異星のスイーツ屋
神山にキスされてから三日間くらい世津はぼんやりして心ここにあらずだった。
やっと落ち着いた頃、ケイが部屋に現れた。今日のケイは地球人のような服装ではなかった。光沢のある銀色の地に虹色の水玉が描かれている布地が、古代ギリシャの服の形にカットされたような服を着ていた。世津は
「もう私の前には現れないでください。神山さんと結婚の約束をしました」
「僕と別れたいんですね。でもその前につきあって下さい。今日は靴を履いて下さい」
世津が靴を履き終わるとケイは世津の手を取り、大きく瞬間移動した。
着いた先は、奇妙な形にねじれている大木のツリーハウスの村のような所だった。ケイは
「僕の星の名物スイーツが食べられる観光地です。甘い物の好きな世津さんに対して、神山さんとスイーツ対決では負けたくありませんからね!」
ケイと世津は大きなツリーハウスに入った。そしてケイは地球では話されていない歌うような言語で、そのスイーツ屋の店員らしい人に何か注文した。
出てきた木の皿に載ったスイーツを世津は食べてみた。臭くないドリアンをもっとクリーミーにして、カシューナッツの粒が入った上にビターチョコレートがかかったような味だが、うまく表現することはできない。
「すごく美味しいです!」
「それは良かった」
ケイは少し淋しそうな微笑を浮かべている。飲み物は深煎り麦茶とコーヒーの中間のような味だった。
スイーツ屋を出た後、ケイは別のツリーハウスに世津を連れて行った。そこで銀色に虹色の水玉が描かれた布地のワンピースのような形の服を買ってくれた。世津はボロのジャージを着ていたので着替えると、ケイは脱いだジャージを地球の世津の部屋へ転送してくれた。
その後、ツリーハウスの村から上の方へ続いて行く道に来て
「少しハイキングをしましょう。あんまり高い山ではないからすぐ頂上に着きます」
ケイと世津は奇妙にねじれた木々の間の道を登って行った。途中で虹色の水玉模様の銀の鳥達を見た。
頂上に着き下を見晴らすと、木々は緑のブロッコリーのように見えた。頂上のベンチに座る。
「世津さんの膝はすっかり良くなったようですね」
「そのことには感謝しています。ケイさんは私に新しい人生をくれました。でも、もう私のことは放っておいて欲しいんです」
「それは約束できません。でもあと十年放っておいてあげましょう。そうすれば世津さんもいまにわかる時が来るでしょう」
「何がわかるんですか?」
「それは秘密です。ただ・・・」そう言ってケイは自分の星の歴史を語り出した。
もともと昔はケイの星も、職場や学校や近所で知り合って結婚することが普通だったこと。しかし中央政府管轄で、髪の毛などの身体の一部を分析することで、相性の良い相手が見つかるようになるとその方法で結婚相手を見つけることが主流になったこと。そのため、結婚相手を、生まれ育った地域の血縁や地縁から、いきなり引き離してしまうことになるので、そこから結婚相手の住んでいた地域に求婚の時、プレゼントをする習慣が始まったらしい。
「でも僕は、自分の星で相性の良い相手が見つかりませんでした。あぶれてしまったんです。それで地球で世津さんを見つけました。僕も昔ながらの本能的で思い出を重ねていくやり方の力は決して軽くないと思うけど、最後には相性が勝つと思います。十年後が楽しみです」
世津はあぶれたと聞いて少し気の毒になったが、十年後、ケイの元へ走るとは思えなかった。世津は
「お別れです。最後にまた、宇宙散歩をさせてくれますか?」と言った。
ケイは世津に宇宙空間でも大丈夫になる丸薬を飲ませ、青い地球がよく見える宇宙空間へ瞬間移動した。
しばらく二人は宇宙空間を漂っていた。世津は
「本当にお別れしましょう」と言った。
するとケイは世津を抱き締めた。世津は無重力の勝手がわからず、力が入らない。
ケイは「愛している! 愛している!」と叫びながら泣いていた。無重力の宇宙空間に涙の粒が浮かんで漂う。ケイは
「お元気で」と言って世津を地球の世津の部屋の玄関に転送した。
世津は靴を脱ぎ、部屋に入って鏡を見た。虹色の水玉模様の銀色のワンピースは地球で着るには微妙かもしれない。鏡に映る自分の目元を見て、もらい泣きしていたのに気づいた。