プロポーズ
世津は若返った身体に慣れるにつれて、身も心も軽くなり、何でも出来るような気がしてきた。
悪かった膝も治り、今まで避けていた階段の多い場所へも気軽に行けて、登山へも行けそうな気がした。
若返った肌は瑞々しく、シミも消えて、スッピンでも十分美しくなった。いや、むしろスッピンのほうが美しいくらいだ。世津は美人というより可愛いタイプだが若返った今、健康的な美しさに輝いていた。
そんな若返った写真を撮って木村節子名義のパスポートを作り、心はもう世界一周クルーズへ旅立っていた。神山がわかってくれなくても一人でも旅立つつもりでいたが、神山に若返った経緯を説明しようと思い、ケイとのことを人前で話すわけにもいかないので「相談したいことがあるから」と自宅マンションに来てもらうことにした。
訪ねて来た神山を迎えドアを開けた世津を見た神山は爽やかな笑顔で
「こんにちは。世津さんのお宅ですよね。世津さんはご在宅ですか?」
「はい。私が世津です」
「はい?? そう言えば世津さんを若くしたらあなたみたいな感じですね。お孫さんがいるとは聞いてないけど親戚か何かですか?」
「詳しいことは中で説明しますので、中へお入りください」と世津は神山をリビングに通した。
世界各地のお土産が飾られているリビングを見て神山は「ブログの写真で見ました」と目を丸くしていた。神山が手土産で持ってきた和菓子店Fの芋羊羹を皿に取り分け、緑茶を濃いめに入れて世津と神山は向かい合った。神山は困ったように
「あなたは、さっきから自分が世津さんだと言っていますが、そんなことはありえません。一体どういうことですか?」
そこで世津は宇宙人ケイと自分との間に起こったことを説明した。
神山は意外と冷静に話を聞いてくれた。そして
「そうですね。あなたは世津さんだ! 僕がそうあって欲しいと思っていた世津さんそのものだ!」さらに
「僕が遅く生まれ過ぎたのか? 世津さんが早く生まれ過ぎたのか? 僕達二人を隔てる歳の差を恨めしいと思っていました。同じくらいの歳に生まれて一緒に年老いて行きたかったです。でも、その夢がかないました。一緒に年老いていきましょう。世津さん、僕と結婚してください!」
「プロポーズしてくれるんですか? とても嬉しいです。でもケイさんがどうするか気になります」
「どんなことにも困難なことはある。でもそれを一緒に乗り越えることが大切なんじゃないかと思います。世津さんとケイさんの相性が宇宙一でも、体質から分析した相性よりも大切なことはいくらでもあると思うんです。僕達の出会いのきっかけは何であれ、これから思い出を重ねていきましょう」世津は
「神山さんと私は相性もいいと思います。だって、この芋羊羹、私の大好物ですから。でもよくわかりましたね」すると神山は少し謎めいた顔をして
「ブログに書いてあったような気がしたんですけど、まぐれ当たりでも気に入ってもらえて良かったです。ところでプロポーズの返事はOKでいいんですね?」
「はい、喜んで。今度ケイさんが来たら、もう来ないでくれとはっきり言います」
「ケイさんは僕に近づくようにけしかけたのだから大丈夫ですよ。だから近づきましょう。例えばこんなふうに」
神山は世津に近づき、強く抱きしめるとキスした。そしてボーッとしている世津を残して帰って行った。