程度の実力は持ってしまっているのだ。
まぁ、もちろん鍛えてなければ、そこそこというレベルでしかないわけだが。
加えて、現在では、殆どの超能力者たちは何かしらの武術を習っている。
これは、偏に超能力者というだけで、その人には危険が付きまとうためである。
これらの結果、このバトルというのはある程度のないように必ずなるのだ。
そして、その中でも、高校生で強い人たちが集まって行われるのが夏の大会というわけなのだが……、まぁこれについては今は関係ないか。
まぁあれも、チーム戦や個人戦など何種類かに分かれていて、なかなか見ているほうは面白いのだけど、選手となるとなかなか大変なんだろうなぁ。
そんなことを思いつつ、席に着くのであった。
「さて、次が俺たちの出番な訳だが準備はいいか。」
「もちろん。」
「はい、大丈夫です。」
第一試合が開始してから大しばらく時間が経ち、俺たちの出番である七試合目までそろそろである。
今現在は第六試合が行われ、、控え室のテレビには現在おこなわれている戦闘が映し出されている。
ちょうど決着がつきそうである。
「今からの戦いが俺たちの初陣となるわけだ。
気を抜いたらすぐにやられてしまうであろう。
気合いを入れていけ。」
「「はい!!」」
「今日まで一週間鍛えてきたことを出しきれば、必ず勝てるはずだ。
一戦一戦大事に行こう。
いくぞ、ファイトー「「オー!!」」」
「では、第七試合に出場する選手は指定の位置に着いてください。」
アナウンスが流れる。
こうして俺たちはトーナメント戦の第一戦目に向かっていくのであった。
結論から言えば俺たちは圧勝した。
というか、俺に関しては出番すらなかったのである。
戦闘が開始されるとすぐに輝美が飛び出していったのだが、ビルの上からの奇襲に相手が気付かず、いきなり一人を撃破。
他の二人も澪と、輝美が片付けてしまい、全く出番がなかった。
まぁ、一回戦だからな。
そういうこともあるのだろう。
正直ちょっと拍子抜けではあったのだが。
ていうか、やっぱりこのチームってパワーバランスおかしかったんじゃないの?
そんなことを思いながら、俺たちはそれぞれ更衣室で制服へと着替える。
一応更衣室のモニターで次の戦闘を見ておくことにする。
次のラウンドで、対戦することになるからだ。
が、正直言って次も簡単に勝てる気がする。
この戦いの勝者はさっきよりはましだが、それでも俺たちに比べると練度が低い。
一応勝敗がつくまでみてから自分たちの席に戻ってしばらくすると、他の二人がやってきた。
「お疲れさま。
圧勝だったね。」
「お疲れさまです。
訓練の成果が少しは出た気がします。」
「お疲れ。
まぁ、俺に関しては全く手を出してないレベルだからな。
まぁ今回圧勝したからと言ってここで手を抜けば次負ける可能性だってあるんだ。
次も気合いを抜かないようにしないとな。」
「まあね。
でも、正直次ぎ戦うグループも行けそうな感じするけど。」
「いや分からないよ。
もしかしたら、実力を隠しているだけと言う場合もあるからね。」
「そうですよ、輝美ちゃん。
秋水くんの言う通りです。
油断大敵ですよ。」
「分かってるって。
どうせだったら優勝しときたいしね〜、負けるの嫌いだし。」
「まぁ、一戦一戦地道に戦っていけばいいさ。
とりあえず今日はもうこれで終わりだし、ゆっくりと他の人の試合を見とこうよ。」
「そうですね。
一応、強い人のチェックをしておかないといけませんし。」
「そうね。
やっぱり実際に戦いを見ておくってのは大事だしね。」
そんなことを話しながら、第一回戦を観戦していくのであった。
「おや、秋水ではありませんか。
今日はお疲れさまです。」
学校からの帰りみち、電車に乗っていると秀樹に出会った。
「お疲れって言っても俺今日何も仕事してないんだけどな。
他の二人が全部やってくれちゃったからね。」
「そのようですね。
見ていましたが、まだまだ余力を残しているようでしたし、厄介な相手になりそうですね。
とはいえ、あたるのは決勝か三位決定戦になりますが。」
「あぁ、そうだな。
厄介と言ったらそっちのチームも同じだろ。」
「そうでもありませんよ。
なにせ、僕は本来、戦闘はあまり得意ではないのですし。」
「う〜ん。
その台詞はこないだも聞いたんだけど信用性ゼロだぜ?」
「おや、それは心外ですね。
僕は生まれて此の方嘘などついたことはありませんよ。
無論、エイプリルフールをのぞいて、ですが。」
「まぁいいや。
とりあえず、最終日戦うことになったらよろしくな。
まぁ、容赦するつもりはないけどな。」
「ふふっ、こちらも、もしあたることになりましたら容赦はしませんから問題ありません。
あぁ、後、一つ連絡です。」
「なんだ?」
「生徒会からです。
最終日終了後に生徒会室へ集合してください、とのことです。
おそらくは、体育祭のことについてではないでしょうか。」
「あぁ、なるほどな。
この大会が終わると、後大体一ヶ月と言うところになるわけか。」
「そうですね。
毎回、準備は大変らしいですよ。
覚悟していった方がいいかもしれませんね。」
「分かったよ。」
「毎年派手ですからね、ここの行事は。
この新入戦トーナメントをのぞけば全て一般公開されていますから。
『魅せる』と言うことも意識しているんでしょうね。」
「まぁ、その分裏方は大変なんだがな。」
「それでも楽しんでもらう方が大事なんでしょうね、学園的には。」
「そりゃ、分からなくはないな。
おっ、駅に着いたな。」
「そのようですね。
では秋水、また明日。」
「おう、じゃあな。」
そういって、秀樹は電車を下りていったのであった。
第十二話 end