父の遺品整理
「お父さんの荷物を片付けようと思うの」
朝、食卓につくと、母がおもむろに口を開いた。
「お父さんの?」
「うん、そう」
父の葬式が終わって、ようやく一息ついたところなのだからもう少しゆっくりしてからでもいいんじゃないか。
そんな思いが胸をよぎったものの、母の穏やかな表情にその言葉を飲み込んだ。
「いいと思う。私も手伝うよ」
私がそう告げると、母は嬉しそうに口を綻ばせる。
「ありがとう」
それはとても優しい声色だった。
早速父が使っていた部屋に入ると、そこは父が生きていた頃と何も変わっていない。
手つかずなのだから当然だろう。
「何か欲しいものはある?」
母の問いかけに私は首を横に振る。
それを見た母は、「そう」とだけ呟くと、タンスの引き出しを開けて中にあった父の衣服をビニール袋に詰め込んでいく。
私もそれを手伝う。
父がよく休日に着ていたトレーナーや下着、靴下などが詰め込まれて、どんどんとビニール袋が膨らんでいく。
私も母も男物など必要ないから容赦ない。
仕事に着ていったスーツやカバン、観光地のパンフレットなんかも処分していく。
それから、父が好きだったドラマや映画のDVDに、結局ほとんど読んでいるところを見かけなかった様々な学習書も片付けていった。
売れば多少なりともお金になるのではと母に聞けば、二束三文にしかならないみたいなのよと返ってくる。
「もっとお金になるようなものを残して欲しかったわ」
そう愚痴を言う母に私も苦笑して同意した。
大きな荷物はまた後日ということで、他の場所も片付けていく。
父の靴に傘、食器など。
どんどん、どんどん捨てていく。
「これも処分しようと思うの」
そうして最後に母が持ってきたのは、数冊のアルバムだった。
「お父さんが写っているものだけ捨てるの?」
「ううん、それ以外もちゃんと捨てるのよ」
母はカッターを片手にアルバムから父が映っている写真を引っ張り出す。
父が一人で写っているものはそのままゴミ袋へ。家族旅行の写真は、父の姿だけを四角く切り抜いていく。
例えどんなに写っている父が小さくとも、母は決して見逃さない。
丁寧に、丁寧に、父の顔だけが切り落とされていった。
サク、サク、と静かで鋭利な音だけが部屋に響く。
そうしてとうとう、父の写真というものは本当に全部消え去った。
「ふう……やっと終わったわ」
「お疲れ様」
私が労いの言葉をかけると、母は少女のように嬉しそうに、にっこりと笑う。
その笑顔に、私も嬉しくなった。
真面目な仕事人だと思っていた父が外で女を作り、その女と旅行先で事故死したと知った時は頭が真っ白になったが、これで心機一転できるというものだ。
これでもう、この家にあの男がいた痕跡はどこにも残されていない。
あるいは、これが母なりの父への復讐なのかもしれない。




