第一話:《東国の王》の後継者
「フッ……ハッ……フッ」
とある朝、穏やかな日射しが射し込む道場で、その日射しを浴びながら、俺――東条 真緒は日課である木刀の素振りをしている。
この日課は、修業だと言って俺の祖父である――東条 英正が俺の物心がつく前からやらせていることだ。
祖父は昔から、剣の修業のことではとても厳しく、何千回も泣かされた記憶がある。しかし、そのお陰で、今ではそんじゃそこらの奴らに負ける気がしなかった。
「真緒ちゃん、ご飯ですよ~」
「わかった、すぐ行くよ」
俺は素振りを止め、呼ばれた声に返事を返す。そして、汗を道場の近くにある井戸の水で流し、タオルで拭き、服を着替えてからその場へ向かった。
茶の間のテーブルには美味そうな三人分の朝食が並べられていた。
「おはよう~真緒ちゃん」
真緒ちゃんと俺の名前を呼ぶこの優しそうなオーラをだしている人は、俺の祖母――東条 鈴である。
「おはよう、婆ちゃん、ていうかちゃんは止めてよ、ちゃんは」
と俺はいつものように婆ちゃんに言う、俺はどうもちゃんとつけて名前を呼ばれるのが苦手だ、なんか女みたいで、名前も女みたいな名前だから、余計に恥ずかしかった。
「そうかい?可愛いと思うのにね~」
などと婆ちゃんと話していると、茶の間に爺ちゃんが入ってきた。
「すまん、遅くなった」
威厳のある声で茶の間に入ってくる爺ちゃんは、齢七十近くあるにもかかわらず、その肉体はまだ衰えを知らない、俺は自分ではかなり強くなったと思うがまだ爺ちゃんに勝ったことがなかった、とんだバケモノ爺さんだ。
「おはよう爺ちゃん」
「おはようございます。あなた」
「うむ、おはよう」
家族が揃ったところでいただきますの挨拶をし、やっと朝飯をたべる。
ついでに俺の家族は祖父と祖母だけ、父さんと母さんは俺が小さい頃に行方がわからなくなっている。それからずっと今まで俺を育てくれたのがこの爺ちゃんと婆ちゃん、なので俺はこの二人には頭が上がらなかったりする。
そして、朝飯を食べ終わった後、
「真緒…大切な話がある後で道場に来なさい」
「?」
「あなた…もしかして」
「ああ…そうだ」
爺ちゃんと婆ちゃんが何かについて話しだした。しかし、俺は何の話かわからず、首を傾げた。
「兎に角、道場に必ず来るのだぞ」
爺ちゃんはそれだけ言い残し、婆ちゃんを連れ茶の間を後にした。
その後、すぐに爺ちゃんの言った通りに道場へと向かった。
道場に着き中に入ると、道場の中央には正座で座る二人の姿があり、その姿はいつもと違う雰囲気を漂わせていた。
「来たか真緒、早くそこに座りなさい」
「あ…う、うん」
俺はいつもと違う雰囲気の二人に戸惑いながらも、言われた通りに二人の正面に座る。俺が座ったのを確認した爺ちゃんは話を始めた。
「これは大事な話だ。よく聞きなさい」
「うん」
「お前は《東国の王と七人の勇士》という伝説を知っているか?」
「そりゃ知ってるよ、有名じゃん」
この爺ちゃんが言っている伝説は俺達が住んでいる《東国》ではかなり有名で人気のある英雄伝説だ。俺もこの話は大好きで、小さい頃には寝る前によくこの話を婆ちゃんに聞かせて貰っていた。でも、この伝説と大事な話はどう関係あるのかわからなかった。
「うむ、ではこれは知らないであろう……儂たち東条家が《東国の王》の子孫だということを」
「…………………は」
俺は思考が一時止まった。最初は爺ちゃんが冗談を言ったのかと思ったが、爺ちゃんはそんな冗談は言わないので、つまり、
「えっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~本当に!?」
「うむ」
「本当よ、真緒ちゃん」
「でっでも、伝説ってただの作り話じゃ…」
「いや、作り話ではないこれは事実だ」
「そうよ」
そう断言する爺ちゃんと婆ちゃん、ってことは本当にそうなのであろう。俺は《東国の王》の子孫にあたるということを本当だと知り、俺は興奮した。
「マジかよ…なんで今まで話してくれなかったんだよ、こんな凄いこと!」
「…この日の為だ」
「この日の為?」
「ああ、そうだ、お前にこれまで厳しい修業をつけてきたのもすべてこの日の為だ」
どうやら今までの辛く厳しい修業はこの日の為のものらしい、どういうことなのだろうか俺にはさっぱりだった。
「そう…お前を立派な《東国の王》の後継者にする為だ」
「は」
またもやびっくりするような単語が爺ちゃんの口からさらりと出てきた。俺はまたも思考が止まった。
「いっ今…なんて言いました」
驚きすぎて言葉が敬語になってしまった。
「大丈夫かい、真緒ちゃん?」
いつもと違う言葉遣いに心配してくれる婆ちゃん、やっぱり婆ちゃんは優しいなぁといつもなら和む所だが、今はそれどころではなかった。
「ん?《東国の王》の後継者と言ったが、それがどうかしたか?」
「後継者…」
「うむ、後継者だ」
「だっ誰が」
「何を言っておるお前しかおるまい」
当たり前だと言わんばかりに言う爺ちゃん、そして、それを肯定するように笑顔で頷く婆ちゃん。
「何が何だか…俺が《東国の王》の後継者って…意味わかんねよ」
「そうなるも無理はない…だがお前には使命がある」
「使命?」
「そう…使命この世界を救うという使命がな」
「それってどういうことだ…世界を救うって今は平和そのものじゃねーかよ」
「ああ平和だ…だがもうすぐそうではなくなってしまうのだ…魔神の復活によって」
「なっ…魔神ってあの伝説に出てくる奴か!」
もし、それが本当なら話の中のように世界の危機だ、でも、魔神はたしか、
「でも、魔神って伝説じゃ《東国の王》と《七人の勇士》に倒されたって…」
「いや…本当は倒しておらん…あの時は封印を施したらしいのだ」
「そんな…でもなんでそんなこと知ってるんだ」
「それはの、おい婆さん」
「はい」
爺ちゃんに言われて婆ちゃんが立ち上がり、何かを取りにいった。すぐに婆ちゃんがいかにもといった風な本を持って戻ってきた。
「はい、あなた」
「うむ、すまない、真緒よこれが儂が魔神のことを知っていた理由のものだ」
そう言って見せられたものには、こう書かれていた。《東条の歴史》と
「なんだこれ?」
「それはな、東条家が代々受け継いできたものだ。その中にさっき言ったことが書かれていたのだ」
「そうなのか…じゃあ魔神が復活するって…クソどうしたら」
「そこでお前の力が必要なのだ」
「俺の…力?」
「そう…お前の《東国の王》の後継者としての力だ。それを覚醒する為の条件…それは」
「覚悟だ…魔神と戦う覚悟、そして、世界を救う覚悟だ」
「…覚悟」
いきなりそんなこと言われても俺はどうしていいかわからない、でも、俺がなんとかしないと魔神が復活し世界が大変なことになってしまう。
俺の力で世界を守れるのだとしたら俺は、その時燃えるような感覚を覚えた。
「…俺は!」
右手の甲が熱くなってくる、まるで俺の気持ちに呼応しているかのように、その熱はさらに熱くなってくる。
そして俺は決意する。
(俺は守りたい!この平和な日常を!)
俺が心の中で叫んだ次の瞬間、熱を持った右手の甲が光りだす、しばらくして光がやむ、今まですごく熱かったのにそれが嘘のように熱が引いていた。しかし、俺の右手の甲には見知らぬ刻印がついていた。
「なんだよこれ!」
俺は突然現れた刻印に、驚きを覚えた。
「大丈夫だ真緒、それこそが後継者の証であり、覚醒した証拠だ」
「これが…そうなのか?」
俺はその刻印をまじまじと見つめる。その刻印からは聖なる力が溢れ出ている俺はそう感じる気がした。
「真緒よくぞ覚悟を決めたな、これでようやく旅立つ準備が整ったぞ」
「えっ旅立つ?」
「そうだ…お前はこれから魔神の復活に備えてやらないといけないことが二つある。その為に旅をしなければいけないのだ」
「やらないといけないって何するんだ?」
「うむ、一つは旅を通し己を磨くのだ、覚醒をしたからといってもお前はまだ未熟、修業の一環だと思え」
どうやら、後継者になっても、爺ちゃんから見たらまだ未熟者らしい、いつになったら一人前として認めてくれるのやら先は長い。
「そして、二つ目これはとても重要なことだ…」
「そっそれって一体…」
「…それは旅の中で、お前の《七勇士》を見つけるのだ!」
こうして俺は、魔神の復活を阻止する為、魔神を一緒に倒す《七勇士》を探す旅に出ることになったのだった。
次も見てくれたら幸いです。