宇宙散歩
世津がランチクルーズから自宅マンションに戻ると、ケイが部屋で待っていた。
世津は後ろめたい気持ちがして、少し目をそらした。ケイはせつなそうな顔をする。
「僕も世津さんと出かけたいけど地球では大騒ぎになってしまいますね」
ケイは何でも知っている。きっと今日のランチクルーズのことも何らかの方法で知っているのだろう。
「でもいいことを思いつきました。宇宙散歩に行きましょう!」
「そんなことどうやって出来るんですか?」
「この薬を飲んでください。宇宙空間でも大丈夫になります」
そう言ってケイは丸薬を差しだし世津に飲ませた。そして手を取ると瞬間移動した。
無重力の浮遊感を感じる。青い地球を目の前に世津とケイは宇宙空間に浮かんでいた。
茫然としている世津をケイは手を繋いだまま小刻みに瞬間移動して地球を一周してみせる。そして
「世津さんの好きな地球一周をしましたよ!」と言う。
世津はあまりの地球の美しさに泣き出しそうだった。そしてこの星を離れることは考えられないと思った。あの海をクルーズして思い切り味わいたい。それで世津は
「ケイさん、私は地球を離れられません」と言った。
世津とケイは夜を迎えイルミネーションで輝いている日本列島の遥か上空の宇宙空間を漂っている。
しばらく時が流れた。そしてケイは
「世津さん。あなたをこのまま、さらって行ってしまいたい!」
「ええっ?」
「そうだ! そうしよう!」
そして大きく瞬間移動して白い機能的な建物に到着した。
ケイは甘い芳香がするビンのようなものを世津にかがせた。
世津の意識が遠のいていく・・・。
気づいた時、世津は自分の部屋のベットに寝ていた。昨夜のことは夢だったのだろうか?
しかし、自分の手を見た時異変に気付いた。シワがない。
慌てて鏡を見ると、そこには二十代のような若い女性が写っていた。
ケイの仕業に違いない。こんなことをして私が喜ぶとでも思っているのだろうか? これからどうやって暮らしていけばいいだろう? ケイとのことがバレれば、静かに暮らしていけなくなるだけではなく研究対象にされてしまうかもしれない。
困惑しながらテレビをつけると、ケイが記者会見をやっていた。
目当ての女性が両親を看取ったら、一緒に来てくれることになったので、それまで故郷の星に帰ると話していた。
「それは本当じゃないと思うけど、それなら本当は何なの!」
世津はケイが現れるのを待つことにした。




