若返りの理由
ケイは世津の部屋に記者会見の一時間後に現れた。世津は何故自分を若返らせたのかを問い詰めた。ケイは
「理由は三つあります。僕が世津さんのことを諦めていないことが大前提ですが、まず一つ目は世津さんが地球への執着を捨てられないので、いっそ思い残しのないくらい地球を味わってもらおうと思ったからです。それにはまとまった時間が必要ですけど若返らなければ世津さんの寿命が終わってしまいます。僕の星の科学力でも死んだ人を生き返らせることはできませんから」
「二つ目は?」
「二つ目は人間型の生き物、まして寿命の短い地球人は歳をとるほど保守的になり故郷への執着が強くなるからです。若返れば地球外への好奇心も強くなり、僕と一緒に来てくれる可能性が高まると思いました」
「それじゃあ、三つ目は?」
「三つ目は異星人である僕が一番不思議に思う、地球人の奇妙な風習です。結婚は相性が一番大切なのだから広く相手を探すべきなのに、地球人は手近な職場や学校や近所で知り合った人と結婚する可能性が高い。幼馴染との結婚が多いのは異常な数値です。世津さんは幼馴染で病死してしまった初恋の人の面影を宿す、神山豊さんに惹かれているみたいですね。だけど、いっそもっと彼に近づいて、思い出を追うのは虚しいことだと気付いて欲しい」
「だけど、若返った私が、どうやって神山さんに近づくのですか?」
「本当のことを言えばいい。それでわかってくれないならそれまでの関係だ」
「だけどパスポートやいろいろな公共サービスで困ります」
するとケイは書類の束を出して
「これは失踪者の中で既に亡くなられている、身寄りのない28歳の女性の資料や証明書です。この人になりすませばいい」
世津は受け取り資料に目を通した。木村節子という若い女性の生年月日や経歴などが詳細に書かれており、木村節子名義の通帳や印鑑もあって、かなりの預金額があった。又、戸籍謄本や住民票、印鑑証明書、実印などもある。ケイは
「僕たち異星人は別に正義の味方の訳ではありません。地球へ潜入する時のことも考えて死亡した身寄りのない失踪者の資料も集めているんです」と言った。
世津はあまりいい気はしなかったが、他に方法がないので木村節子になりすますことにした。ケイと別れた後、木村節子の冥福を祈り、目を閉じて黙とうした。