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横浜ランチクルーズ

 本のセットを格安で譲ってくれて、世津のブログの愛読者である神山豊にメールを出した。

 メールには、手紙を読んだこと。確かに世界旅行の記録はレシートや領収書、旅費計算の旅のお小遣い帳が中心になってしまったけど数字はいろいろなことを語ってくれること。現にさっき家計簿に書いた今回のオークション取引の出費五千円は自分のブログの読者との出会いを表していること。そして格安で本を譲ってくれたことに感謝し、お礼にナスカの地上絵の描かれた、しおりをお送りしますと書いて送信すると、すぐに返事が返ってきて、ナスカの地上絵のしおりは会って直接受け取りたいということだったので、会う日時と場所を相談した。

 初めは軽くお茶しながら会おうということだったのに、神山はせっかくだからと話をエスカレートさせ、株で儲かったから奢るから、今度の水曜日の昼、横浜港のクルーズ船で中華のコース料理を食べましょうということになってしまった。

 世津はナスカの地上絵のしおりの値段は10ドルだからそんな大げさにしないで欲しいと言ったが、神山は10ドルではなくてプライスレスで値段はつけられないと言って押し切った。


 約束の水曜日、世津は出かける前に、鏡で自分を写す。ふさふさした白髪はセミロングで童顔の世津は少女がそのまま年老いたような可愛らしいお婆ちゃんだった。

 かすり糸使い透かし編みのワイン系のチュニックに黒のパンツを合わせた。まだ日射しが暖かい十月初めの晴れの日にはこんな感じではないかと思う。

 神山とはクルーズ船の船着き場で待ち合わせしていた。神山は世津のことがすぐにわかったようだ。手を振りながら近づき爽やかな笑顔で

「こんにちは。今日は無理を言ってすみません」

「いいえ。クルーズ日和で気持ちがいいです。誘ってくれてありがとうございます」

「実は今日は折り入って相談したいことがあったのでゆっくり時間を取りたかったんです」

「こんなお婆ちゃんでよければ、何でも相談に乗りますよ!」

「それは心強いです。海を見ながら相談すれば問題は解決しそうです」

 世津は神山を見ているうちに心惹かれるものを感じた。決して宇宙人のケイのようなイケメンではないが、世津のかなわなかった初恋の人の面影を宿している。やや童顔で誠実そうで爽やかな感じだ。

 クルーズ船は出航した。世津と神山は、デッキで船がベイブリッジを潜るのを見届けてからテーブルについた。

 中華のコース料理のメニューは ・旬の味覚盛り合わせ前菜 ・干し貝柱入り五目フカヒレスープ ・伊勢海老のマヨネーズソース和え ・牛肉のオイスターソース炒め ・蓮の葉包み五目御飯 ・本日のデザート だった。

 食事しながら神山の身の上話が始まった。海がキラキラ輝いている。

 神山は幼い頃に両親を交通事故でなくした孤児だった。児童養護施設で育ち、奨学金で大学も行けたが天涯孤独の身に変わりはない。幸い投資の才能があって、今、まとまったお金があるので客船で三か月半の世界一周クルーズに出かけたいけど一緒に行く相手が見つからない。神山は

「それで、世津さんと一緒に行ければと思いました。いかがですか?」

「クルーズの世界一周は素敵ですね! でも一人ではダメなんですか?」

「一人部屋は高くついてもったいないです。それにこんなことを言うのは失礼ですが、世津さんの年齢を考えると、時間は貴重です。少しでも長く僕と一緒にいてください」

 世津は何だかドキドキしてきた。神山はそんな意味で言っているのではないだろうが、ドキドキさせられて恋に落ちてしまいそうだ。世津は

「考えておきます」と言った。

 別れる間際にナスカの地上絵のしおりを神山に渡すと

「大切にしますね。それではいいお返事をお待ちしています」と言って去った。

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